教え方には技術がある『マンガでよくわかる教える技術』石田淳


 どうしてうまくいかないのか。私は頭を抱えた。しかし、いくら悩んでも、答えが見つかるわけではない。

 

 

 上司の異動に伴って、私が彼の地位に代わりに就くことになったのはついこの前のことだった。

 

 

 部下を持つのは初めての経験で、私は高揚していた。かつては憧れていた上司の隣りに、とうとう肩を並べることができたのだから。

 

 

「いいか、俺がお前くらいの年齢だった頃は、よく上司にゲンコツ食らってたよ。そのおかげで、俺はなんとか食らいついてきたのさ」

 

 

 上司はいわゆる熱血系の人で、かなり厳しめのスパルタ指導で部下を育てる人だった。

 

 

 激しく叱りつけ、時には暴力も辞さないその過激な指導法に私の同僚は次々と辞めていき、残ったのは私だけだった。

 

 

 私が耐え抜いたからか、と言われるとそういうわけでなく、むしろ私が人一倍臆病で、怒られると思うと足が竦んで辞めることすらできなかったというのが真相だ。

 

 

 お前には、根性がある。しかし、いつしかその上司からそう言われたときは、とても嬉しかったのを覚えている。腰抜けだった私が、強くなれたような気がした。

 

 

 だから、私は彼のことを尊敬している。彼が私を一端の社会人として育ててくれたと言っても過言ではないだろう。

 

 

 叱れば嫌われる。かつての私の同僚のように離れていく部下もいるだろう。しかし、いずれはその指導に隠された愛に気付き、感謝するはずだ。

 

 

 私も将来、部下を持つときは、彼のような上司になろう。私はそう思っていた。

 

 

 しかし、その将来は想像よりも早く訪れることになった。それも、思いもよらぬ形で。

 

 

 上司の指導方法がパワハラであると告発され、社内で問題になったのだ。彼は指導する立場から降ろされ、閑職へと異動になった。

 

 

 彼の指導を絶賛していた会社の上層部の面々が、手のひらを返したように彼に苦言を呈した。彼の業績や、彼の人格にまで、悪い噂が囁かれるようになった。

 

 

 私は愕然とした。私にとってその上司は絶対的な存在だった。それが、こうも簡単に落ちぶれていく。

 

 

 なにより、彼の指導がただのパワハラだというのなら、今までそれに耐えてきた私は何だと言うのか。ただの間抜けじゃないか。

 

 

 声を大にして叫びたかった。しかし、そんな暇すらない。私が彼のポストに収まったからだ。

 

 

 入社してきたばかりの部下に対する接し方がわからない。新入社員である彼らはまるで別のイキモノのようで、その考え方がまったく理解できなかった。

 

 

 次第に、彼らは私の言うことを聞かず、好き勝手に動くようになる。いくら叱っても効果はなかった。

 

 

 そもそも、私は叱りつけることすら上手くできなくなっていた。それは、上司の末路を見てしまったからだ。

 

 

 私が知っている指導は、かつての上司のやり方しかなかった。しかし、彼のやり方は、すでにパワハラだと言われている。

 

 

 では、言うことを聞かない彼らを叱る時に、どの程度ならばパワハラにならないのか。それが私にはわからなかった。

 

 

 業績は右肩下がりに落ちていく。当然だった。部下との連携が全く取れていないのだから。しかし、どうすればいいのかわからない。

 

 

 その本と出会ったのは、そんな時だった。『マンガでよくわかる教える技術』。

 

 

「これ、貸してやるから読んでみろよ」

 

 

 そう言ってくれたのは、今では私と同じように部下を持つ友人だった。彼は部下との関係も良く、仕事終わりには出かけることもあるらしい。

 

 

「叱って言うことを聞かせるなんて調教師と同じだよ。今じゃあ、そんな昔のやり方は通じない。今時の若者は賢いからな」

 

 

 時代は移り変わっている。上司のやり方は、紛れもなく「古い」やり方だった。

 

 

「俺も昔は苦労した。でも、この本を読んで、わかったことがある。部下は一緒に仕事をしていく仲間だ。教えるんじゃなくて、一緒に学んでいくのさ」

 

 

 そうはいっても、所詮はマンガだろう。私はそれでも信じていなかった。ページを開くまではそう思っていた。

 

 

行動を見ることが第一歩

 

 マンガの主人公は、カジュアル衣料品店「ナチュレ」のテンポで働く神吉凜さん。

 

 

 店長として着任して以来、なかなか仕事を覚えない部下たちの存在と売り上げ不振に悩む毎日でした。

 

 

 しかし、ふとしたきっかけから「教える技術」を知り、それを実践し始めたところ、部下の仕事ぶりや職場の雰囲気に徐々に変化が。

 

 

 「教える技術」の最大のポイントは、部下のやる気や根性ではなく「行動」に着目して、指導や育成を行うこと。

 

 

 いつ、誰が、どこで行っても効果が上がる科学的なメソッドなので、教え手と学び手がどんな人でも、短時間で戦力に変えることができます。

 

 

 行動科学マネジメントは「行動」に焦点を当てる科学的なマネジメント手法ですから、どんな部下であっても誰に対しても教え方の基本は同じです。

 

 

 しかし、誰もが気持ちよく仕事のできる職場環境を保つためには、相手の立場や特徴に合わせた配慮をプラスすることが必要です。

 

 

 相手に対する敬意を常に忘れずに、そのうえでそれぞれの部下の「焦点」に当てた指導や育成を行う。目指すべきリーダー像のポイントは、ここにあるのではないでしょうか。

 

 

 本書があなたの部下指導のバイブルとなりますよう、心から祈っています。

 

 

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