あなたを狙う社会の魔の手『悪徳商法の手口を見抜く!!』高田橋厚男


「お前、お金に困ってるんだろ? こんなのがあるんだけど、どうだ?」

 

先輩から紹介されたのは、何かの会社の通販サイトである。会員ページと書かれていて、ずらっと商品がいくつも並んでいる。どれも値段は絶妙に高い。

 

「どうって? 俺はさっき言った通りお金がないので買えませんよ」

 

仕事が合わなくて辞めたのはつい半年前のことである。次の職を探す前に辞めてしまい、再び就職活動をする気にもなれず、ダラダラとした日々を送っていた。

 

当然のように貯め込んだお金はどんどん減ってきて、今住んでいる家を引き払って実家に帰らなくてはならなくなるのも、そう遠くないだろう。

 

「いやいや、そうじゃない。ただ、俺と一緒に仕事しないか、っていう勧誘だよ」

 

「え、マジすか」

 

先輩の言葉に思わず食いついてしまう。仕事をしない焦燥感は常にあった。だが、最初の仕事での苦痛がトラウマになっていて、どうにも動けなかったのだ。先輩と一緒に仕事をするというのなら、自分でもできるかもしれない。

 

先輩とは大学の頃に出会った。大学の頃から遊び呆けてばかりで何もせず過ごした俺とは違い、学生の頃から意識が高く、バイトやサークルなどさまざまなところに顔を出していた行動力のある先輩を俺は尊敬していた。

 

「ああ、このサイトページあるだろ? これに会員登録をするんだ。紹介者のところには俺の名前を入れろよ。そうしたら、俺に紹介料が入る」

 

「なるほど?」

 

うん? なんだか、聞いたことがあるような。ふと、俺の胸中に違和感がよぎる。でも、先輩だから大丈夫だろう。違和感は一瞬で通り過ぎていったが、そうだな、すぐに返事をせず、もう少し話を聞いておこうか。

 

「で、俺はどうすればいいんすか?」

 

「いいか、説明するからよく聞いておけよ。まず、このサイトの会員であるためには、商品のどれかを買わないといけない。一か月に一回、なんでもいいから買えば、会員を継続できる」

 

で、これからが重要なんだが、と先輩は前置いて続けた。

 

「で、会員になったお前がどうやって稼ぐか、だが、今、俺がやっているのと同じことでな。つまり、誰かを会員に誘うのさ」

 

「誘った人が会員になると、どうなるんですか?」

 

「まず紹介料が手に入る。で、さらにすごいのが、たとえば、お前が誰かを勧誘して、その誰かがまた別の誰かを勧誘したとするだろ。そうしたら、その紹介料の一部がお前にも入るんだ。どうだ、すげぇだろ?」

 

つまり、紹介者がどんどん増えていく、というわけだ。なるほど、たしかに効率がいい気がする。だけど、引っかかることがあった。

 

「でも、これってマルチ商法じゃないすか?」

 

マルチ商法。いわゆるねずみ講。会員をねずみ算式に増やしていく詐欺商法だ。平等なように見えて、実はもっとも上位の会員が得をしていくシステムになっているらしい。

 

「いやいや、そんなわけねぇだろ。マルチ商法はトップが儲けるから犯罪だが、このシステムは一定の会員までが同じグループとしてまとめられるようになってんだ。それより上には利益が入らないから犯罪じゃねぇよ」

 

「なるほどぉ」

 

先輩の話を聞きながら、俺が思い出していたのは、つい先日、読んだばかりの『悪徳商法の手口を見抜く!!』という本だった。

 

詐欺をはじめとする悪徳商法の手口と実際に起こった事例がかなり具体的に書かれていた。あまりにも多種多様であり、巧妙な手口である悪徳商法の数々に衝撃を受けたからよく覚えている。

 

その中にマルチ商法もあったのだ。先輩との会話はその例を彷彿とさせた。俺の中に危機感が募る。今、俺はあの本の実例の被害者の役になっているのではないか。

 

「で、どうだ? やろうぜ、俺と。な、いいだろ?」

 

「……いえ、すみません。俺はちょっと、遠慮しておきます」

 

悪徳商法は、最初、甘い言葉で近づいてくる。そして、最後には裏切るのだ。犯罪かどうかは問題ではない。問題は、もっと社会の根幹にあるように思う。

 

先輩の勧誘は金のない俺にとってとても魅力的なものだった。俺があの本を読んで知っていなければ、きっと誘いに乗っていただろう。そう思えば、断る勇気が持てたのはあの本のおかげだと思えるのだ。

 

 

巧妙な悪徳商法の手口

 

長期低迷の経済状況を反映してか、日常生活の生活資金にも困窮している人々が数多く存在していることを容易に知ることができる。

 

このような深刻な社会状況を背景にして、ヤミ金融業者が横行し、その結果として、平和な家庭が崩壊したり、家計の生計維持者が失われたりしていることは、深刻な社会問題である。

 

また、長期にわたる経済的不況を反映して、悪質な詐欺事件が多発している。これらの詐欺事件の被害者の多くは、高齢者などの社会的弱者であることから、これまた深刻な社会問題である。

 

このような状況を鑑みると、悪徳商法や詐欺的商法からいかにして消費者を守っていくか、悪徳商法や詐欺的商法をいかにして根絶していくか、これらのことは緊急の課題だと思科する。

 

私は、悪徳商法や詐欺的商法から消費者を守る方法は、第一に、消費者が悪徳商法や詐欺的商法を見抜く力を培うこと、賢明な消費者になることだと確信する。

 

第二に、もし悪徳商法や詐欺的商法に遭ってしまった場合には、勇気をもって即座に法的手段を取ることであり、そうする勇気を日頃から持つことだと痛感する。

 

この本によって、悪徳商法や悪徳商人から騙される消費者がひとりでも減少し、健全な経済取引社会の実現に向けた取り組みが一歩でも前進するならば、筆者にとって最高の喜びである。

 

 

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