浮気や不倫をなくせない理由とは『人はなぜ不倫をするのか』亀山早苗


 ああ、私の愛しい人。あなたはなんて愚かなのでしょうね。あなたは今も、私が何も知らないと、思い込んでいるのでしょう。

 

 

 神父様の前で、かつて誓った言葉。あの時、力強く頷いたあなたは、今やもう、どこかへ行ってしまったのかもしれません。

 

 

 携帯電話に残されたメール。白いワイシャツに残されていた口紅のアト。部屋に落ちていた、私のものではない、長い髪の毛。

 

 

 あなたは上手く隠し通せていると思い込んでいるのでしょう。けれど、ヒントはどこにでもあるものです。

 

 

 あるいは、相手の人は、隠そうという気がないのでしょうね。夫のワイシャツに残された口紅からは、私への敵意がありありと感じられました。

 

 

 夫が不倫をしている。あなたの帰りが遅くなった頃から、薄々と、思っていたこと、そして、目を逸らしていたことでもあります。

 

 

 けれど、さすがにそろそろ、現実を見なければならないのでしょう。二つの選択肢が、私の前にあったのです。

 

 

 糾弾するか、黙り込むか。夫の不義を責める材料は、たくさんあるのです。それを使うも殺すも、私次第。

 

 

 夫との間には、すでに愛はありません。不倫の証拠を見せられるたび、私は泣き、憎み、そして最後にはとうとう、何も残りませんでした。

 

 

 今はもう、ただ虚無だけが私の中に広がっているんです。あなたは今日も、あなたの新しい人のもとへ行っているのでしょうけれど。

 

 

 糾弾すれば、私たちの生活は崩れるでしょうね。別れることになるかもしれません。少なくとも、私たちの間に大きな壁が寝そべることになるのは間違いないでしょう。

 

 

 もしくは、このまま黙り込めば。私が知った事実を、ないことにする。そうすれば、今までと生活は変わらない。

 

 

 私たちは互いに背を向けたまま、一緒に暮らして、そして、あなたは安心してこれからも会いに行くのでしょう、あの女と。

 

 

 ああ、でも、私は今、あなたと彼女の関係を、あるいは、私とあなたの関係を、壊したくてたまらないのです。

 

 

 それによって誰かが、いや、誰もが哀しむことになろうとも、私はそうしたいと思っているのです。

 

 

 こんな私を、あなたは許さないでしょうか。あなたの愛が失われたように、私もまた、あの頃の純粋な小娘ではなくなったということですよ。

 

 

 そこで、私はひとつ、考えたのです。あなたに贈る、ほんの少しの、プレゼント。

 

 

 私は夫が間違いなく見るであろう机の上に、亀山早苗先生の『人はなぜ不倫をするのか』を、そっと置いたのです。

 

 

 これは、私からのメッセージ。気付いていますよ、という、無言の糾弾。さて、あなたはどんな反応をするでしょうか。

 

 

 私がその本を読んだのも、そもそも、あなたのせいなんですよ。あなたが不倫をしたから。

 

 

 ただ、その本によると、どうやら、不倫は、生物的には「仕方のないこと」なのだそうですね。

 

 

 不倫はいけないこと、でも、つい、やってしまう。あなたを見ていると、その本の言っていることも、わかるような気がしました。許せないことは、許せないんですけれど。

 

 

 でも、その本はある意味、私の中にあった躊躇いを、どこかに吹き飛ばしてしまったのです。

 

 

 不倫は仕方のないこと。私たちの間にもはや愛はなく、あなたは別の人と愛を持っている。

 

 

 それなら、私が不倫をしたって、あなたは許してくれるでしょう?

 

 

 私とあなたの生活には、もう虚無しかありません。けれど、今の私の胸には仄かな甘い幸せがあるのです。

 

 

 あなたは机の上に置かれたこの本を見て、何を思うでしょうか。焦り? 怒り? 戸惑い? 疑問?

 

 

 あなたへの愛が潰えた私ですが、あなたの反応を想像すると楽しくなってくるのです。これもまた、ひとつの愛なのでしょうか、ね。

 

 

不倫をしてしまう理由とは

 

 2016年は女性タレントの「不倫」の話題から始まった。それ以降も、芸能人から政治家に至るまで「不倫」のオンパレードだ。

 

 

 もちろん、市井の人々の不倫も決して減ってはいない。既婚者同士はむしろ増えていると実感している。

 

 

 一昔前に比べ、不倫をしている当事者たちはそれほど重い罪悪感は抱えていない。「恋愛と結婚は別のもの」という考え方が、女性たちの間にも浸透するようになっている。

 

 

 昨今では「もとはといえば一夫一妻制に無理がある」と断言する人も少なくない。一生ひとりの人だけに縛られて生活するのは疑問だ、そんな声も耳にする。

 

 

 しかしながら……と考える。そもそも、人はなぜ不倫をするのだろう。

 

 

 個人的には不倫を推奨も否定もしたことはない。だが、これほど不倫が世に跋扈しているのなら、「そもそも」を考えてみてもいいのかもしれない。

 

 

 どうせなら、さまざまな角度から専門家に「人はなぜ不倫をするのか」を訪ねてみたい。生物学的社会学的見地から、今回の8人の先生方にお願いすることとした。

 

 

 この本は上記のように、各先生のお話の合間に、一字下げて私の個人的感想や、これまでの取材で感じたことなどを挿入するという形式で成り立っている。

 

 

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