自粛、自粛、自粛。今の世の中、どのチャンネルを映してもそんな声ばかり。ずっと家に閉じこもってばかりで、何の変化もない毎日。何かが足りない。そう、エンタメが足りないのだ。
感染症の猛威が続いて、もう一年も過ぎた。緊急事態宣言が出されては解除されての繰り返し。この長いトンネルに、いつになったら終わりが来るのか。
せっかくの長期休暇にも、とうとうどこにも出かけることができなかった。ずっと家にこもったまま、テレビのニュースをぼんやりと眺めるだけの時間を過ごした。
インタビュアーが神妙な表情で、人が集まっている大通りを取材している。「どうせ誰もいないかなって思って」「感染症なんて関係ないね」「こんなに家にこもっていたら死んでしまう」
政府の政策を批判するばかりのコメンテーター。歩調の合わずに奇妙な矛盾がいくつも生じている都庁と国。どこか首をひねるようなズレた政策ばかりを出してのらりくらりとしている政治家。
まるで国中にどんよりと暗雲がかかっているかのようだ。だが、それは空にかかっているのではない。人の心にかかった暗雲が、視界を暗く見せているのだ。
何かが足りない。だが、何が違うのだろう。いや、そうだ。私たちの心に潤いをもたらすもの。暗雲を晴らし、笑いを与えてくれるもの。精神に活力を注いでくれるもの。そうか、今の日本には、エンタメが足りないのだ。
私はふと思い至って、本棚をごそごそと探した。目的の本はすぐに見つかった。檜垣俊幸先生の著作、『新エンターテイメントの発想力』という本である。
感染症によって世の中は大きく姿を変えた。今や、私がたくさん買ってため込んでいたビジネス書や経済書は、すでに何ひとつ通用しない世の中になってしまっている。
だが、そんな中でも、この本に書かれているものは、時代の流れや変化に影響を受けることなく、どんな時代であっても通用することだ。
この本には、何をどうすればいいのか、という答えは書かれていない。だが、著者の発想の具体例や過去の事例から、私たちにヒントをくれる内容になっている。
ヒントとは何か。それは、流行を見据えることで、その波に乗り損なうことなく対応し、時代の流れに身を任せてビジネスにつなげるための適応力を。
さらには、日常の悩みから新たなビジネスを生み出し、自分の手で流行をけん引していくための発想力とアイデアを。
感染症によって、世の中は姿を変えた。多くの人が気軽に外に出ることができなくなり、多くの飲食店は苦境に喘いでいる。
だが、「政府のせい」「国の対応がひどい」「感染症が早く収まってくれれば」などと、事態の悪化を誰かのせいに押し付けて、いつになるかもわからない未来に祈りを捧げるだけなんて、もったいないじゃないか。
世の中の変化は、新しい発想の宝庫である。そこには、誰もが流行をつくることができるチャンスがころがっている。こんな時代だからこそ、生まれるアイデアだってあるはずだ。
たとえば、外に出られないのなら、家にこもったままできる楽しみを見出せばいい。動画を撮ってみたり、本を読んでみたり、物語を書いてみたり。
仕事がなくて収入がないのなら、副業を始めてみたらいい。もしくは、自粛によって生じた自分の不満や不便を解消するビジネスを、自分で始めてみたらいいじゃないか。
外に出られなくて子どもが遊べないというのなら、これを機に、家の中で子どもと過ごすための遊びをやってみたらいい。むしろ、今まで仕事に時間がとられてできなかった家族との時間を過ごすチャンスじゃないか。
素晴らしいアイデアの萌芽は、いつだってあなたの身近にある。現状を嘆くよりも、それを探してみる。そうしたら、そこから今まで誰も見たことがないような、新しいエンタメが生まれるかもしれない。
エンターテイメントの時代
エンターテイメント・イベントは、連綿と続いていく日常世界の中に、夢や憧れや楽しさを詰め込み、一種の非日常空間を創り出す出来事である。
再びエンターテイメントの時代が訪れようとしている。その時代を前にして、まず考えなければならないのは、これまでのソフトを見直し、時代を切り取り、人々の”いま”をとらえた、新たな発想、新たな展開によるソフトを考えなければならないということである。
そこで、いまソフトに何が起こっているのか、ソフトを取り巻くエンターテイメント・イベントの世界に何が起きているのか。次世代のソフトはどう進んでいくのか。
これまでのエンターテイメント・イベントのコンセプト・ワークやその発想の仕方をたたき台にしながら、これらの命題を解いていこうというのが本書の目的である。
エンターテイメント・イベントと時代は、決して切り離して考えられないものである。時代を読み、欲求をとらえて、その一歩先にエンターテイメント・イベントを置く。それがソフト作りの鉄則である。
次に何が起こるかわからない期待とスリル、それがエンターテイメント・イベントの神髄である。本書も、次に何が書いてあるのか、期待を込めてページを開いていただければ幸いである。
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