かつて、フランスの哲学者モンテスキューはこういったという。「一時間の読書をもってしても和らげることのできない悩みの種に、私はお目にかかったことがない」。
そこには見渡す限りの本があった。本、本、本。まるで天を突くばかりの巨大な本棚には、無数の本が収められている。
私は呆然とその知の柱を眺めながら、思わず一歩を踏み出した。大理石の床を私の靴底が叩き、無音に満ちた空間を一筋の音が切り裂く。
円状のホールの真ん中には、カウンターテーブルがあった。そこには、穏やかな表情をした老年の男性が座っている。彼の視線は手元のページに落とされており、その傍らにも、何冊かの本が平積みにされていた。
私が近づくと、彼は顔を上げる。陶然と別世界の物語に浸っていたその視線が、ゆっくりとこの世界に帰ってきているのがわかった。
「よくいらっしゃいました」
彼はゆっくりと微笑みを浮かべる。目元に寄った皴が彼の重ねた年月を刻み込んでいた。その豊かな白髪には、いったいどれほどの本の記憶が編みこまれているのだろうか。
「本日は、どんなご用で」
その言葉を聞いて、私は迷う。なぜこんなところにいるのか、その理由は思い出せない。だが、図書館に来たというのなら、本を借りに来たはずだ。それだけは、間違いない。
「さようですか。では、お好きなのを、どうぞ」
彼はそう言って手で自分の背後を促す。そびえ立つ本棚がちっぽけな私を見下ろした。思わず、後ずさる。まるで巨人に睥睨されたかのような本能的な恐怖が、私の身体を震わせた。
世界に、本は何冊あるのだろうか。一生かかっても読みきることはできない。かつて私が生まれるよりも遥かに以前から生きてきた賢人たちの足跡。
悩みがあった。誰にも言えない悩みが。もしも誰かが知ったならば、「そんな些細なことを」と笑い飛ばすだろう。だが、その些細な悩みはずっと、私の人生に影のように差しているのだ。
「悩みが、あるんです」
「ほう、悩みが」
「誰にも相談できない。人は私の悩みを、馬鹿にするでしょう」
「だからこそ、ここに来た、と」
「はい」
彼は頷いて、暫し目を閉じた。須臾とも永遠とも感じるような、時間。まるで止まっているかのようだった。やがて、彼は目を開く。唇が、静かに言の葉を紡いだ。
「本は、何も話さず、何もしてくれません。あなたの頭を撫でてもくれないし、あなたを褒めてもくれないでしょう。その価値を知らない者には、ただのよく燃える紙切れでしかない」
彼の皴だらけの手が手元の本の背表紙を撫でる。
「ですが、静かにあなたの悩みを聞いてくれるでしょう。答えを見つけるヒントを、与えてくれるでしょう。本ほど優れたカウンセラーはいません」
彼の視線が、私たちを取り囲む本に向けられた。その視線を追いかけて、私も本棚に収まった本たちを眺める。
「本はたくさんある。その中には、あなたの悩みに一筋の道を示してくれる本もいるでしょう」
「出会うことは、できますかね」
これほどの本の中から、運命の一冊を。私は見つけ出すことができるのだろうか。
「ええ、できますとも」
そのために、私がいるんですから。彼は微笑を浮かべて頷いた。その枯れ木のような手を差し出す。私が彼の手を握ると、ひんやりと心地よい冷たさが私の熱を冷ました。
目が覚める。さっきまで図書館にいたはずの私は、自分の部屋の見慣れた天井を眺めていた。布団を押しのけて起き上がる。ふと、手に一冊の本が握られていることに気が付いた。
あなたを導いてくれる本との出会いを、ほんの少しだけ、手助けしてあげましょう。頭の中にそんな声が聞こえた気がした。手元の本の表題は、『答えはすべて本に書いてある。』
悩みを抱えて苦しむあなたに
あなたの悩みは何ですか? 生きていてまったく悩みがない人なんていません。悩みがあることこそが人間だ、ともいえます。
何もかもうまくいっているように見えるあの人も、みんな陰では大きな悩みを抱えています。ましてや社会で日々、もまれているあなたがいろいろな悩みを抱えているのは当たり前です。
そうはいっても、悩みは苦しい。どうにかして解決したい。自分で考えて考えて「答え」を出すのもいいでしょう。人に相談するのもいい。スマホで検索して「答え」を探すのもひとつの方法です。
実はもっと有効な、とっておきの方法があります。「本」を読むことです。仕事、人生、人間関係、恋愛、その他の数々の悩みと、その対処法が本には書いてあります。そう「答えはすべて本に書いてある」のです。
さまざまな職業の人が、さまざまな立場で、さまざまな問題に遭遇し、たくさんたくさん悩み、探りながら対処し、ようやくたどり着いた答えの記録。それが「本」です。つまり書店は、世界最高峰の「悩み相談室」なのです。
でも、書店に置いてある本があまりに多すぎて選べない。そこで、悩んでいるあなたにぴったりの本108冊を書店と本が大好きな筆者が独断と偏見で紹介させていただきます。
直接的な答えがズバリ書かれている本だけを選んだわけではありません。むしろ直接の答えは書かれていないけれど、その本を読むことで答えを思いつくような本を中心に選んだつもりです。悩みの答えはひとつではないからです。矛盾の中にこそ、答えはあるのです。
本書との出逢いをきっかけに、あなたにとって生涯の師や友となるような本と出逢い、本好きや書店好きがひとりでも増えれば、筆者として、それに勝る喜びはありません。
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