信じる人は救われる『信じる力』新将命


「さて、質問だ。君たちは総理大臣になれるだろうか」

 

 

 先生の問いに、私たちは誰も答えない。けれど、誰しもが戸惑っているのはわかった。言葉がなくとも、みんながどんな答えを持っているかわかる。なれるわけがない、と。

 

 

「なれるわけがない。それは、どうしてそう思うのかな?」

 

 

 私たちは視線を泳がせる。同じように教室に視線を巡らせる隣の席の子と目が合った。彼女とは話したことがないけれど、心は同じだった。

 

 

「それは、だって、私たちは普通の人ですし」

 

 

 沈黙に耐え切れなくなったのか、答えたのは委員長だった。普段ははきはきと明朗な回答をする彼女の、あんなにたどたどしい答えは初めて見た。けれど、先生はそんな彼女にさらに質問を重ねる。

 

 

「普通の人、とは何だい?」

 

 

「えっと、それは、世間一般の人たち、です」

 

 

「では、こういうことだろうか。総理大臣は、普通の人ではない、と」

 

 

 委員長はこくこくと頷いている。彼女だけではない。教室の何人かは、彼女の答えに同意しているようだった。けれど、先生の口調はいかにも間違っていると言わんばかりだ。

 

 

「そうとも、間違っている。じゃあ、それを証明するために、総理大臣を遡ってみるとしよう」

 

 

 総理大臣は、国会議員の中から選ばれた人がなる。これで彼はひとつ前の姿、国会議員に戻ったわけだ。総理大臣はひとりだけれど、国会議員は何人もいるね。

 

 

 では、次に、国会議員は何者だろうか。国会議員は出馬して、選挙によって選ばれた人たちがなったものだ。いわゆる、国民の代表者というわけだ。

 

 

 つまり、彼らは元々は国民。君の言う『普通の人』だ。総理大臣も元を辿れば、君たちと何も変わらない。

 

 

「将来、君たちの内の誰かが総理大臣になっていてもおかしくはないんだ。出馬して、国民に認められれば、誰もが総理大臣になれる」

 

 

 誰も口を開かなかった。先生の言葉は、たしかに聞くだけならひどく簡単なことに思える。けれど、やっぱり現実感はない。だって、それは。

 

 

「なるのが難しいから? 並大抵の努力では叶わないから? 逆に言えば、努力さえすれば可能だということになる」

 

 

 結局のところ、君たちは信じていない。自分が総理大臣になった姿を。だけど、偉大な人は自分がそうなれるということを、ずっと信じ続けていたんだ。

 

 

「信じれば、夢は叶う。君たちは何にだってなれるんだ。他ならない君たち自身が、自分のことを信じることができたなら」

 

 

信じていたから

 

 私の話をしよう。かつての私は、猜疑心の強い性格だった。何もかもを疑っていて、誰も信用せず、疑っていたがために一歩すらも踏み出すことができなかった。

 

 

 何より、自分自身のことが信用できなかった。私は自分に自信が持てず、こんな自分はひっそりと、何も望まず、邪魔にならないように生きるしかないと考えていたんだ。

 

 

 転機が訪れたのは、父の書斎を掃除していて、一冊の本を見つけた時のことだ。それは、新将命先生の『信じる力』という本だった。

 

 

 読んだのは気まぐれだった。その時の私は、まさかその一冊の本が私の人生を変えるだなんて思いもしなかったんだ。

 

 

 『信じる力』には実はシンプルなことしか書かれていない。自分を信じ、人を信じ、未来を信じれば、成功する。それだけだ。

 

 

 簡単なことのように思えるだろう。がんばって勉強しろ、とも、先生の言うことをよく聞きなさい、とも書かれていないんだ。ただ信じろ、それだけで成功が手に入る、とね。

 

 

 でも、実はこれは簡単なことではない。不思議そうな顔をしているね。信じることの、何が難しいのか、と。

 

 

 だが、たとえば、だ。トーマス・エジソンを知っているね。電球を発明した発明家だ。

 

 

 でも、みんな彼が電球を発明したということしか知らない。その発明が成功するまでに、何百回、何千回と失敗したことからは目を反らしている。

 

 

 君たちは、それだけ失敗を繰り返しても、いずれ成功できると信じることができるのだろうか。電球なんていうものを、生み出すことができるのか、と。

 

 

 彼は自分の理論を信じ、自分を信じた。いずれ成功できると信じていたんだ。だから、彼は人類史に残る偉業を為すことができた。

 

 

 話がそれてしまったね。私の話に戻そう。私には幼い頃から夢があった。教師になることだ。

 

 

 けれど、言った通り、私は自分なんかが教師になんてなれるわけがないと思っていた。自分を疑っていたからだ。君たちが総理大臣になれないと自分で思っているように。

 

 

 でも、その本を読んで、自分が何よりも自分のことを信じていないことに気がついた。そして、信じてみることにしたんだ。

 

 

 その結果は、今こうして教壇で話していることから、わかるだろう。私の夢は叶った。自分なら教師になれると信じて、誰に何を言われても、未来のための努力を続けたから。

 

 

 私が君たちに言いたいことはひとつだ。さっき、君たちには『将来の夢』を書いてもらった。

 

 

 なりたいのなら、その未来を信じてみたら、どうだろう。君たちは何にでもなれる。そのことは、誰にも否定できない。君たちだけが、それを可能にするんだよ。

 

 

信じる力が夢を叶える

 

 「人は結局、思った通りの自分になる」というゲーテの言葉がありますが、「自分が信じていることが必ず実現するという保証はないが、思いが実現する可能性は限りなく大になる」ことも事実です。

 

 

 信じる力は、自然に湧き起こるものはごくわずかしかなく、実は大部分が主体的な自分に対する働きかけの結果です。自己変革の原因でもある反面、結果でもあるのです。

 

 

 誰にでもできることではありますが、日夜たゆまず磨きださなければ表れない力でもあります。信じる力を磨けば、目標を実現する力は結果として得られます。

 

 

 「できる!」「チャンス!」「面白い!」とポジティブな言葉を意識的に使うのが名経営者や成功者の特徴です。

 

 

彼らが、一様に前向きな言動をとるのは、信じる心を鼓舞して支えている証でもあります。信じる力とは、成功者がみんなやっている心の努力を真似る力でもあります。

 

 

 また、ビジネスとは結果であり、結果を生み出す原点は人と人との関係です。人と人との関係には信用と信頼が欠かせません。

 

 

 すべてのビジネスも信用と信頼の上に成り立っています。自分を信じるだけでなく、人を信じることも大切なのです。

 

 

 自分を信じ、人を信じ、運を信じ、夢を信じ、未来を信じている人に、成功しない人はいません。成功とはビジネスの成功であり、人生の成功でもあります。

 

 

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