妄想を楽しむ男たちの阿呆物語『太陽の塔』森見登美彦
私は由々しき問題に直面していた。私は不本意ながら彼女に懸想している。しかし、あろうことか、彼女は私を想っていないようなのである。
入館ありがとうございます。ごゆるりとお寛ぎくださいまし。
私は由々しき問題に直面していた。私は不本意ながら彼女に懸想している。しかし、あろうことか、彼女は私を想っていないようなのである。
「こんにちは、と」 私はキーボードでチャットに文字を打ち込んだ。最初の頃はたどたどしかった指の動きも、今は流れるように文字を打て...
私は扇風機の前にその身を横たえた。棒付きのアイスをシャリシャリかじりながら、畳の静かな香りを嗅ぐ。
「なあ、君、恋慕とは罪だ。そうだろう?」
「まだ結婚しないの?」 母からの結婚の催促も、もう聞き慣れたものである。私は良い相手がいないものだからと断った。
幼い頃の私が愚鈍であったことを、私の今の姿から想像することは到底できないだろう。
「『少女地獄』という小説を読んだことがありますか?」
「乾杯」 チン、と金属質の高い音が鳴る。隣に座る美女はグラスを持ったまま、私の顔を見て微笑んだ。
私は本を読むふりをしながら教室で騒ぎ立てる同級の輩を冷ややかな視線で見つめる。彼らの間抜けさ加減には呆れるばかりである。
絵の具だらけの床に倒れ伏したカンバスを、私は思いきり踏みにじった。鮮やかな色彩が足跡で醜く汚されていく。