心を傷付ける家族から自由になる『親の支配脱出マニュアル』藤木美奈子


私の親が私を愛してくれていたか、という問いに対して、私は、愛してくれていた、と答えるでしょう。ですが、愛は決して良いものばかりではないのだと、私は後に知ったのです。

親、というものは子どもを慈しみ、育てるものである、と。そういう認識とは裏腹に、昨今のニュースではしばしば、親が子に虐待をしていた、というようなもの悲しい報せが飛び交っています。

私の母はそうしたニュースを見るたびに、「信じられないわ」と言っていました。母は自分の育児や教育に、一定の自信を持っていたように思います。

実際のところ、母は傍から見ても「悪い親」ではないでしょう。幼い頃から暴力を振るわれる、というようなことはありませんでした。私は真っ当に愛されて育った、と、胸を張って言えるくらいには。

『親の支配脱出マニュアル』という本を読んだのは、そもそも私自身のため、というわけではありません。友人から相談を受けていた時に、その本を見つけたのがきっかけでした。

親や家庭環境によっては、子どもの心身を傷付け、健全な成長を阻害する。そうやってできた「生きづらさ」のことを、その本では「育ちの傷」と呼んでいました。

私は「毒親」というものを、いわゆる子に対する虐待やネグレクトをする親のことを指すと思っていましたが、その本では「子どもの気持ちを大切にしない」親のことを指しています。

子どもの気持ちを大切にしない。つまり、親がいくら愛していようとも、どんなに手を尽くそうとも、それが子どもの人としての尊厳を無視し、気持ちを蔑ろにしているものであれば、それは「心を傷付ける」ことになるのだと。

私はその本を読んで以来、自分の親のことをよく考えるようになりました。私の親は私を愛してくれていましたが、果たして、それはどうだったのだろうか、と。

私の母は、私に暴力こそ振るいませんでした。ですが、彼女には、人の価値観を尊重する、という姿勢が乏しかったように思います。良くも悪くも考え方が凝り固まった人だと言えるでしょう。

愛してくれている人からの否定。それは私の心を傷付けてきました。じくじくと痛み出す傷を、私は幼い頃から見て見ぬふりをして育ったのです。

もちろん、本当に虐待やネグレクトで苦しんできた方たちからしてみれば、私の感じてきた痛みなど、些細なことでしょう。ですが、そこに「愛」があるというのもまた、厄介な問題ではないかと思うのです。

幼い頃、私の父は、母が世話焼きなのに反して、あまり干渉してこない人でした。おもちゃやゲームを気まぐれに買ってくれることはありましたが、あまり密に話すようなことはなかったと思います。それを寂しいと感じたこともありました。

ですが、その本を読んで以来思うのは、こうした父の接し方こそが、親として正しいのではないか、ということです。導くのではなく、見守ること。それは言葉でいうほど、簡単なことではないのでしょう。

日本は「家族」というものを、古来より重視してきました。ですが、盲目的な家族幻想は、実際にそこにある「個人」としての人格を蔑ろにしているように思います。

理想的な家族。今の世の中は実像を隠して、そんな「家族ごっこ」をしているかのよう。けれど、そんな親の理想にもっとも傷つけられるのは、誰よりも大切な「子ども」だということを、忘れてはなりません。愛でも人は血を流すのですから。

育ちの傷

昨今、「毒親」「機能不全家族」という言葉をよく耳にします。子どもの心身を傷付け、健全な成長を阻害する親や家庭環境がそのように呼ばれるようです。

ここであらためて、「子どもを傷付ける親」とは、どんな親か。多種多様に見えますが、これらの親には共通した特徴があります。

それは、「子どもの気持ちを大切にしない」という点です。子の将来にとって決定的なのは、親の経済力や暴力の有無だけでなく、「親が子の気持ちを大切にしていたかどうか」です。

子どもを傷付ける親は、強迫的な思考をする傾向があります。こうすべきだという「思い込み」や「決めつけ」が強すぎると言えます。

自分の気持ちを大切にされなかった――そのような思いを持って育った子は、例外なく「生きづらさ」を抱えて生きることになります。

これが「傷つける親」によって負わされた後遺症のパターンと言えます。私はこれを「育ちの傷」と呼んでいます。

「育ちの傷」を抱えた人は、無気力になったり、引き篭もったり、医療や福祉の保護下で生きることを選択してしまう場合があります。しかし、それらはかえって身を滅ぼしかねません。もっと根本的に親との関係を考え直し、トラウマからの回復を図る必要があります。

あらためてひと言でまとめると、「育ちの傷」とは、不健全な成育環境によって子どもが負ったトラウマのことです。

成育環境のなかでもとくに重要な要因となるのが、親から子への接し方であり態度です。そのため「育ちの傷」問題と「毒親」問題は重なる点が多いといえます。

ただ、問題をシンプルに親だけの責任とすることに、私はためらいがあります。そこで私は「毒親」という言葉を避け、「育ちの傷」と呼んでいます。

「育ちの傷」には複雑な要素がたくさん絡んでおり、特有の難しさがあります。たとえば、本人が問題の原因に気付きにくい点があります。また、本人の心の苦しみは周囲にいる人になかなか伝わりません。

このように、「育ちの傷」は誤解を生じやすく、いまだに十分な理解を得られているとは言えません。そこで本書では、数々の具体的なエピソードで実態を知ってもらいながら、「育ちの傷」を乗り越える方法を提案していきます。

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