歴史を逞しく生き抜いた女性たち『姫君たちの明治維新』岩尾光代


 時代は変わる。変わっていく。今はすでに過ぎ去った歴史となっていって、世界は少しずつ、前へと進んでいく。

 

 

 けれど、私はどうしても、あの時代を忘れられない。国中が不可思議な熱狂に包まれていた、あの時代を。

 

 

 平成が終わり、令和になった。昭和も、大正も、すでに歴史の教科書にしか語られない時代になった。

 

 

 かつてのその記憶が残っているのは私しかいない。となると、やはり寂しい気もする。長い時の中で割り切ったとは思っていても、やはり寂しいものは寂しい。

 

 

 黒船が来航したのが、まるでつい昨日のことのよう。というのは言い過ぎにしても、私にとっては遠い昔とは思えない。

 

 

 あの頃は、誰もが時代の変化を感じ取っていた。海に浮かぶ怪物のような鉄塊に、乗っていた巨人のような男。当時は圧倒されたものだ。

 

 

 海の向こう側から持ち込まれた新たな変化は、人々の心に風を吹き込んだ。叫ばれる尊王攘夷の声。人々は不安がっていても、内心では高揚感に包まれていた。

 

 

 どうして今になって、こうも私は過ぎ去った明治の時代に思いを馳せているのか。昨日読んだ本がきっかけになったのかもしれない。

 

 

 『姫君たちの明治維新』。思わず手に取ってしまった。懐かしさに胸を打たれて。

 

 

 時代はいつも男が作る。女はその陰に隠れているだけ。日本では、特にそうだった。「大和撫子」という理想の女子像は、男から見た都合のいい女の姿でしかない。

 

 

 まだまだ未熟とはいえ、男女共同参画社会とやらが叫ばれるようになったのは、驚くべきことだ。当時と比べると、現代はよほどましである。

 

 

 女は働くことができる。学校にも通える。学ぶことができる。当時からしてみれば、考えもしない未来だった。

 

 

 そんな時代でありながらも、『姫君たちの明治維新』に書かれている女性たちはみんな、逞しく生きていた。思わず目頭が熱くなる。

 

 

 坂本龍馬。西郷隆盛。勝海舟。明治維新を成し遂げた男たちの陰で、彼女たちもまた、生きた証をこうして残している。

 

 

 徳川幕府の将軍に嫁いだ天璋院篤姫。夫と共にヨーロッパに渡った鍋島胤子。徳川慶喜の義理の祖母である一橋直子。

 

 

 歴史の教科書を読んでも、彼女たちの名前が出てこない。篤姫も、ドラマになっていなかったら、これほど知られてはいなかっただろう。

 

 

 女はいつだって男の陰に隠れている。歴史はいつもそうしてきた。けれど、彼女たちだって必死に生きて、時代の荒波を乗り越えようと奮闘していた。

 

 

 私はその姿を知っている。だからこそ、この本がその証明のようで嬉しいのだ。彼女たちの頑張りは、見てくれている人がいる。

 

 

 日本はずっと厳格な男尊女卑の社会だった。女は家にいるべき。そんな常識が当然のようにあった。

 

 

 その名残は、今でも消えていない。「女はこれだから」。男女平等が叫ばれる今の時代ですら、そんなことを平気な顔をして言う男はいなくなっていない。

 

 

 わかっている。あまりにも長く日本は男尊女卑であり続けた。国に刻まれたその風習は、常識が変わっても、なかなか抜け出せるものではない。

 

 

 けれど、少しずつ。それは遅いかもしれないけれど、確実に、良い方向に進んできている。

 

 

 男だから。女だから。そんな性別の「常識」なんて打ち破って、誰もがやりたいことをやりたいようにできる。そんな時代。

 

 

 かつての女性たちはみんな、そんな時代を夢見てきた。好き勝手言われながらも、その未来を叶えようと努力してきた。

 

 

 男女平等には、まだまだ程遠い。けれど、間違いなく時代は変わっている。「女らしさ」から解放された奔放な女性は、増えている。

 

 

 明治維新の時に感じていた新たな風。それが、今も吹いている。時代は、今、もう一度変わるべきなのだ。

 

 

 あの時、誰もが望んでいた「平等で自由な世の中」。そんな未来は、時を超えて、少しずつ現代に近づいている。あの頃の黒船のように。

 

 

時代に翻弄された女性たち

 

 今年は明治維新から百五十年になる。西暦1868年四月十一日、幕府討伐軍が江戸城に入った。

 

 

 同じ日、最後の将軍徳川慶喜は水戸で謹慎するために、蟄居していた上野寛永寺を出立し、江戸城は徳川家の手から完全に離れた。

 

 

 三月十三日、討幕軍を代表する薩摩の西郷隆盛と、幕府代表の勝海舟が会見して、江戸城の「無血開城」が決まった。戦わずに城を明け渡すことにしたのである。

 

 

 江戸城は、今も日本の中心にある。徳川家康が、ここを本拠地と決めたのが天正18年。今は天皇の住まいと宮殿がある。門や櫓や石垣などの遺構に四百年を経た城の姿を偲ぶばかりだ。

 

 

 明治維新時、日本中にはおよそ190の「城」があった。このうち、徳川幕府の城は江戸・大阪・二条・駿府・甲府の五つ。

 

 

 江戸城は無血開城し、大名たちは城を去り、奥で暮らしていた妻たちも城外で生きることになった。

 

 

 江戸城からは天璋院、和宮、将軍の生母たちが立ち退いて、新たな人生を送ることになる。

 

 

姫君たちの明治維新 (文春新書) [ 岩尾 光代 ]

価格:1,078円
(2020/6/22 01:21時点)
感想(0件)

 

関連

 

織田信長が天下をほぼ統一することができた理由を解説『信長の経済戦略』大村大次郎

 

 戦国時代の武将、織田信長。彼は天下統一を目指し、あと一歩というところまで辿り着いた。彼が天下人にそこまで近づけたのは、彼が優れた経済家だったからだ。

 

 

 織田信長が好きな貴方様におすすめの作品でございます。

 

 

信長の経済戦略 国盗りも天下統一もカネ次第 [ 大村大次郎 ]

価格:1,650円
(2020/6/22 01:24時点)
感想(1件)

 

大正百年の世界に飛ばされてしまった少女が奮闘する『小説 千本桜』一斗まる

 

 未來はいなくなってしまった流歌を探して桜並木をさまよう。一本の巨大な桜に見惚れた未來は、気づけば知らない場所にいた。そこはなんと、大正百年の別世界だった。

 

 

 大正浪漫が好きな貴方様におすすめの作品でございます。

 

 

小説 千本桜 壱 (角川ビーンズ文庫) [ 黒うさP/WhiteFlame ]

価格:660円
(2020/6/22 01:28時点)
感想(1件)