衝撃の問題作『おにぎりスタッバー』大澤めぐみ
「恋愛したい」
「恋愛したい」
僕はペンを持ったまま、動けなかった。机の上に置かれた進路希望調査票。その欄の中は、まだ空白のままだった。
一生のうちにあるかないか、人は時として、後の人生を決定づけてしまうような出会いをすることがある。
智に働けば角が立つ。情に掉させば流される。さて、これは誰の言葉だったろうか。
広島の平和記念公園には、ひとりの少女が大きな祈りの鶴を抱えて立っている。見上げれば、原爆ドームが悠然と眼下を見下ろしていた。
今、アメリカは熱狂している。ジョー・バイデン氏とドナルド・トランプ氏。新たな時代が再び、始まろうとしていた。
私は誰もいないホールに、ひとりで座っていた。開幕のブザーが鳴り響き、幕が上がる。進んでいくストーリーを、私だけがただ、見つめている。
甲高い泣き声が頭に響く。それはまるで、私に向けた糾弾であるかのようだった。ああ、もう何度、この愛する我が子を憎らしく思ったことだろう。
「ホルモーおもしろいよねぇ」
はぁ、と、思わずため息が零れた。最近、肩こりがひどい。ストレスかな。仕事の疲労がずっと残っているような気がする。