予言の通りに人がいなくなっていく『魔眼の匣の殺人』今村昌弘


ああ……ようこそ、いらっしゃいました。先に料金の方を……おや、占いではないので? では、どういったご用件で当店にいらしたのでしょう。

 

……予言者は、本当に実在するのか、ですか? うふふ、疑い深い目をしていらしたので相談ではないのだろうと思いましたけれど、それを『予言者の館』なんて店の看板を掲げた本人に聞くというのも中々……。

 

いいでしょう、お答えします、私なりに真摯に。と言いましても、私自らが『予言者は私です』なんて言ったところで、あなたは信用しないでしょうね。

 

というわけで、ここらでひとつ……少しばかり遠回りをしてみましょうか。何の関係もない、小説の話ですよ。いわば雑談ですね、うふふ。

 

『魔眼の匣の殺人』という作品をご存知? 有名ではあるのですけれど、まあ、シリーズの二作目ですから知らなくても何ら恥ずかしいことではありませんが……。

 

ミステリなので大筋はある程度伏せさせていただきます。ミステリ愛好会の葉村は、素晴らしい推理力を持った探偵の剣崎とともに、とある山中の村に行くのですけれど……。

 

その先で彼らは、他の何人かとともに館から出られなくなり、閉じ込められることとなります。ええ、まあ、クローズドサークルの定番ですね。

 

さて、そこには「サキミ」と呼ばれているひとりの老婆がおりました。彼女は予言者で、今までもいくつもの予言を的中させてきたのだそうで……。

 

そんな彼女がある予言をするのです。『あと二日のうちに、この地で男女が二人ずつ、四人死ぬ』とね。

 

……その予言は実現したのか? それを言ってしまったらネタバレになるじゃないですか。この続きは、どうぞご自分で……。

 

ふふ、まあ、そう怒らず。言ったじゃないですか、これはあくまでも雑談です、と。……さて、ここからが本筋、雑談の本筋なのですけれどね……。

 

私自身も予言者ながら、どうもこう、死の予言というのが好きではないのですよ。……ええ、そうなんです。

 

いえね、だって、たとえば「二年後に死にます」とでも予言するとしましょう。ですが、その正解は、どうやって確かめるのです?

 

もしも、その予言が実現しなかったら。予言者は「あなたが事前に未来を知り、行動できたから未来が変わった」と言えばいい。逆に、実現したら? その依頼人の方はもはや予言者に何も言うことはできません。

 

ようはね、ずるいんですよ、やり口が。そんな予言、どっちに転んでも予言者自身はいくらでも言い訳ができる。こんなやり方をしている人たちが絶えないのだから、全てがインチキ呼ばわりされてしまうのです。

 

……ええ、そうです、あなたが先程見てもらった占い師のように、ね。「あなたは近いうちに命を落とすでしょう」と、その予言を信じたくないがために、必死でその方がインチキだと思い込もうとした。違いますか?

 

何で知っているのかって? うふふ、だからあなたは私のもとに来たのでしょうに。予言者は未来を見通すわけですけれど、それだけじゃないんですよ。

 

未来はやがて現在に追いつき、そして過去へと過ぎ去っていく。それらは別々ではなく、地続きなんです。だから、私はあなたの全てを知っています。

 

……結論から申し上げましょう。その占い師は本物です。とはいえ、あまり優秀ではないようで。未来が具体的に見えていませんからね。

 

……ええ、そうです。あなたは死ぬでしょうね。その占い師は、「近いうちに」と言った。ですが、「近いうち」とはいつか……。

 

ええ、より具体的に知りたいというのなら、教えて差し上げますよ。あなたは今から十二秒後に命を落とします。

 

ああ……ほらね。

 

 

予言

 

剣崎比留子殿。前略、年明けの挨拶もろくにできず失礼した。そちらは変わりないだろうか。予定よりも報告が遅れたことは諒恕いただきたい。半年前とは事情がまるで変ってしまった。

 

昨夏の、貴殿も巻き込まれた娑可安湖集団感染テロ事件。あの一件により、抹消されたはずの班目機関なる組織の研究内容がどこかに秘匿されている可能性が浮上し、公安も警戒を強めているのだ。

 

事件以降連絡が取れないという貴殿の友人の情報はまだなく、公安の仕業とは断言できない。が、班目機関について徒に嗅ぎまわるべきではないのは確かだ。

 

だというのに、今回の事件。

 

貴殿はよほど班目機関と縁があるようだ。調査を進めていくうちに分署とも呼ぶべきいくつかの研究施設が存在していたことがわかった。それぞれの施設ではテーマの全く異なる研究を行っていたようだ。

 

そのうちのひとつがあったのが、今回貴殿らが巻き込まれた事件の舞台、W県―郡旧真雁地区である。すでに一帯は公安に捜索し尽くされ、めぼしい手がかりは残っていない。

 

しかし幸運にも二十年前まで旧真雁地区の近隣に住んでいた人物を探し当てることができた。本人はすでに亡くなっていたが、ご遺族の了承を得て遺品の日記帳に目を通すと、ある興味深い記述を見つけた。

 

それは今回の事件で貴殿らが掴んだ情報の真実性を裏付けるもの――旧真雁地区の施設で、かつて超能力研究が行われていたという内容である……。