デスクトップには、未だ真っ白な画面が映し出されている。僕の手はキーボードの上で止まったまま。時折、文字を打ち込んでは、消す。その繰り返し。やっぱり、僕には小説を書くことなんてできないのだろうか。
小説の世界に没頭し始めたのは、小学生くらいの頃だったと思う。きっかけは『シートン動物記』だった。オオカミ王ロボのストーリーから物語の魅力を知り、ジャンルも何も気にすることなく、ただ気になる本を片っ端から読んでいった。
中学生になっても、僕は図書室に通い続けた。小学校の図書室よりも規模は小さいけれど、新刊も割と揃っている、今にして思えばいい図書室だったように思う。
けれど、高校の図書室は、小学校や中学校の図書室と比べると、少し物足りなかった。取り揃えられた本のチョイスはパッとしないし、新刊も滅多に入ってこない。
その頃にはすでに、僕は小説の魅力にとりつかれていた。こんなんじゃ足りない。もっと、もっと小説を。読みたいのに、望む本がない僕の欲求不満は日ごとに増していくばかりだった。
ふと、思い至る。「望む本がないのなら、いっそ、自分で書けばいいじゃないか」と。それが、僕の小説を書く理由だった。
パソコンを立ち上げ、滅多に使わないWordのソフトを開き、準備は整った。けれど、いざ、という時になって、何も書くことができない。
頭の中には無限に広がるストーリーがあった。それなのに、それを文字として形にすることができないのだ。時々思い出したように書いてみては、すぐにしっくりこなくて消すことになった。
僕はその時初めて、小説を書くことの難しさを知った。小説って、こんなにも書くのが苦しいことなんだ。物語はいつまで経っても始まらない。
……ああ、だめだ。僕の中で諦観の感情が渦巻く。やっぱり、僕には無理なのだ。どうやら読むことはできても、書く才能はないらしい。そんな卑屈な思いが、僕の胸を暗雲のように覆い尽くしていた。
その時、ふと、本棚に収まっている一冊の本が眼に入った。小説を書こうと決意したその日に、本屋で参考になりそうな本を選んだ、そのうちの一冊だった。
『小説を書きたい人の本』。あまりにもそのままなタイトルだ。他の本は少しばかり目を通したけれど、この本はまだ読んでいない。
ただ、その本のサブタイトルが、僕の心に突き刺さった。「好奇心、観察力、感性があれば、小説は書ける!」と書かれている。
僕はキーボードの前から数時間ぶりに離れ、何かに導かれるようにその本をめくった。
内容は、「小説の模範的な指南書」といったところ。初歩の初歩から発展したことまで、しっかりと逃すことなく掬い上げている。
良い文章の例と良くない文章の例を出してくれるから、書かれている内容が教科書じみてなくて面白く、それでいてわかりやすかった。僕は霧中で読み進めていく。
けれど、ふと、読むのをやめた。それは、この本に書いてある、ひとつの言葉が目についたからだった。「小説をかいてみたい、書いてみようか、と思っているのなら、まずは実際に書き出してみること」。
そうだ、書かなければ物語は何も始まらない。頭の中で再生されるばかりで、読むことも読まれることもできない。何にしても、まずは書かなければいけないのだ。
今ではある程度、あの頃よりは気負わずに文章を書けるようになった。今も、あの本に書かれていたことを、考えながら書いている。
小説は自由な芸術だ。だが、ルールは存在する。転じて言えば、ルールが存在するからこそ、それを破ることのできる自由がある。けれど、何をするにしても、まずは書かなきゃ何も始まらない。
小説家になるための第一歩
最近の小説界を見渡して見ると、小説ジャンルが多様化し、拡散化して、これまでの小説ジャンルや小説観だけではとらえきれない作品が数多く出てきています。
また、若い世代の作家たちの進出も目立つようになりました。そんな状況もあって、小説を、あるいは、小説でも、書いてみようかと思う人が、近年、ますます増えてきています。
小説を書いてみたい、書いてみようか、と思っているのなら、まずは実際に書き出してみることです。とりあえずは原稿用紙に向かって、あるいはキーボードに向かって、頭の中に浮かんだ物語、かねてからあたためていた物語の一端を書き留めてみましょう。
小説というのは、本来、誰が、何を、どう書いてもいいものなのです。まさに十人十色、書く人の想像力と創造力しだいで、いかようにも独自の物語世界を展開していくことができ、それが小説を書く醍醐味でもあるのです。
とは言っても、いざ、書く段になって、どこから手をつけていいものか、何を、どうすればよいのか、戸惑っている人たちも多いことでしょう。
そうした人たちのためにも、本書では書くという行為がどのようなものなのかに始まり、小説を書き出すにあたって注意していただきたいことを、三部構成で実践的に展開しています。
小説を書いてみようという意識を持った瞬間から、小説を書くという行為はすでに始まっているのです。何を、どう書くかが問題になってくるのですが、その前に本書をじっくりと読んでください。
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