その本を読んだ時、僕は自分の今までの節約のイメージとはまるで違う考え方、やり方に衝撃を受けた。その本を読まなければ、僕は今も、あのせせこましい、ケチな生活をずっと続けていただろう。
大学生になって一人暮らしを始めてすぐ、僕は節約を決意した。一か月の生活費は三万。家賃や光熱費は親が払ってくれるけれど、食費や日用品、服なんかは自分で払わなければならない。
そのうえで、せっかくの大学生活、友だちと遊びたかったから、僕は三万を徹底的に切り詰めていくことに決めた。大学一年生の四月の出来事である。
財布の中には千円札一枚きり。一日に使ってもいいお金をそれだけ、ということにして、食費を削った。昼は普通よりは安い学食すら食べずに、百円くらいの何かをひとつだけ。
夕食は友だちと食べる時は外食するけど、ひとりの時は自炊していた。朝はヨーグルトとカフェオレだけで、パンすら食べない。
実家にいた頃は寝る前にジュースを飲み、学校から帰ると必ずお菓子を食べていたくらい。当然のように体重は落ちて、周りから心配されるくらいには痩せた。
お菓子もジュースも買わず、欲しいと思ったものも買わない。いつしか、そんな生活が習慣になっていた。バイトもしていないのに貯まっていく貯金を見て、自分の選択が間違っていないことを確認していたのだ。
しかし、その自信は、一冊の本を読んだことによって打ち砕かれた。その本のタイトルを、『フランス人の贅沢な節約生活』という。
「フランス人は10着しか服を持たない」というのは、どこかで聞いたことがあった。けれど、この本はさらにその先に一歩、踏み込んでいる。
フランス人はそもそもお金を使いたがらない。会社でもそうだ。日本人はすぐに経費で落としてモノを買うけれど、フランス人はお金を使わずに、如何にして目的を果たすかということに頭を巡らせるらしいのだ。
欲しいものを我慢するわけじゃないし、必要なものは手に入れる。しかし、ただ買うだけじゃない。自分の手で工作して作り出したり、人と貸し借りを繰り返してシェアしたりする。
できるだけお金を使わない。目的は同じだというのに、なんだろう、この敗北感は。
その本にはこう書かれている。「セコイ」「ケチ」と。まさしくそれは、僕自身に向けられた言葉だった。途端に、今まで自分のせせこましい努力が、果てもなく小さなもののような気がしてくる。
彼らはお金を使わないことに頭を使うのではない。お金を使わずに、どうやって自分の目的を達成するか。そこにこそ頭を使うのだ。だから、最終的に目的を手にする。
僕はどうだろう。とにかくお金を使わない。それは簡単なことで、考えるまでもない。欲しいものを我慢する。必要なら、とにかく安いものを探す。それだけ。やりたいこともできないし、欲しいものは買えない。
高校生の頃、僕は本を読むのが大好きだった。家から本屋へは遠く、一度出かけるたびに何冊もまとめて買っていたくらいだ。
それが、大学生になってからは一度も買っていない。節約のためだった。本を買い始めるときりがない。そう考えた僕は、欲しい本を見かけても、必死に見ないようにしていた。
今にして思えば、なんと滑稽なことだろう。そんな窮屈な生活をよくも続けてきたものだ。ただお金が貯まっていっても、意味なんて何もないのに。
本が読みたいなら図書館に行けばいいじゃないか。漫画は友だちがたくさん持っているのだから、借りればいい。ほら、方法なんて、いくらでもある。自分のものにすることにこだわる必要なんてどこにもないのだ。
途端に、目の前が開けたような気がした。今まで僕は、「節約」という手段を、とにかく我慢するという方法しかないと思い込んでいた。
でも、違う。お金を使わずに生活する方法なんて、いくらでもある。大切なのは、考えることだ。頭を使うことで、贅沢しながら節約を楽しむことができる。この本は、その事実を僕に教えてくれた。
フランス流節約の心得
ニ十世紀後半の日本のメディアでおフランスの自慢話をしていた女性がいらっしゃいました。当時、日本のリスナーはフムフムとうなずきながら彼女の話を聞いていました。
いまどきの日本の方々は日本人であることにプライドを持ち、おフランスコンプレックスがなくなったのではないかと思います。それは大変よいことだと思います。
この本の中では「フランスでは」から始まる文章は少なくありません。しかし、これはこの本のテーマ「贅沢節約」を紹介していく上で、読者の皆様に、もっとフランスの日常、そして考え方を知っていただきたい気持ちで書いています。
この本を通して、節約の概念を少し変えてみたいと思います。
私は「貧乏くさい」とか「セコイ」、そんなお金の使い方は大嫌い。お金がないならないで、ちょっと頭をつあって方法を考えればシャープな結果が生まれてくる。
この「お金はないけど楽しみたい!」というフランス人独特の発想、そしてお金がなくてもエレガンスにこだわるフランスの秘訣をいろいろ紹介していきたいと思います。
読者の皆様にフランスをもっと知っていただき、よいと思われる部分を実生活に受け入れていただければ嬉しいです。
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