伝説の経営者の光と影『スティーブ・ジョブズ 神の交渉力』竹内一正


「あれ、お前、いつの間にスマホ変えたの」

 

 

 きょとんとしていた彼女は、ああ、言ってなかったっけ、と納得したような声を上げて頷いた。

 

 

「そうなの。せっかくだからiPhoneにしてみた」

 

 

 規格が共通しているならバージョンアップしても問題ないっしょ。彼女はそう言って笑う。

 

 

 彼女の以前のスマホはもはや使えなくなってしまった。故障とかではない。充電器やスマホ自体が型落ちで、修理できなくなったのだ。

 

 

 彼女はそのことで落ち込んだらしく、今度はiPhoneに変えたとのことだ。賢明な判断だろう。

 

 

「でもさ、すごいよねぇ」

 

 

「ん、なにが?」

 

 

 彼女はストラップをぷらぷらさせて、言う。新しいスマホが彼女の目の前で揺られていた。

 

 

「いや、だってさ、つい少し前は携帯ってアレだったじゃん。ほら、あの、パカパカするやつ」

 

 

「ガラケーな」

 

 

「そう、それ。つい少し前はそれが普通だったのにさ、今じゃガラケー呼ばわりだよ。ガラパゴス。遅れてる、なんて皮肉られてさ。携帯からしたらやってらんないよね」

 

 

 彼女は拳を握って力説する。なぜかガラケーの立場になっているらしい。想像力豊かと言えば聞こえはいいけれど、ただの変人だ。

 

 

「誰がスマホを創ったのかな」

 

 

「スティーブ・ジョブズ」

 

 

「……誰?」

 

 

 彼女は首を傾げた。

 

 

「ほら、結構前に話題になったじゃん。舞台の上で、シャツとジーンズで話してた、眼鏡に髭の」

 

 

「ああ、あのちょっとイケてるおじさんね」

 

 

「お前、ああいうのが好きなのか。まあ、そのおじさんがスティーブ・ジョブズだ。iPhoneで世の中を変えた人」

 

 

 彼女は首を傾げる。

 

 

「随分と熱く語るね。好きなの、その人」

 

 

 そう聞かれて、僕は答える。正直に言うと、最近になってちょうどスティーブ・ジョブズのことを書いた本を読んだばかりなのだ。

 

 

 『スティーブ・ジョブズ 神の交渉力』というタイトルだ。随分と大仰なタイトルだけれど、読んでみると、まさしくその大言壮語も頷けるものだと感じた。

 

 

 彼の人生はそれほどまでに劇的で、どんな無理でも押し通す彼の交渉力はたしかに神業とも言えるだろう。

 

 

「ねえ、どんな人なの? そのスティーブ・ジョブズって」

 

 

「彼は」

 

 

 僕は本の内容を思い出しながら答える。彼の成し遂げた偉大な功績と、そして悪魔的な性格を。

 

 

偉大な人物の裏表

 

 スティーブ・ジョブズはただiPhoneを創った人ってだけじゃない。いろんな功績を遺したんだ。

 

 

 君も持っているiPhoneを創った会社はアップル。この会社を設立したのがジョブズだ。

 

 

 けれど、彼はなんと、自分が創った会社を追い出されてしまう。しかも、自分が才能を見出して会社に招いた人に。

 

 

 ひどいって? でも、それはジョブズに原因があったんだ。性格がひどかったからな。

 

 

 暴言を平気で吐き出すし、社員を突然解雇することもあったらしい。自分勝手な性格で、常に自分が中心に世界が回っていると本気で考えているような人だった。

 

 

 でも、そんなジョブズを追い出した後のアップルは、次第に勢いを失くして、衰退していったんだ。経営も怪しくなっていた。

 

 

 アップルを立て直したのは、再び会社に返り咲いたジョブズだと言われているね。ほんの短い期間で、彼はアップルの勢いを再生させたのだ、と。

 

 

 うん、すごいよね。でも、それだけじゃない。お前、『トイ・ストーリー』って知ってるよな。

 

 

 そう、その映画を作ったのはピクサーだ。CG技術で名を挙げてきたアニメーション会社だな。

 

 

 関係ない? そんなことはないさ。なにせ、その会社を『ピクサー』と名付けたのは、当時、アップルから追い出されたジョブズなんだから。

 

 

 知っての通り、ピクサーは今や誰もが知る大手のアニメーション会社に成長している。その始まりにはジョブズがいたのさ。

 

 

 うん、すごい人だよな。パソコンを流通させて、iPhoneを生み出した。今では誰もが普通に思っている世の中は、ジョブズがいないとありえなかったかもしれないんだ。

 

 

「でも、なんだか、気に入らないって顔をしているけど」

 

 

 割り込んできた彼女の言葉に、僕は肯く。自覚はあった。僕はその、世間が大好きな「成功」がどうにも嫌だったのだ。

 

 

 どうして? それは、僕が彼の真骨頂はアップルやピクサーで大成功を収めた時じゃなく、アップルを追い出された期間にあると考えているからだ。

 

 

「ジョブズはアップルを追い出されて、全てを失った。けれど、諦めなかった。当時はまだ無名だったピクサーを買収して、ネクストという会社も創った」

 

 

 でも、これは成功しなかった。ピクサーはディズニーの猛威に晒されていたし、ネクストも芽が出なかったんだ。

 

 

 誰もが目を向ける輝かしい時代じゃなく、この時代はいわばジョブズの暗黒時代だね。ジョブズは二つも経営難の会社を抱えていたんだから。

 

 

 普通の人なら、こんな状況になれば諦めてしまうんじゃないかな。でも、ジョブズは諦めなかった。不屈の闘志で立ち上がったんだ。

 

 

 もしも、ジョブズが優れた人だっていうのなら、この決して諦めない姿勢にあると思うんだ。

 

 

  たしかに彼は交渉術に関しては恐ろしいほどの才能を持っていたよ。でも、それだけじゃあ、彼は成功することはできなかったんじゃないかな。

 

 

 彼を成功に導いたのは、成功するまで諦めなかったからだ。そして、それは彼だけができることってわけじゃない。誰でも諦めなければ、できることなんだよ。

 

 

現代に生まれた伝説の経営者

 

 人を惹きつける強烈な求心力。人から「ないもの」さえ引き出す独創性。人を情け容赦なく圧殺する君臨性。

 

 

 スティーブ・ジョブズが「神」なのは、業績が神がかりだからだけではない。ジョブズの鋭利な個性が、凡人の想像を嘲笑うごとく超越しているからである。

 

 

 二一歳でパソコンメーカーのアップルを創業し、二五歳で大富豪となった。iPodはライフスタイルを変え、ピクサーは興行成績を塗りかえ、iPhoneを生み出した。

 

 

 しかし、そんな光が強ければ強いほど、光がつくる影も色濃くなる。輝かしい成功の裏を見れば、恐ろしく自己中心的で、すべてを自分ひとりで決める独裁者のジョブズがいる。

 

 

 だが、世にないものを生み出す人物は、そもそも万人に愛される好人物ではないのだ。正邪両面を持つことが必要だ。

 

 

 そして、運がよい人だけが成功を手にするのではない。ピンチを乗り越えようとする強い意志を持つ者が道を切り開く。

 

 

 ジョブズの道を開く武器は交渉力であった。彼の交渉力は、味方には百万の勇気を与え、敵には恐怖の嵐を起こす。策略は神のように大胆で、非常識さは悪魔のようだ。

 

 

 世間は、過去を美化したがる。だが、ジョブズほど両極端な人生を歩んだ者はいない。

 

 

 ピンチの谷底から栄光の頂点へと駆けあがり、また転落しては復活する波乱の人生だ。この強靭さが多くの人を感嘆させ、魅了するのである。

 

 

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