リーダーの本棚『決断を支えた一冊』日本経済新聞社


俺は頭を抱えていた。進む先は二択。間違えれば、俺だけじゃない、会社に所属する社員も、その家族も、みんなが苦境に喘ぐことになる。彼らの運命は、俺の手に委ねられているのだ。

 

そんなことを、あの頃の俺は思っていた。会社の命運を決定する選択肢を迫られ、俺の心は限界寸前だった。もしもあの時、書棚に目を向けなければ、今の俺はなかっただろう。

 

当時、苦悩していた俺が、縋るように部屋を見渡して目に入ったのは、書棚に収められた一冊の本だった。日本経済新聞社の『決断を支えた一冊』という本だ。

 

今まで大して意識もしておらず、買ったまま読みもしないで書棚に入ったままだったその本が、その時初めて吸い寄せられるかのように目に入ったのは、きっと偶然ではないのだろう。

 

俺は何かに導かれるようにその本を手に取って、ページをめくった。

 

『決断を支えた一冊』は、政治家や大学教授、野球選手といった名だたる人物たち、いわゆる人を引っ張るリーダー的立場の人たちに、自分の人生に強く影響を与えた本を聞く、という趣旨のものである。

 

中には、テレビで頻繁に目にするような名前まであった。彼らは皆、自分の転機となった出来事と、それにまつわる本の話、また、過去によく読んでいた愛読書などの話をしている。

 

驚いたのは、彼らがそれぞれの分野においてプロフェッショナルともいえるほどの人物であるにもかかわらず、読んでいる本は決してその分野のものとは限らない、ということだ。

 

たとえば、慶應義塾の大学教授は、創設者である福沢諭吉の著書を挙げていた。二人ともが「慶應義塾だから」という理由ではないことを前置きしたうえで、大きく影響を受けたと述べている。

 

また、経済的に大きな成功をしている大企業の社長などは、流行したビジネス書でも読んでいるのだろうと思えば、実はそうでもない。

 

むしろ、彼らが多く読んでいると感じたのは歴史について綴った本である。『竜馬がゆく』や『失敗の本質』といったタイトルが見受けられた。

 

その本を読んでいるうちに、ふと思い出したのは、学生の頃の思い出だった。かつて、俺は読書家で、友達と遊ぶのもそこそこに、図書室に通い詰めていた時期がある。

 

昔の俺は小説が好きで、ビジネス書には見向きもしなかった。現実がひどく苦しかった俺は、小説の中の世界に耽溺していたのだ。

 

それが、いつからだっただろう、小説を読む時間がないと切り捨て、ビジネス書ばかりを読むようになったのは。世間で人気になったビジネス書を適当に買い漁り、ぺらぺらとめくって書棚に放り込む。内容をじっくり吟味することもない。

 

小説に至っては、買うことも読むこともなくなり、書棚にはまだページすらも開いていない小説が乱雑に詰め込まれている始末。

 

自分のキャリアが上がっていくにしたがって、俺は自分の時間を失っていった。長い時間をかけてじっくりと読む小説は、ちっとも読む時間が取れず、次第に距離を置くようになった。

 

ビジネス書にしても、そう。自分に必要なものだけを、必要な部分だけ読むようになった。とにかく早く読むために、読みやすく短い本ばかりを買って、さっさと読みきってしまっていた。

 

俺はいつしか、「早く結果が出る」ことばかりを求めるようになっていたのだ。だからこそ、楽しむための小説や、必要ないビジネス書を読まなくなった。

 

だが、本当にそれでいいのだろうか。すぐに、そしてわかりやすい結果が出ることばかりを重視していては、薄っぺらい人間になるのではないか。

 

昔の俺は、そんなことをそもそも気にしていなかった。ただ楽しくて、新たなことを知るのが、物語に浸るのが、ただ楽しくて本を読んでいたのだ。それこそが、「読書」というのではないか。

 

もっと長期的な視点でものを見よう。即時的で大きな結果ばかりを追い求めているのではいけない。小さくとも長期的な見方をすることで、今よりも大きな結果を、最終的に得ることができるはずだ。

 

そうだ、あの時、俺は「読書」という根本に立ち返ったことで、短期的な施策ではなく長期的な施策を選んだ。だからこそ、今がある。

 

役に立たない本などない。どんな本でも、それは俺たちの内面にいつだって寄り添い、助けてくれる。俺はもっとも大切な友人のことを思い出せたのだ。

 

 

リーダーはどんな本を読んでいるのか

 

いま、あるリーダーが大きな決断を迫られているとしよう。もう一歩のところで踏ん切りがつかない。そんなとき、執務室の座右にある一冊の本が目に付いた。思わず読み耽ってしまう。

 

リーダーは孤独である。最後の最後は、ひとりで決断を下さなければならない。誰にも相談できない状況で、本の力を借りる。かけがえのない相棒として本をとらえたいと考えた。

 

登場するのは大企業を率いる経営者を中心に、大学や公益団体のトップ、政治家など各界のリーダーといえる方々だ。書棚は人なり。「リーダーの本棚」のコンセプトをひと言でいうとこうなる。

 

古典から経済・経営書、歴史書、科学書、エンターテインメントと、リーダーの方々が座右の書、愛読書として挙げる本は実に多種多様である。

 

思えば、本というものは読んで何年もたってから、それがいかに心の養分になっていたかに気付くようなものではないか。年齢を重ねて若い頃の愛読書を読み直すと、新たな発見を得られることも少なくない。リーダーの方々が挙げてくれたのは、いずれも風雪に耐えるような本ばかりである。

 

 

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