インターネットを安全に使いこなすために『10代からの情報キャッチボール入門』下村健一


ついこの前、ぼんやりとニュースを眺めていると、Twitterから住所を特定されたという内容が、アナウンサーの口から語られていた。

 

聞けば、家の前に変なものが置かれていたことをTwitterで呟いたことをきっかけに、住所が特定されたのだという。そのニュースを見て、随分と驚いたものだ。

 

今時、ただの呟きすらも、世界中に一瞬で聞こえるような世の中だ。それなのに、私たちは特に何の意識もせずに、ただ気の赴くままに呟いている。

 

そのことが、改めて恐ろしいことだと思った。ほんの些細な発言、自分ではちょっとしたはずの発言が、大きな火種にまで発展することだってありえる。

 

インターネットと呼ばれるものが普及して、世の中は随分と便利になった。けれど、考えてみれば、インターネットが普及したのも、最近のことなのだ。

 

インターネットを使いこなせているつもりでいたけれど、それは本当だろうか。もしかしたら、私は、インターネットというものについて、ちっともわかっていないのではないだろうか。

 

そんな危機感に襲われて、慌てて図書館から借りてきたのが、『10代からの情報キャッチボール入門』という本である。

 

著者は下村健一先生。テレビでも活躍していたジャーナリストで、いわば、これまでの人生を通じてメディアと深く関わってきた情報のプロだ。

 

「もしも、誰かがネットで『世界が滅びる』と言っていたとしたら、あなたは信じますか」

 

この本は、そんな問いから始まる。そんな問いかけ、答えは決まっているだろうに。そんなことを思っていたけれど、だんだんと引きこまれていく。

 

そんな馬鹿なと思って調べてみると、なるほど、たしかにいくつかの情報がヒットした。ということは、あながち荒唐無稽でもないのかもしれない。

 

政治家や学者にも、そんなことを言っている人がいる。そんな、偉い人が言っているのなら、正しいのだろうか。だが、どうして誰も知らないのか。

 

「情報が隠されている」という噂があるらしい。なるほど、だったらたしかに、誰も知らないのも無理はない。じゃあ、やはり世界が滅びるというのは、本当なのかもしれない。

 

てな感じで、話を発展させていくと、あら不思議、自分でも「そんな馬鹿な」と笑っていた情報を、いつの間にか信じたくなっている、というわけ。

 

そんなこと、誰もしないよ、とは、言えない。私たちは何かわからないことに直面した時、すぐに検索する。そんな癖がついている。

 

ネットには、あらゆる問い、あらゆる疑問に対する答えがころがっている。しかし、それらが本当に正しいかどうかはわからない。

 

わからないながらも、私たちは自分で、それらしい解答を「正しい」と思い込んで受け入れる。それはきっと、思っているよりも危険なことなのだ。

 

インターネットリテラシーという言葉がある。インターネットと付き合ううえで、意識しなければならないこと。私はそれを大切にしていたつもりだけれど。

 

恐ろしいところは、悪意なんてなくても、あるいは善意だったとしても、ネットを通じたコミュニケーションは誤解を与える可能性があることだ。

 

ほんの少しの言い回しの違い。ほんの少しの工夫のなさ。たったそれだけのことで、自分が発した情報は幾重にも捻じれてたくさんの人たちに伝わってしまう。

 

私はそれを意識した時、初めて、「ネット」の正体を垣間見たような気がする。言葉と人と情報がごちゃ混ぜに入り交じったそれは、見上げるほど巨大な怪物のようだ。

 

流動する身体は、無限ともいえるほど長く、広く、しかも際限なく増え続けている。肥大化し続けるその怪物の手綱は、人間が握っているようでいて、実際は制御しきれていない暴れ馬だ。

 

そして、私もまた、その怪物の腹の中にいる。その蠕動する胃袋の中で、私たちはこの怪物との付き合い方を、よく考えないといけないのかもしれない。

 

 

情報社会を渡り歩く

 

原始時代、私たちの祖先はきっと身ぶり手ぶりなどで、相手に自分の意思を一生懸命伝えた。そうやって、受け取った情報を別の仲間に届けるという、〈情報キャッチボール〉は始まった。

 

やがて、気が遠くなるほどの歳月を経て、人類はついに《言葉》を獲得した。そこから、「話す」「聞く」という言葉の学習が始まり、情報キャッチボールは格段に豊かになった。

 

それからまたたくさんの世代交代を重ねて、人類は《文字》を発明した。以来、情報キャッチボールはその時その場にいない人との間でも可能になった。

 

そして今。インターネットという道具は、私たちひとりひとりの情報キャッチボールを、途方もなく高めた。けれど、今度の道具はあまりにも急速に広まりすぎて、まだ使い方の勉強が、全然追いついていない。

 

情報キャッチボールは、もはや呼吸と同じだ。情報を受信して発信する。ちゃんと使える”正しい息の吸い方・吐き方”を、この本を何度も見直して、ぜひマスターしていこう。

 

 

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