気持ちがちょっとラクになる『「繊細さん」の本』武田友紀


 なんでそんな細かいところを気にするの。友人から不思議そうに聞かれたその言葉が、私は今も忘れられないのです。

 

 

 完璧主義。初めて勤めたお店の店長は、私のことを指してそう言いました。初めて言われたその言葉に、思わずきょとんとしたことを覚えています。

 

 

 私は自分が完璧主義と思ったことはありません。むしろ、そんなストイックな性格どころか、手を抜いてばかりの怠惰な人間だという自負がありました。

 

 

 だからこそ、私に下されたその評価には疑問を覚えざるを得ませんでした。私は当然のことをしているに過ぎなかったからです。

 

 

「もっと早くしろ!」

 

 

 雲行きが怪しくなってきたのは、勤め始めてからしばらくしてからのことでした。新入社員という肩書がなくなり、私は事あるごとに怒鳴られるようになりました。

 

 

 原因は明確です。私がひとつの仕事をしている間に、他の人はふたつの仕事を終わらせている。私は人と比べて仕事が格段に遅かったのです。

 

 

「どうして一週間も経ったのに、そんなに遅いんだ!」

 

 

 店長からの怒声に、私は身を縮めることしかできませんでした。のんびりしているわけではないのです。でも、どうしてか、早くできないのでした。

 

 

 私はこんなにもできない人間だったのか。愕然としました。学生の頃はそこまで自分のことを不出来に思ったことはなく、何事もそれなり程度にはこなせる人間だと思っていたので。

 

 

 社会に出て、その自信は粉々に打ち砕かれたのです。次第に私は笑顔を浮かべることができなくなっていきました。

 

 

 それでも、仕事を辞めるという選択肢はありませんでした。店長に言いに行く勇気はなく、親の期待を裏切りたくなかったのです。

 

 

 まるで生き地獄でした。しかし、病気でもないのに、休むこともできません。私は毎日会社に行って、怒声を聞きながらもなんでもないことのように振舞って働き続けました。

 

 

 私は何年後、何十年後にも、こんなことをして過ごしているのだろうか。そんなことを考えるたびに、頭の中が真っ暗になっていくように感じました。

 

 

 ある時、私はとうとう、出勤日にもかかわらず、会社に行きませんでした。初めて無断欠勤したのです。そう決めた時ですら、私の心の中では罪悪感がジュクジュクと疼いていました。

 

 

 カバンの中にはロープが入っていました。それとなく視線を走らせながら、私は歩き続けていました。

 

 

 果たして実行に移せたか? それは、まあ、今、私がこうして話していることからわかるんじゃないでしょうか。

 

 

 私は実行できませんでした。いざ、という時に、暗い部屋で言葉を交わすことなく二人きりの父と母の姿が浮かんできたからです。

 

 

 父と母には愛されて育った自覚があります。それは私がいなくなった後の想像図でした。わかりやすく泣いてすらいないその予想図が、いっそう私の胸を締め付けたのです。

 

 

 私は諦めて、けれど、今さら謝罪の電話を入れることすら恐ろしく、ただ、何をするでもないまま彷徨い歩いていました。

 

 

 同じ職場の人に見つかりませんように。そんなことを祈りつつ、隠れるように裏路地ばかりを歩くのは、なんとも言えず惨めな感じでした。

 

 

 魂の抜けた抜け殻のように、ふらりと立ち寄ったのは本屋でした。とはいえ、特に何を目指すでもなく、ただ私はぼんやりと本棚を見つめていたのです。

 

 

 その時にふと目についたのが、武田友紀先生の『「繊細さん」の本』でした。私は思わず手に取って、ぺらぺらと読みます。

 

 

 これは私のことを書いた本だ。その本を読んだ時、何の誇張でもなく、まさに私はそんなことを思ったのです。

 

 

 私が疑問に思っていたこと。彼らと、どうしても噛み合わない理由。それがようやくわかった気がしました。

 

 

 私もまた、ひとりの「繊細さん」だったのです。欠陥があるわけではなく、ただ、繊細なだけ。そう言われたような気がして、心がふっと楽になりました。

 

 

 繊細さを、欠点ではなく、長所として活かす。それまで暗雲に覆われていた私の心に、一筋の光が指したような気がしました。

 

 

 私は今まで親の期待に応え、職場の人たちの期待に応えようと努力してきました。しかし、それは、私の人生ではなく、私以外の誰かが望んでいるだけなのです。

 

 

 私が本当にやりたいことをしよう。私だけの人生を。私はその時ようやく、「私自身」を見つけることができたのです。

 

 

繊細さんが繊細なままラクに生きる方法

 

 この本は、「繊細でストレスを感じやすい人が、繊細な感性を大切にしたまま、ラクに生きる方法」を書いた本です。

 

 

 友人や家族、同僚から言われる「そんなに気にしなくてもいいんじゃない?」なんて言葉は、あまり役に立たなかったのではないでしょうか。

 

 

 それもそのはず、繊細な人が持つ「繊細さ」は、性格上の課題ではなく、生まれ持った気質の可能性が高いからです。

 

 

 繊細な人が「鈍感になる」「気づかずにいる」ことはできません。生まれつき繊細な人が鈍感になろうとすることは、自分自身を否定することであり、かえって自信や生きる力を失ってしまいます。

 

 

 本書でお伝えするのは、「鈍感になる」「心を鍛える」といった方向性とはまったく逆。繊細な人は、むしろ自分の繊細な感性をとことん大切にすることでラクになり、元気に生きていけるのです。

 

 

 自分の繊細さを知り、長所として活かすことで、人生が大きく変わります。自分を大切にした生き方になり、人間関係も家族関係も、仕事もうまく行き始めるのです。

 

 

 自分の繊細さを克服すべき課題としてとらえるのではなく、いいものとしてとらえる。そこが出発点です。

 

 

 「繊細さんが元気に生きる技術」は、繊細さんが生まれ持った力を活かした、繊細さんが幸せに生きるための技術です。技術だから、練習すれば誰でもできるし、上達していくのです。

 

 

 この本は、繊細なカウンセラーによる、繊細さんのために、実際に有効だったノウハウを詰め込んだ実用書なのです。

 

 

 この本を手に取ってくださった繊細さんが、少しでも安心し、自分のままで生きていけるのだと未来にワクワクできたなら本当に嬉しく思います。

 

 

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