メンバーが実力以上の力を発揮できるチームの作り方『科学的に正しいチームメソッド30』鈴木泰平


科学を学ぶことに何の意味があるのか、と、ずっと思っていた。何の仕事の役にも立たないじゃないか。そう思っていたのだ。その本を読むまでは。

 

『科学的に正しいチームメソッド30』を勧めてきたのは、最近出世して部下を持つようになった友人だった。久しぶりに会った彼は生き生きとしているように見えて、僕は嫉妬を覚えていた。

 

僕も彼も、大学の頃からいろんなことを積極的に学んでいた。いわゆる、「意識高い系」というやつだ。蔑称として使われる言葉だが、「そもそも意識がないやつには何もできない」として、僕と彼は「意識高い系」であることに誇りを持っていた。

 

かつてはともにセミナーに通いつつ夢を語り合ったのに、気が付けば、彼だけがどんどん先へと進んでいて、僕は置いていかれているような焦燥を覚えていた。

 

僕もまた、少し前に部下を持つ立場となったばかりだ。けれど、上手くいっているとは言いがたかった。部下は言うことを聞かないし、出来が悪い。その余波は全てこちらに降りかかってくる。

 

何がというと、明らかに効率のいい動きを教えているのに、ちっともその通りにしないのだ。何度叱っても直そうとしない。最近の仕事では、そのせいでストレスが溜まりっぱなしだ。

 

だが、彼の勧める本を読むというのは、気が進まなかった。僕はビジネス書は読むのだが、それ以外の本に興味はない。特に、「科学」というものを学ぶ理由がちっともわからなかった。

 

昔から僕は科学が嫌いだったのだが、社会人になってからは一層嫌いになった。あれほど頑張って勉強したのに、社会に出ると、科学なんて何の役にも立たなかったからだ。

 

そして、それは、この友人とも意見が合っていたはずなのだが。

 

「まあ、騙されたと思って読んでみろよ。結構おもしろいぞ」

 

彼はそこまで言うと、少し声をひそめて、内緒話をするかのような笑みを零した。

 

「実を言うとな、俺が部下と上手くやれているのは、この本のおかげがでかいんだよ。ずっと上手くいかなくてな、この本を読んで勉強して、変えてみることにしたんだ。そうしたら、一発だった」

 

お前、上手くいってないんだろ? そう言われて、思わず反論しそうになるが、ぐっと言葉を飲み込んだ。事実だ。僕は上手くいっていない。

 

「この本にはな、どうやってチームを育成していくかってのが書かれている。もちろん、タイトルの通り、俺たちの嫌いな科学を使ってな。わけわかんねぇ化学物質の名前もたくさん出てくる」

 

僕はそこで眉をひそめる。やっぱり、科学の本であるらしい。自分の中の苦手意識が抵抗感とともに湧き上がってくる。

 

「でも、正直な、覚えなくてもいいと思うんだ。大事なのはそこじゃないんだ。この本が本当に教えてくれるのは、つまり、人の行動だとか感情には、それなりに理由があるってことさ」

 

科学ってのは、そういうもんだろ。不可解な物事の理由ってのを明らかにするのが科学だ。人間の行動にも、ひとつひとつにその科学ってやつが関わってきている。

 

「お前の部下も人間なんだよ。上司のお前からしてみれば出来が悪かったり、言うことを聞かなかったりしているかもしれないが、そこにも理由があるんだ」

 

この本は、それを理解するための手助けになるんじゃないかと、俺は思うんだよ。彼はそう言って、僕の目の前に本を差し出した。

 

科学によって、人を理解し、動かす。そんなことが本当に可能なのだろうか。その後、その本を読んで学んだことで、僕のチームが大きな功績をあげることになることは、当時の僕には知る由もない。

 

 

科学で仕事を効率的に

 

本書では人材育成・組織開発のテーマでよく取り扱われる30のテーマを科学的に解説しています。科学と一口にいってもさまざまな種類がありますが、本書でベースとするのは、「生命科学」です。

 

生命科学とは生命現象を物質レベルで解明する学問です。本書では一部生命科学には当てはまらない学問も引用しますが、全て生命現象を理解するのに役立つものになっています。

 

人や組織の原理原則を押さえないことや、経験則によって判断することの問題には、次の2つがあります。

 

1つ目に「効率的な手法論に走ってしまったり、縛られてしまったりする」ことが挙げられます。本来の目的は部下の才能を開花させ、信頼関係を築くことですが、部下との時間を取ること自体が目的になってしまっていたのだと考えられます。

 

もう1つが「自身の認識の範囲内でしか事象を捉えられず、バイアスがかかる」ことです。メンバーと信頼関係を築くためには経験則的にこうすれば良い、といったやり方が、同じ効果を発揮するとは限らないのです。

 

本書はチームビルディングの手法や今注目される考え方、組織論などをテーマに分けて解説しています。いずれも、「テーマの解説と問題提起」「生命科学による解説」「生命科学に基づくアプローチ」と、大きく三段構成になっています。

 

さあ、科学的なメソッドでヒトが生き生きと働けるチームづくりをはじめましょう!

 

 

科学的に正しいチームメソッド30 メンバーが実力以上の力を発揮できるチームの作り方 [ 鈴木 泰平 ]

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