不安から解放されたい人のために『ふっと「不安になる」がなくなる本』鴨下一郎


 いつからだろう。爪を噛む癖ができた。かりかり。かりかり。気が付けば、私はいつも爪を噛んでいる。

 

 

 何かがおかしい。何をしている時でも、いつも心の中には、黒く、重たい、何か得体の知れない塊があった。

 

 

 その正体は、着実に経営が上手くいかなくなっている仕事なのかもしれないし、減っていく給料のことかもしれない。

 

 

 独り身の頼れる人もいない孤独感かもしれないし、今まさに世間を賑わせている感染症かもしれない。

 

 

 あるいは、それら全てが混じり合い、巨大なひとつの「不安」というものが、その塊の正体なのかもしれなかった。

 

 

 何をしている時でも、ふとした時に、私はその存在を感じていた。そして、気が付けば、私はまた爪を噛んでいる。

 

 

 ニュースを見ていると暗い話題ばかり。まるで世界に暗雲が立ち込めているかのようにも思えた。

 

 

 私は知っている。その暗雲が、私の心が見せる妄想なのだということに。けれど、知っていたところで、どうすることもできない。

 

 

 私は暗く澱んだ空を見上げた。どうすれば、空は再び晴れるのだろうか。それは、待ち受ける私の未来そのもののようにも見えた。

 

 

 ああ、ほら、まただ。また私は、爪を噛んでいる。きれいに整えていたはずの爪が、ぼろぼろになっていた。

 

 

 汗が浮き出る。熱中症から逃れるため、私はマスクをして外に出る。口元が熱い。でも、マスクをしないで外に出るのは不安だった。

 

 

 行きつけの図書館に向かう。入ると、涼しい風が顔に吹き付けてきて、私はほっと息を吐いた。

 

 

 人は少ない。誰もが、どこか暗い表情をしている。きっと、彼らもまた、私と同じなのだろう。

 

 

 ぼんやりと、本棚を眺める。ふと、一冊の本が目について、手を伸ばした。本棚に隙間ができる。

 

 

 それは、『ふっと「不安になる」がなくなる本』というものだった。鴨下一郎という人が書いたらしい。

 

 

 はっと気づくと、私はまた、親指を口元に持ってきていた。手を下げて、慌ててその本を持って空いた席に座る。

 

 

 普段、私が読むのは物語ばかりで、こういう本を読むことはほとんどない。けれど、今だけは無性に惹かれていた。

 

 

 この、胸にずっと居座っている漠然とした「不安」を、どうにかしてほしい。このままでは、その塊に何もかもが呑み込まれてしまいそうだった。

 

 

 本のページを開くと、前向きな言葉が目に飛び込んでくる。紙に書かれた無数の言葉たちが、私の不安を失くそうとしてくる。

 

 

 こんな本、気休めに過ぎないよ。どこか冷淡な自分が、本を読み耽る私を嘲笑いながら見つめていた。

 

 

 けれど、気が付けば、そんな視線も気にならないくらい、私はその本に入り込んでいる。爪を噛む暇もないくらいに。

 

 

 読み終わり、本を元の場所に戻した。ほらな、意味がなかっただろう。また冷淡な私が言う。

 

 

 けれど、どこか肩が軽いように思えた。私はそのままの気持ちで、家に帰ろうと外に出る。

 

 

 ふと、空を見上げた。そこには、暗雲のすっかり晴れた、きれいな青空が広がっていた。

 

 

不安の正体と向き合う

 

 今、多くの人の心を読ませているものは、漠然とした不安でしょう。いろんな思いが絶えず頭の中に渦巻いているせいで、「何となく不安」という嫌な感覚につきまとわれる、ということはありませんか?

 

 

 このやりきれない不安感、そして無力感が広がっていったのは、不況だけでなく所得格差が拡大していることにも原因がありそうです。

 

 

 競争原理が社会の隅々にまで浸透し、みんながぎりぎりまで頑張っていますから、その中で抜きん出るには大変なストレスを強いられ、心身共に疲れ切ってしまうのです。

 

 

 私たちが日頃どんなふうにストレスを負わされ、根強い不安を心にはびこらせているか、しっかりと認識しておいた方が良さそうです。

 

 

 どこに問題があるのかはっきりすれば、手の打ちようがあります。この本では、問題解決のためのちょっとしたヒントを紹介しようと思います。

 

 

 新聞やテレビを見れば、暗いニュースばかりです。暗澹たる話題に触れるたび、「明日は我が身」と気分が落ち込む人も多いのではないでしょうか?

 

 

 その一方で、成功法則の本が次々と出版され、人々の野心を煽っています。しかし、同じように努力をして、すぐに良い結果が出せる人もいれば、出せない人もいるのは致し方のない事実です。

 

 

 努力の仕方が自分に合わないものであれば、努力するほどに目標達成から遠ざかってしまうことすらあります。どこまで走ってもキリがなく、不安は深まるばかりです。

 

 

 そんな無力感や自己否定感に囚われてしまうくらいなら、いっそ何もせずにおく方が得策だと思いませんか。成功や幸せの情報にあえて背を向けた方が有益だというのは、まさにひとつの逆説です。

 

 

 ここは全てを一旦ゼロにして、自分自身をリセットするのが賢明です。自分に不向きな成功メソッドに囚われず、あるがままの自分を認めることから始めてみましょう。

 

 

 いきなりすべてを受け入れるのは、難しいかもしれません。それでも、少なくとも人と自分を比べるようなことはよそうと心がけていれば、肩の力が抜けてきます。

 

 

 穏やかで落ち着いた自己肯定感があればこそ、不安や心配、焦り、絶望と無縁でいられます。

 

 

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