一枚の絵画の裏にある物語を見つめる原田マハ先生のアート小説3作品まとめ
絵画が立ち並ぶ通路を、私は辺りを見渡しながら歩いていた。美術にあまり造詣が深くない私でも、知っているような有名な絵ばかりだ。
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絵画が立ち並ぶ通路を、私は辺りを見渡しながら歩いていた。美術にあまり造詣が深くない私でも、知っているような有名な絵ばかりだ。
その男は、絵画の中からこちらを見つめている。彼の名を、フィンセント・ファン・ゴッホといった。
「私は子どもの頃、大人よりも上手く絵が描けた。だが、子どものような絵を描けるようになるには、50年かかった」
ピカソの『アヴィニョンの娘たち』を見た時、首を傾げたのを今でもはっきりと覚えている。
一生のうちにあるかないか、人は時として、後の人生を決定づけてしまうような出会いをすることがある。
絵の具だらけの床に倒れ伏したカンバスを、私は思いきり踏みにじった。鮮やかな色彩が足跡で醜く汚されていく。
道行く木立の葉の隙間から日の光が射しこんでいる。葉に溜まった朝露の残り香が明かりを浴びて輝いた。