本当に長生きは幸せなことなのか?『長生き地獄』松原惇子


 忘れられない光景がある。病院で寝ている祖母の姿。鼻にチューブが繋がれ、寝たきりになった、実験動物のような姿を。

 

 

 長寿大国、日本。まるで誉めそやされるように、そのことを誇っている。私がその姿勢に疑問を持つようになったのは、松原惇子先生の『長生き地獄』を読んでからだった。

 

 

 長生きすることによって生まれる新たな不安。そして、日本の延命治療の歪さ。増えていく寝たきり老人。

 

 

 医療技術が向上したことは、間違いなく良いこと。それなのに、どうしてそんなことが起こってしまうのか。

 

 

 私たちの寿命は間違いなく伸びた。けれど、社会がまだ、その変化に適応しきれていないのだろう。

 

 

 言葉を話すこともできなくなった祖母の姿を見た時、私はそれが必死に生きた人間の最期がそれかと思うと、どうにも哀しくなったのを覚えている。

 

 

 私の父も、母も、そして私自身もきっと、最期は祖母のようになってしまうのだろう。そんな未来を見てしまうと、もう長生きしたいとは思えない。

 

 

 大学生の頃、私はもう、生きるのは充分だと思ったことがある。生きることの楽しみを見出すことができなくなったのだ。

 

 

 生きることが苦痛だった。生きているだけで不安や悩みに押し潰されそうだった。それなのに、私たちは生きなければならない。

 

 

 高校の頃からずっと、私は死生観のことを考えてきた。想像すらできない自分の最期について、ずっと迷い続けていた。

 

 

 もう十分だった。老人になる前に最期を迎えたかった。このまま生き続けたとして、先にはいったい何があるのか。最後に待ち受けるのは、祖母に与えられたような地獄ではないのか。

 

 

 地獄は死後の世界にはない。生きている間にこそ、地獄がある。『長生き地獄』というタイトルは言い得て妙だと感じた。

 

 

 その本では、延命治療の実態が記されていた。日本では当たり前のように行われている延命治療が、海外ではまったくないのだ、と。

 

 

 すでに事切れそうな家族を見て、言う。「お願いです! 助けてあげてください!」と。

 

 

 命さえあれば、助けるということになるのだろうか。それは生きている側の意見でしかない。生きていてほしいという自分勝手な願望でしかない。

 

 

 今にも自然に消えそうな命をつなぐため、医者は患者にチューブをつけ、胃に穴をあけ、食べられず、話せない状況にしてまでも無理やり栄養を与える。

 

 

 ベッドに縛りつけ、点滴やチューブを勝手に外してしまわないよう、腕を固定して動かないようにする。そうして出来上がるのは、息をしているだけの老人の人形だ。

 

 

 けれど、日本ではそんな嘘みたいな光景が、決してファンタジーではないことを知っている。それは現実に行われていて、しかもそれが当然だと思われている。

 

 

 生きる、ということはどういうことか。命がありさえすれば生きていることになるのか。

 

 

 私たちは改めて、そのことの意味を考え直さなくてはいけないのだろう。さもなくば、大切な人の最期に地獄を味合わせてしまうことになる。

 

 

 松原先生は、誰もが絶対にしたくないという、「孤独死」こそがもっとも幸せなのだと言った。私もそう思う。

 

 

 家族はいらない。愛があるがゆえに、家族は最期を迎えることを必死に妨害しようとする。その結果が延命地獄だ。

 

 

 「死が不幸」だという考え。そこから考えるべきかもしれない。友として迎えるべき「死」を、日本人は厭うものとして嫌っている。

 

 

 誰にも邪魔されず、日常生活の延長線上で、自然な最期を迎える。それこそが、人生における最後の幸せなんだと思う。

 

 

 私は今、二十代だ。人生を百年とするなら、あと八十年はある。そう考えると、思わずぞっとする。長い人生ほど恐ろしいものはない。

 

 

寿命大国の歪み

 

 日本人の寿命が延び続けている。医療の発展や衛生状態などの向上のおかげで、私たちの寿命が延びているわけだが、心から喜べないのはなぜだろうか。

 

 

 最近、「長生きしたくない」という声をよく聞くようになった。その理由は、仕事の不安、年金の不安などで、長生きが幸せにつながらないからのようだ。

 

 

 長生きが幸せだった時代は、いつの間にか去り、現代は、長生きが恐ろしい時代に入ったと言える。

 

 

 最近、自分はどこまで生きるのだろうかと、考えることが多くなった。独り身のわたしにとり、どんなにすばらしい見本を見せられても、長生きするのは、こわい。

 

 

 長生きが怖いなら、長生きの現場に乗り込めばいいと、ある日思い立ち、今回、取材を中心にした本を書くことにした。

 

 

 取材をしているうちに日本には、”死にたくても死なせてもらえない高齢者”が大勢いることがわかり、愕然とした。

 

 

 それこそ長生き地獄だ。どうしてこうなってしまったのか。原因は何なのか。欧米も同じなのか。

 

 

 わたしが得た知識と感じたことを多くの人に知ってもらいたくて、おどろおどろしいタイトルだが、あえて『長生き地獄』とつけさせてもらった。

 

 

 100%の確率で近い将来やってくる人生の終わりの時を、安心して迎えるために、この本が少しでも役に立ったらうれしい。

 

 

長生き地獄 (SB新書) [ 松原 惇子 ]

価格:880円
(2020/10/26 22:59時点)
感想(2件)

 

関連

 

これからの人生戦略とは?『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』リンダ・グラットン

 

 人生百年時代。その変化によって、人々のライフスタイルは適応を求められている。すでに従来の寿命に合っていた制度は崩壊しつつある。だからこそ、新たなスタイルを開拓しなければならない。

 

 

 人生に迷っている貴方様におすすめの作品でございます。

 

 

LIFE SHIFT(ライフ・シフト) 100年時代の人生戦略 [ リンダ・グラットン ]

価格:1,980円
(2020/10/26 23:03時点)
感想(30件)

 

孤独ほど贅沢なものはない『極上の孤独』下重暁子

 

 孤独であることは幸せなことだ。世の中には孤独であることは悪いこととされる。しかし、孤独はひとりでいる方が充実した生活を送ることができる、成熟した人間の贅沢なのだ。

 

 

 誰かといつも一緒にいたい貴方様におすすめの作品でございます。

 

 

極上の孤独 (幻冬舎新書) [ 下重暁子 ]

価格:858円
(2020/10/26 23:10時点)
感想(18件)