私は「平成」生まれである。祖父母や、他の多くの大人たちが、日本の素晴らしさを称えているのを聞きながら、ずっと疑問に思っていた。こんな国の、いったいどこが素晴らしいというのだろう、と。
幼い頃からテレビっ子だった私は、くだらない汚職に手を汚した政治家の謝罪会見を腐るほど見てきたし、暗い報道ばかりが流れるニュース番組をずっと見てきた。
政治家の発言なんて二転三転が当たり前、汚職や不正が毎日のように起こっているのに、国民の怒りの声も聞かぬふりしてまだ甘い汁を根こそぎ吸い続ける。
高い税金と低い給料。国民は毎日必死に働いてようやく生活できる。会社は社員のことなんて使い勝手のいい歯車としか思っておらず、誰もがぶつぶつと国や会社に愚痴を言いながら生きている。
そんな国こそが、私の生まれた日本だった。素晴らしいところなんてどこにもない。
大人たちの多くは、「昔はよかった」と口癖のように言っている。私はその時代のことは知らないけれど、日本の文化や歴史は嫌いじゃなかった。
鎖国していたために国の中で高められてきた日本独自の文化は、美しく、風情がある。それは、世界に誇ることができるもののひとつであると思う。
戦争していた頃の日本は、「黒歴史」のような扱いを受けている。しかし、当時の愛国心溢れる日本の兵隊は、小さな島国でありながら、アメリカやロシアなどの大国すらも怖れさせる勇敢な人たちだった。
戦後、焦土と化してしまった日本が今の姿を取り戻したのは、「国のため」という言葉に奮起し、身を粉にして力を尽した日本国民のひとりひとりの努力があってこそである。
にもかかわらず、彼らが命を懸けて守り、築いてきた日本は今や、かつての気高さも、かつての美しさも、失われてしまった。
いったいどうして、こんなことになってしまったのだろうか。荻原博子先生の『私たちはなぜこんなに貧しくなったのか』は、その理由に迫る一冊である。
その渦の中心にあるのは、「平成」という時代である、と、先生は言う。私の生まれた時代。その時代こそが、日本を大きく変えてしまうこととなった。
年金制度は崩壊し、消費税は政府が潤うための搾取の道具となり、原発の安全神話は崩れ去った。経済は悪化の一途を辿るばかりで、うつ病と社会不安が蔓延し、いったいどこに希望を持てばよいのかすらわからない。
それこそが、今の日本だ。「昔はよかった」と言って過去に浸るでもなく、「きっとよくなる」と未来に根拠のない希望を持つでもなく、このどうしようもない国こそが、私たちの生まれ育った日本という国なのである。
荻原先生は、最後に、「平成の末から令和にかけて社会人になった令和世代の人たちが政治や経済の中枢になった時、日本は再び輝くのではないか」と述べている。
それもまた、まさにその「令和世代」のひとりとして、納得がいかない。どうしてこれほどまでに落ちぶれてしまった日本の後始末を、私たちがしなければならないのか。
日本は、沈みゆく船だ。穴が開いてじわじわと浸水してきているのに、船員たちは自分が助かることを考えてばかりで、誰も穴を塞ごうとしない。あまつさえ、新しく船員になった若者に、船に残ってこの穴を塞げというのである。
船に残る必要なんてない。正直に言えば、老人たちがしがみつくこんな船なんて、捨ててしまうのが、もっとも賢い生き方なのではないかと私は思う。
あるいは、沈んでゆく船の上で慌てふためく人たちを眺めながら、死ぬその瞬間まで最後のディナーを楽しむのもまた、ひとつ、面白いのかもしれない。
「平成」という時代
「平成」という時代は、戦後から昭和末期にかけて日本人が血のにじむ思いでゼロから築き上げた栄光が、まるで時計の針を逆回転させるかのように再び壊れていった時代でした。
明るい老後を約束してくれたはずの「年金」が、なぜ老後不安をかき立てるものになってしまったのか。社会保障を充実させるということで導入された「消費税」が、なぜ30年間ものあいだ庶民を騙し続けることになってしまったのか。
「平成」では、ありえないはずのことが次々と起きました。日本はなぜ、これほどまでに劣化してしまったのか。私たちはなぜ、こんなに貧しくなってしまったのか。
かつて、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ともてはやされ、世界から賞賛され、ひときわ大きな奇跡の輝きを放っていた日本。けれど、「平成」になってその経済成長は止まり、信じがたい凋落ぶりを示しています。
すでにみなさんも、日本がどんどん貧しい国になっていることは、実生活の中で実感しているのではないでしょうか。
劣化したのは、経済や暮らしだけではありません。敗戦後、灰の中から立ち上がり国家の礎を築いてきたはずの政治家や官僚も劣化し、嘘と誤魔化しがあたりまえな国になりました。
本書では、皆さんの生活に最も密接した「年金」と「消費税」が、なぜこれほどまでに”インチキ”を重ね、多くの人を欺いてきたのか。日本経済の栄光と衰退を軸に、「平成」という時代を見てみましょう。
なぜ、私たちは、今、こんな絶望的な状況に置かれているのか。どうすればいいのか。救いはどこにあるのか。こうした疑問符を胸に、「平成」という時代をもう一度、辿ってみたいと思います。
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