疲れた。もう、その心の中に蔓延する感情を言葉にすることすらも私にはできなかった。
いつものように繰り返される上司からの説教。なぜだか、その言葉が明瞭には聞こえない。まるで異国の言葉を聞いているかのようだった。
どうにかその意味を理解しようとするも、聞こえるのは不明瞭な言葉の羅列だけだった。まるで頭の中に靄がかかっているかのようだ。
「君、聞いているのか!」
上司の怒鳴り声に、私は思わずびくっと肩を揺らした。真っ赤に染まった彼の顔がさながら鬼か悪魔のように怖ろしく見える。
彼の言葉は理解することはできなかった。しかし、聞いていないと答えたらさらに怒られるだろう。私は「はい」と力なく頷いた。
すると、「なんだその返事は」とさらに怒られた。同僚からの視線がわざとらしく逸らされる。延々と続く説教は、まるで永遠のようにも感じられた。
ふと我に返ると、上司はいつの間にか自分の席に帰っていた。私は自分のデスクに座り、パソコンに向かっている。
自分の仕事をぼんやりと思い出す。キーを叩くと、画面に文字の波がつらつらと書かれていく。珈琲を口に注いだ。湯気が出るほど温かかったはずの珈琲は、とっくに冷めていた。
オフィスに響いている声や、書類をめくる音や、キーボードを叩く音がどこか遠くの世界から聞こえるように感じた。
周りの光景が真っ暗になっていく。まるで世界には私とパソコンだけがあるかのようだった。
黙々と、自分の仕事を進めていく。進めなければ、到底間に合いそうにない。遅れてしまえば、また上司に怒られるだろう。
別の上司から肩を叩かれる。彼の言葉もまた、意味が頭にまで届いてこない。頷くと、終わりかけだった仕事の上に、さらに別の仕事が積み重ねられた。
ああ、これはもう、間に合わない。でも、断ることはできなかった。断れば、また怒られる。私は間に合わないと知りながらも、必死に仕事を進めた。
まるで汚泥の底にいるかのような生活だった。檻の奥に繋がれているかのような。いや、いっそ、その方がよほどましなのかもしれないとすら思えていた。
このまま、私は人生の幕引きまでこの生活を続けるのだろうか。それは、なんて何もないのだろう。楽しみも、夢も、気がつけば何も見えなくなっていた。
むしろ、それならばすぐに終わらせてもいいのではないだろうか。私の人生なんて、その方が誰にとっても良いのではないか。そんなことを本気で考えていた。
毎日が地獄だった。それならば、命を失った先にある地獄は生きることよりはましだろうと思えるのだ。
暗闇の中で見つけた光
大学の頃の私は物語を書くのが好きだった。サークルでの課題でもあったが、自分で趣味で書くのも楽しかった。
社会人になっても、ずっと小説を書いていたかった。しかし、仕事にはしたくなかった。物語を書くことに制約で縛られたくなかったからだ。
仕事で働いて、余暇の時間で小説を書こう。そう決めたから、私はこの会社に入ったのだ。
しかし、どうだろう。私はいつから物語を書かなくなったのか。私はいつから仕事に何もかもを囚われるようになったのか。
私の夢は、いつしか、仕事によって圧し潰されていた。物語なんて、もう何ひとつとして浮かんでこない。
本を読みたい。そう思った。学生の頃には浴びるように読んでいた本も、就職してからはまったく読めなくなっていた。
私は近所の大きな本屋に赴く。懐かしくも、どこかよそよそしいような雰囲気を感じた。まるで、今の私の居場所はここではないだろうとでも言うように。
ふらふらと本棚の隙間を縫うように歩く。かつては楽しく読んでいたはずのマンガや小説が、どこかくすんでいるようにも見えた。
以前は、本屋は宝の山だった。自分の気に入るような本を探す、宝探しのようなものだった。
それが、どうだ。今は何も見えない。どれもこれもが真っ暗だった。私にはもう、宝を探す目すら残っていないのか。
ふと、視線を移した先に、奇妙な光が見えた。それは今まで見向きもしなかった、ビジネス書や哲学書、自己啓発の本の棚だった。
私はその光に手を伸ばす。背表紙には、『働く人のためのアドラー心理学』と書かれていた。
あなたのためのアドラー心理学
人は生きていれば、「もう疲れたよ……」と肩を落とし、座り込みたいくらいに疲弊するような時期もあるでしょう。
アドラー心理学の大きな特徴のひとつに、「どんな状況にあっても、それだけで人生は決まらない。その後の人生をどうするかは、自分で決められる」という考え方があります。
何もかも八方塞がりのような状況でも、この先も「もうダメだ」とうなだれ、嘆き続けるか、「あとは這い上がるだけだ」と奮起するかは、自分で選べるのです。
また、もうひとつアドラーの考え方で感銘を受けたものがあります。「人間の行動には、『原因』があるのではなく、『目的』がある」という考え方です。
私たちは、失敗した時や落ち込むような状況に陥った時、過去の自分の行動の中に原因を探りがちです。
しかし、原因を探っても過去には絶対に戻れません。となると、「なぜ」という言葉は、自分を責めるだけになってしまいがちです。
であれば、「この先、有意義な人生にするためには、どうしたらいいか」と考える方が、より建設的です。
「過去は問わない。他人のせいにしない。自分が未来に向けて、今から何ができるか」アドラー心理学は、こう考える心理学なのです。
ちょっとした仕事の失敗や人間関係のこじれなどが原因で、普段よりも心が疲れてしまった人こそ学び、実践してほしいとアドラー心理学は作り出されたのです。
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