絶望的格差社会の襲来『コロナ貧困』藤田孝典


昨今は、一旦はワクチンの接種の広がりによって落ち着きを見せたかに思えたコロナ騒動が、新たなオミクロン株なるものの出現によって再び騒然となった。

 

かつてより、ペストやスペイン風邪などの感染症は、時として社会を大きく変貌させるほどの影響力を与えてきた。コロナウイルスもまた、そうしたもののひとつとしていずれ数えられるのだろうか。

 

コロナ禍の中、社会は大きく変わった。在宅ワークが当然のようになり、多くの飲食店をはじめとする企業が苦境に追い込まれた。

 

その結果、経営に喘ぐ経営者は多くの社員を解雇することとなり、失業者が溢れることとなった。その社会の危機を、現実のままに警鐘を発しているのが、藤田孝典先生の『コロナ貧困』である。

 

コロナによって職を失った人々の苦しみの声や、政府の政策への明確な批判を記し、そのうえで国民ひとりひとりがコロナ禍を乗り越えるためにどうすればよいのか、という解決策が提案された一冊だ。

 

このウイルス騒動は、この本で著者が書いている通り、コロナ禍による失業が要因となって経済困窮者が増えたというよりは、コロナ禍によって社会の弱点が浮き彫りになった、という見方が正しいと思う。

 

生活保護を「恥」と捉えて積極的に申請しようとしないという社会保障への誤った認識、未だ各所に残る根強い女性差別、実務的なことを担ってきた非正規雇用者の立場の弱さ。

 

この本では政府やメディアの責任感のなさや見当違いの政策を、その大きな要因だと述べられているが、私からしてみれば、政府と国民、どちらにも良くない点はあると考えている。

 

政府の首を傾げるしかないような政策もコロナ禍において目立っているし、国民は国民で、政府の緊急事態宣言を個々人で自分勝手に解釈して感染対策を怠り、コロナ禍を押し広げた。

 

「経済的困窮が自己責任じゃない」ということを、この騒動で多くの人が実感したのではないだろうか。病気はあらゆる人に平等に降りかかる。そして、貧困のまた、一種の病気である。

 

社会保障制度が上手く機能していないのは公務員の対応などから端を発する「イメージ」が主な原因であるが、政府もその現状を改善しようとしなかったどころかより悪化させた節がある。

 

多額の税金を浪費して実施したマスクの配布は効果的だったとは言いがたく、「子どもがいる家庭を対象とした給付金の再配布」も、今じゃないだろうと思わず感じてしまう。幼稚園や保育園の不足が騒がれた時期ならば評価される政策だったかもしれないが。

 

『コロナ貧困』の述べている全体的な意見をもっともわかりやすい言葉で総括するならば、「政府もっとちゃんとしろ!」と、いうところだろうか。

 

しかし、私は、このコロナを巡る一連の騒動に関して、いや、今後も起こり得るであろうあらゆる事柄への対応について、政府の掲げる政策に期待することは、もはや意味がないだろうとすら感じている。

 

政府とて、このコロナ禍のような感染症による大きな危機を経験するのは初めてのことである。正しい対処などわかるわけもない。数々の政策上の失敗は、むしろ当然だと見るべきだろう。

 

そもそも、日本はずっと、国民からの、政府への信頼が著しく低いのだ。政府はあてにならない。私たちはずっとそう言ってきたし、これからもその社会がすぐに変わるとは思えない。

 

今までと同じだ。いくら「今の政府はダメだ」と言ったところで、政府は変わらない。多くの人が所属しているシステムそのものへの不信感を口にしたところで、簡単に変わるわけがないのだ。

 

ならば、どうすべきか。私は、まず自分自身が変わるところから始めるべきだろうと思う。今までのやり方では生活が成り立たない。ならば、コロナ禍に適応した新しいやり方を模索してみる。政府や社会からの助けを必要としない生き方を。

 

それは、転じて考えれば、ひとりひとりが新しいことを始めるチャンスになるのではないかとも思っている。私たちは今、誰もが岐路に立っているのだ。その道を選んで歩みを進めるのは、誰かが背を押してくれるのを待つのではなく、自分自身が足を踏み出さなければならない。

 

 

コロナ貧困の現実

 

日本で新型コロナウイルス感染者が確認されて1年余りが経過した。感染拡大で生活や雇用に深刻な影響が及んでおり、仕事もお金も住まいも失った人たちは増加の一途をたどっている。

 

とりわけ非正規雇用で働く多くの女性、若年層、高齢者の暮らしはこの1年で劇的に悪化した。収束の見通しは依然として立たず、募る不安が心身にダメージを及ぼしていることが窺える。

 

現場で今、何が起きているのか。その実態についてもっと広く社会に伝える必要があると考え、執筆したのが本書である。

 

今必要なのは、「自分とは無念ではない」と気づくことだと思う。これを機に私は、社会に蔓延る自己責任論を叩き潰したいと考えている。

 

登場人物たちの体験を通じて、「自己責任なんてとんでもない、誰もがいつ貧困状態になってもおかしくないのだ」という認識への転換を強く促したい。

 

これほどまでに大量の生活困窮者が出るということは、私たちが築き上げてきた社会のどこかに歪みがあるのではないかと、この機会にぜひ現実を見つめ直していただきたい。

 

本書が、徹底して貧困問題に向き合い、原因を突き詰め、問題を解決するために何ができるのかを考えるきっかけとなり、現場から社会を変える「ソーシャルアクション」の一助となれば本望である。

 

 

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