ネットってなぁ恐ろしいもんだよなぁ、兄弟。かつては情報なんてのは新聞やらテレビやらラジオしかなかったってのに、今じゃあ誰も彼もがいろんな情報を見てやがる。「ネット」、「網」ってなぁ良く言ったもんだぜ。まさしく俺らみたいなのを捕まえる「網」ってわけさ。
知ってるかい、兄弟。ネットには、決して知られちゃあならねェ真実が潜んでいることがある。ほとんどはただの虚言、嘘さ。だが、中には「本物」がいる。奴等は上手く紛れてネットをうようよと漂ってやがるんだ。
例えば……ウルトラセブンには放送されることのない幻の話があることを知ってるか。怪獣の二つ名が原因で、その存在は「なかったこと」にされた。
あるいは、アンタ、『ノストラダムスの大予言』っつう作品を。『獣人雪男』は。タイタニックに日本人の生存者がいたことを知っているか。
ネットで怖れられている「夢の国のネズミ」。だが、奴がそれほどまでに怖れられているのは、いったいなぜだろうか。
世の中には、封印された作品が星の数ほどある。制作者側の事情や、権利問題、差別やキャラクターイメージの事情など、理由は様々だが、いずれもそれらの作品は、俺たちの目に付かない暗がりにいる。
世の中には、真実か噓かわからないような事柄が山ほどある。それらはネット上で尾ひれを帯びて、さらに混沌へと姿を変えていく。すでにその原形を知る者はいなくなっている。
そんな物語を集めたのが、安藤健二先生の『封印されたミッキーマウス』ってわけだ。実は、タイトルを書くことすらも少々怖い。だから、ちょっとぼかすのは勘弁してくれな。
ん? なんで「夢の国のネズミ」が怖いのかって。ははは、マア、そりゃあそうだろうな。奴はほんのかわいい、マスコットでしかねェ。怖いのは、その「夢の国」を創ったところさ。
「夢の国」は、神経質なまでに著作権に厳しいところだ。それはアンタも聞いたことがあるだろう、兄弟。すぐに削除の波が来るネットでは、だから怖れられている。一種の恐怖政治だな、はははは。
実はな、こんな事件があった。とある小学校の生徒たちが、卒業制作の一環でプールの底に「夢の国のネズミ」のイラストを描いたってな。それはそれは見事な出来だったそうだ。
だが、その作品に対して、某社は著作権の侵害であると抗議したのさ。子どもたちが創り上げた見事な「ネズミ」は、無残にも塗り潰されることになり、今では跡すら残っていない。
この事件は、マスコミによって大々的に広められた。子どもたちの必死に描いた思い出を塗り潰しておいて、「何が夢の国だ」ってな。
マア、たしかにちょっと大人げなく思うわな。子どもたちのしたことだ、大目に見てもいいじゃないかって。だが、一方的にそう思うのも、ちょっと違うんじゃねぇか。少なくとも、安藤健二先生の本を読んだ後だと、そう思うぜ。
某社の著作権侵害の訴えには、何の落ち度もない、当然の権利を主張したまでだ。当時の担任も、「自分たちが悪かった」って言ってる。
最近のネットの無法ぶりは知ってんだろ。どんなモンでも悪質なパロディが生まれる時代だ。でも、そんな中にあっても、「夢の国のネズミ」の恐怖神話はずっと続いている。だから、みんな面白がって揶揄しながらも、パロディには手を出さねぇんだ。
著作権法は作品と作者の権利を守るための法律だ。俺たちからしたら、多少面倒くさい縛り程度にしか思っていねぇのかもしれないが、作者からしたら勝手にパロディ創られるなんざ堪ったモンじゃない。
そういう意味じゃあ、某社は自分たちの作品を徹底的に守ったとも言えるだろうな。今のネットを考えるとな、その判断もあながち間違いじゃなかったように思うのさ。取ってつけたような嘘の美談さえなけりゃあ完璧だった。
と、マア、知るのは勝手だが、どう扱うのかは俺は構いやしねェよ。好きにしな。信じるも信じねぇも勝手。だが、知った後で後悔するなよ。決めるのは、てめェ自身だ。そのことを、覚えておくんだな。
それは本当か、嘘か
ネットには情報が溢れている。「ヤフー」や「グーグル」などの検索エンジンを使えば、どんな情報でも瞬時に表示される。
ネット上の情報はひとり歩きをして、やがて人々の常識へと変貌していく。その情報が果たして真実なのかどうかは、もはや確かめられることもない。
ネット上の情報は、誰が書いたかわからないものが多い。その情報が真実かどうかの裏付けを取るためには、実際に足を使って取材するしかないのだ。
この本で取り上げた十二のエピソードの多くは、すでに世間に流布しているものだ。あなたも、どこかで眼にしたことのあるネタが混じっているだろう。
「タイタニック号から生還した日本人がいた」「ウルトラセブンには見ることのできない幻のエピソードがある」などなど……。いずれも、ネット上で時たま話題になる、定番のトリビアだ。
私は「世間で言われていることは本当なのか」と疑問に思った。過去の報道を再点検し、関係者に取材を進めていくと、浮かび上がったのは全く別の真相だった。
ネット上に都市伝説のように流布しているエピソードを、真偽不明で終わらせるのなら、それこそネットの焼き直しに過ぎない。ネットが普及した今だからこそ、ジャーナリズムのあり方が問われている。
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