歌舞伎を通して見る女の姿『女を観る歌舞伎』酒井順子
女を観る歌舞伎。しかし、歌舞伎の舞台上に女はなし。何せ、歌舞伎っちゅうのは女人禁制だと決められとる。ならば、そこに女を観るとはどういうこと...
入館ありがとうございます。ごゆるりとお寛ぎくださいまし。
女を観る歌舞伎。しかし、歌舞伎の舞台上に女はなし。何せ、歌舞伎っちゅうのは女人禁制だと決められとる。ならば、そこに女を観るとはどういうこと...
――チョイト、そこな道行く若旦那。一体どうしたってんだい、そんな辛気臭い顔してサ。オイオイ、水臭ェなあ。俺で良けりゃあ悩みのひとつや二つ聞...
けえる、けえるよ……ほうら、けえたら、死ぬぞ……けえる、けえる……ひひ、ひひひ……そんなに震えたら、けえるぞ……けえ、た……。
白く塗った顔に、赤い奇妙な文様を描き込んた男が、瞳を寄せた不思議な表情で演技し、片手を突き出し、片足を挙げた歩き方をする。私の中での歌舞伎...
幼い頃、何かの映画で観た、顔の恐怖が今も、私の脳髄には深く刻まれている。額には角、口は大きく吊り上がり、牙が覗いている。その鬼のような表情...
トザイトウザイ、一座、高うはござりまするが、不弁舌な口上な持って、申し上げ奉ります……。従いまして、従いまして、かくも賑々しくご見物の皆様...
私は誰もいないホールに、ひとりで座っていた。開幕のブザーが鳴り響き、幕が上がる。進んでいくストーリーを、私だけがただ、見つめている。
変身願望、というものがある。自分ではない他人になってみたいというものだ。