名女優の心に刺さる言葉『一切なりゆき』樹木希林


 樹木希林、という女優さんが亡くなったことを、私は当時、ニュースで知ったのです。

 

 

 正直なところ、私はあまりドラマや邦画を見ない子どもだったので、名女優だとは知っていても女優としての樹木希林さんをあまり知りません。

 

 

 私の樹木希林さんの印象は、『林檎殺人事件』を、郷ひろみさんとデュエットをしている姿でした。

 

 

 映像の中では今やカッコイイ壮年男性となっている郷ひろみさんも、隣で踊る樹木希林さんもとても若かったことを覚えています。

 

 

 生前の彼女がとても破天荒な方だった、という印象は、夫である内田裕也さんと一緒に出ている映像を見たことがきっかけでした。

 

 

 内田裕也さんもまた、かなり色濃いと言いますか、一度見たら忘れられないような人柄です。

 

 

 樹木希林さんと内田裕也さんが夫婦だと知った時は驚いたものですが、それ以上に「濃い夫婦だなぁ」と思いました。

 

 

 とはいえ、私が樹木希林さんについて知っていることなんてその程度のことで、彼女の長い人生を思ってみれば、何も知らないのと同義とも言えるかもしれません。

 

 

 それまではただの「テレビでたまに見る人」だった彼女の存在が、私の中で確かな輪郭を持ったのは、樹木希林さんが亡くなった時でした。

 

 

 彼女のことをまるで知らなかったにもかかわらず、私はどうしてだか、少し哀しくなったのを覚えています。

 

 

 まさしく「終わりから知った」というわけですね。私が樹木希林さんの本を読んだのは、その人生を知りたいと思ったからです。

 

 

 『一切なりゆき』。それは、樹木希林さんの言葉を集めた名言集、といったところでしょうか。

 

 

 ですが、そこには、時代を代表する名女優の生き様が、ありありと描かれていたのでございます。

 

 

 その本を読み進めていくうちに、今まで輪郭だけだった私の中の樹木希林さんの像に肉付けがされていくような、そんな感覚がしました。

 

 

 何より驚くのは、彼女がどれほど「自分」という確固とした柱をずっと崩さずに抱えていたことです。

 

 

 世の中というものは、どうしても社会が優先されがちで、個人の考え方を押し通すのはあまりにも生きにくいのです。

 

 

 しかし、その中で、樹木希林さんは何者にも染まらない「自分」を保ち続けました。これって、とてもすごいことだと思うのです。

 

 

 ましてや、女性にとっては今よりもはるかに生きにくい社会だった時代を生きていたのですから、なおさら。

 

 

 常識がない、のではなく、常識を知っているうえで、それでもなお「自分」の意志を貫いているのです。

 

 

 楽な方へ、逃げることは簡単です。自分を諦めてしまえばいい、人と合わせて生きさえすれば、どれほど楽なものでしょう。

 

 

 彼女は女優。「普通の女性」の役だって、日常でも演じることができたはずなのです。だって、あれほど多くの女性を演じてきたのですから。

 

 

 けれど、彼女は役に呑まれることなく、「樹木希林」であり続けました。私はそんな彼女の人生を、心から尊敬します。

 

 

 彼女の言葉が、どうしてこれほどまでに心をつかむのか。

 

 

 作中の『それが樹木さんの生き方そのもの』という言葉に付け加えて、それが「樹木希林さん自身」の生き方そのものだから、でしょう。

 

 

 彼女の生き方から、何を学ぶべきなのか。それを知っているのは、本を開くあなた自身しかいないのです。

 

 

名女優の生き様

 

 2018年9月15日、女優の樹木希林さんが永眠されました。

 

 

 ドラマでの暴れっぷりや、貞女のような母親役、とぼけた姿。数々の映画やテレビCMで演じてみせた老人の姿は、やはり素晴らしいものでした。

 

 

 樹木さんは弱冠20歳のときに、名優、森繫久彌氏によってその才能を見出されます。勝新太郎氏や北野武氏から絶賛されたほどの名女優でした。その演技は年を経るごとに研ぎ澄まされていった感があります。

 

 

 その一方で、ご主人であるロックンローラー内田裕也さんの存在を忘れることはできません。型破りな夫婦生活は40年以上にも及びましたが、その夫婦関係は樹木さんに内省を強いたのかもしれません。

 

 

 樹木さんは活字において、数多くの言葉を遺しました。語り口は平明で、ユーモアを添えることを忘れないのですが、実はとても深く、そしてポジティブです。

 

 

 彼女の語ることが説得力を持って私たちに迫るのは、それぞれの言葉が樹木さんの生き方そのものであったからではないでしょうか。

 

 

 樹木さんの警句や名言の山を集めた本書は、樹木流生き方のエッセンスでもあるのです。

 

 

 『一切なりゆき』は、樹木さんが生前、色紙に書いていた言葉、「私の役者魂はね、一切なりゆき」から選びました。

 

 

 読者諸氏においては、噛むほどに心に沁みる樹木さんの言葉を玩味していただけたなら、それに勝る歓びはありません。

 

 

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