読みたくなる文章の秘密『文芸オタクの私が教えるバズる文章教室』三宅香帆


 俺はキーボードを打つ手を止めた。打ち込まれていた文字の羅列が寝不足の視界の中で歪んで見える。

 

 

 これで、いいのか。どこか陳腐ではないか。いや、しかし、これで正しいような気も。どうだろう。どうなのだ。

 

 

 自問自答の末に、俺は数時間かけて書いた文字をまとめて削除した。どうにも面白みのない文章に思えてならない。

 

 

 こんな様では、誰も俺の文を見てはくれないだろう。俺はぼさぼさの頭をがりがりとかき乱す。

 

 

 頭の中でいくつもの文字が渦巻いていた。しかし、そのどれもが取るに足らないものに見えてしょうがなかった。

 

 

 仕事をやらせようとしてくる親の小言から逃げるように家を飛び出して数か月、文章で生きていこうと心に決めたはいいが、俺の心は現実の前に屈しかけていた。

 

 

 書いても書いても見てもらえない。打ち込んでも撥ねない、まるで水の中に石を投げ込み続けているような不毛が我が胸中を埋め尽くしている。

 

 

 最初は潤沢であった生活費も見る見るうちに少なくなり、もはや生活していくのすら精いっぱいだ。日給のバイトで食いつなぐのも限界が近づいていた。

 

 

 もはや、これまでか。俺は夢を諦めて働くしかないのだろうか。心の深奥でどうにか蓋をしていた疑惑が途端に溢れてくる。

 

 

 頭の中が沸騰したように熱くなり、俺は逃げるように外に出た。服屋のショーウィンドウに映る覇気のない男は、さながら幽鬼のようにも見えた。

 

 

 気がつけば、俺は本屋にいた。普段から訪れることの多い、行きつけの場所である。いつ辿り着いたのかすらわからなかった。

 

 

 足を踏み入れると、無数の文字が俺を迎えた。普段は温かい歓迎が心地よいが、今の俺には文字を見るだけでも頭に響く。

 

 

 俺は頭を抑えながらあてどなく店内を歩いた。吐き気がこみ上げてくる。視界が回っているかのようだ。

 

 

 ふと、目の中で回る文字の中で、ひとつのタイトルが目に止まった。薄らいでいた文字が明確な輪郭を成していく。

 

 

 それはビジネス書である。『文芸オタクの私が教えるバズる文章教室』と書かれていた。

 

 

 俺は縋る思いでその本を手に取った。文字の海に溺れる俺には、それが救いの藁のように見えたのだ。

 

 

人を楽しませる文章を!

 

 俺は読み終わった本を閉じた。今まで雑然としていた視界が、霧が晴れたかのように明朗になっている。

 

 

 暴れまわっていた文字があるべきところに納まっていた。もう、彼らが俺を傷つけないであろうことがわかる。

 

 

 いや、最初から文字は俺を傷つけてはいなかった。俺の視界が勝手に文字を怪物のように見せていただけなのだ。

 

 

 彼らはいつだって俺に教えてくれていたのに。耳を塞いでその声を遠ざけていたのは、他ならぬ俺だったのだ。

 

 

 俺の胸中に、先までの雑念はきれいさっぱりなくなっている。生まれ変わったような清々しい気分だった。

 

 

 足早に帰路につく。俺の心にはただ文章を書きたいという欲望だけがあった。

 

 

 書いても書いても芽吹かない現実と迫り来る金銭的危機が俺の初志を隠していた。それがあの本によって晴らされたのだ。

 

 

 そもそも、俺はなぜ文章で生きていこうと思ったのだったか。親の敷いてくれたレールを拒否してまで。

 

 

 一山当てようと思ったわけではない。金が欲しいと思ったわけでもなければ、名声を求めたわけでもない。

 

 

 俺はただ、自分の文章を楽しんで読んでもらいたいと思っていただけなのだ。そのことを、いつしか忘れていたように思う。

 

 

 まったく、文章家として一番大切なことを忘れるとは、恥ずかしい限りである。羞恥で顔から火でも吹きそうなくらいだった。

 

 

 頭の中で文字がぐるぐる回る。今では、それが早く書いてくれと駄々をこねているだけのように思えた。

 

 

 文字は敵ではない。我が手によって生み出される、愛おしい我が子のようなものだ。

 

 

 机に向かうと、俺の頭の中に次々と文章が浮かび上がってくる。俺の指は今まで動かないでいたのが嘘のように、滑らかに動いてキーボードを叩く。

 

 

 文章を書く楽しさ。ああ、そうだ。文章を書くのは楽しいのだ。どうして忘れていたのだろうか。

 

 

 俺の口角が自然と持ち上がる。打ち込んだ文字を眺め、俺はエンターキーを勢いよく叩いた。

 

 

わかりやすい解説と例題でバズる文章を紹介

 

 ”バズる”というと、「爆発的に広まること」「たくさんの人に認知されること」という意味で使われます。

 

 

 しかし、この本では「一時的に大きな拡散を狙うためのテクニック」を紹介するわけではありません。

 

 

 1、(文章の終わりまで読もうかな)と思ってもらう。

 

 2、(この人いいな)と思ってもらう。

 

 3、(広めたいな)と思ってもらう。

 

 

 この本の目的はそんな文章が書けるようになることです。

 

 

 バズることを狙ったわけじゃないのに、バズったのはなぜか。

 

 

 それは文章の内容や記事の価値について悩まずに、読者に楽しんでもらって好感を持ってもらおうと工夫していたから。

 

 

 バズることを目的としてバズっても、中身を伴わなければ一過性のもので終わってしまいます。

 

 

 そうさせないためには、みんなに好きになってもらえる文章を書けるようになることが一番の近道でしょう。

 

 

 何より必要なのは「どうすれば読み手に楽しんでもらえるか」という視点なのです。

 

 

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