決して諦めない『ゴールデンスランバー』伊坂幸太郎
「お前、オズワルドになる気はないか?」
入館ありがとうございます。ごゆるりとお寛ぎくださいまし。
「お前、オズワルドになる気はないか?」
「『ガリヴァー旅行記』って知ってるか」
「電車の中ってのは密室みたいなもんだよな」
「『モダンタイムス』って知ってるか。伊坂のじゃないぞ。チャップリンの。ほら、あの歯車でくるくるするやつ」
「さて、この物語の、誰が一番の悪だと思う?」
「あと三時間で世界は終わる。さて、君ならどうするだろうか」
私は椅子に座って本を読む老人に、ちらちらと視線を寄越す。上品なベージュのコートに袖を通し、背筋をぴんと伸ばしたその姿は小さな本屋にはあま...
私の人生は一枚の絵画から始まった。その絵画を見た瞬間、私の今までの人生はまったくの無意味なものとなったのだ。
家族といえど、もとは知らない男と女。家族の間にも、決して明かせない秘密というものは一つや二つはあるものだ。
カーテンを開けると、灰色の曇り空がどんよりと重くのしかかっていた。雨こそ降っていないが、もう少しすれば小雨でも降りそうだ。