そんなこと、できるわけないじゃないか。気が付けば、そんなことが口癖になっていた。あの一冊の本と出会わなければ、今の私はまだあの頃のまま足踏みをしていただろう。
『やりたいことは全部やれ!』は、数々の会社や学校を運営し、多くの趣味を持っている大前研一先生が書いた本である。
すでにさまざまな活動をしている先生の経歴を見れば、その本のタイトルがいかに説得力を持って迫ってくるかわかるだろう。
私がその本と出会ったのは、大学卒業後すぐに就職した会社を辞めてからのことだった。それからの私の人生は、まさしく正反対と言ってもいいほど大きく転換を遂げたのだ。
やりたいことは、大学の頃からいくつもあった。しかし、今にして思えば、すべて実現する気はなく、ただ想像するだけで満足していたのだろう。
「いやいや、実際にはできないよ。ただやりたいってだけで」
それは自信のなさからくるものか、それともただの怠慢か。夢を持つことは楽である。それを実現さえさせなければ、いつまででも持ち続けられるのだから。
お金がないから。遠い場所だから。時間がないし。自分ひとりだけじゃ無理。勉強しなきゃいけないし。仕事があるからなあ。
実現させないだけの言い訳なんて、いくらでも見つけることができる。私は、それに甘えてその場に留まり続けたのだ。何もせず、ただ夢だけを見て。
夢を見ているだけじゃ、何もできない。山ほどあるやりたいことリストは、実際に動き出さないと決して減ることがないのだ。
大前先生の本は、そのことに気付かせてくれた。
『やりたいことは全部やれ!』が言いたいことは、タイトルの通りである。かつての私のような意欲の低い学生の尻を叩くような内容であった。
大前先生は、それを自分の人生を語ることで教えてくれる。先生の今までの人生は、まさしく挑戦に満ちたものだったという。
もちろん、失敗もしてきた。先生が作中でたびたび悔やんでいるのは、選挙に出馬し、落選したことである。
だが、その失敗は先生の生涯に影を落とすものではない。いや、そもそも、挑戦があれば失敗があるのは当然で、失敗が影を落としてくることはない。
ただ、私たち自身が失敗を恐れるあまりに、それを過度に大きく見せかけて、怖れている。実際には、失敗なくして成功はないのだ。
日本は長寿大国だ。五十歳まで生きても、平均寿命から見て亡くなるのは早くても残り二十年ほど。実際にはどうなるかわからないが。
つまり、今の時代はそれだけやりたいことをするだけの時間があるということだ。だからこそ、やりたいことをしなければ、やがて深い後悔が待っている。
大前先生はこの本を執筆した当時、五十八歳だという。だが、それでも、年齢を理由に止まることはない。ただひたすらに、やりたいことを実行するために邁進している。
その姿は、なんとも眩しく、羨ましいものだ。だが、それは私たちも思い至って行動さえすれば、すぐにでもなることができるのである。
先生の本を読んで以来、私はそれまでの言い訳ばかりの人生を変えた。思い至ったら、やってみることにしたのである。
すると、やらずにする後悔に煩悶とすることがなくなった。失敗しても、成功への道筋を探すことができた。そして何より、自信がついたような気がする。
私はまだ三十にも満たない。だからこそ、やりたいことはまだまだ尽きない。私の道はまだ、始まったばかりなのだ。
自分の人生は自分で決めろ!
私は今までにいろいろなことをしてきた。そろそろお暇を、と思ってもまだ五十八歳だ。
やりたいことをやり、見たいところ、行きたいところ、すべて行った。しかし、まだ平均寿命からみれば二十年は残っている。
結局、人生はお釣りがくるくらい長いのだなー、と最近つくづく思うようになった。
現代のサラリーマンは迷える子羊になってしまったかのようである。特に三十五歳から五十歳までの、もっとも大切な年齢層の人にその感が著しい。
個々の社会構成要員である彼らが自信を失っている現状では、そう簡単に景気刺激策などが功を奏するとも思えない。
かつては、国や会社の方向や戦略が決まれば全体が一丸となって突き進む、という時代もあった。今は明らかに、誰がどう笛を吹いてもそうはならない。
当然彼らは、会社人間となって会社に尽くしても、それでは報われない時代に入ったのだと理解している。しかし、それを上司から言われたわけではないから、深く考えないですんでいるだけなのだ。
私のところに相談に来る人も、答えを求めているのである。つまり、答えというものは与えられるもの、と思っているのである。そうした人々で充満しているのが現在の日本である。
自分の人生は他人のものではない。だから、自分でどういう人生を生きたいのか、自分で決めるべきなのだ。
なにしろ自分の信じている人生を生きている人は周りから見ても素晴らしいし、バイタリティーに満ちている。
こうして、人生を再設計し、、見つめ直すために、この回り道そのものでしかない本書を参考にしてもらえたら嬉しい。
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