歴史を動かすヤバい書物『奇書の世界史』三崎律日


 私は卒論のテーマを進めていた。私が選んだテーマは台湾の歴史についてである。

 

 

 図書館に毎日のように通い、本棚と睨み合いをする日々の中、ふと、私は一冊の本を見つけた。

 

 

 『台湾誌』というなんともシンプルなタイトル。著者はジョルジュ・サルマナザールという人物らしい。

 

 

 これはつまり、台湾の歴史についての基本的な概要が書かれているに違いない。私はそう考えた。

 

 

 その本を引っ張り出して、個室の椅子に腰かける。電気スタンドをつけて、さあいざと私はページをめくった。

 

 

 しかし、その本は期待していた内容とは違った。この本は論文には使えなさそう。

 

 

 なにせ、『台湾誌』に描かれているのはあまりにも出鱈目な台湾の姿だったからだ。そこに書かれていたのは嘘八百の架空の台湾だったのである。

 

 

 しかし、私はむしろ、逆に気になってしまって、その偽の歴史が記された『台湾誌』と、それを書いたジョルジュ・サルマナザーンという人物に興味を抱いた。

 

 

 そこで調べてみたところ、三崎律日先生の『奇書の世界史』という本を見つけたのである。

 

 

 それは、動画が元になって発刊されたという珍しい本であった。

 

 

 奇書と言えば、まず真っ先に思い浮かんだのは夢野久作先生の『ドグラ・マグラ』や小栗虫太郎先生の『黒死館殺人事件』である。

 

 

 しかし、どうもその本では数奇な運命を辿った本、それをすなわち「奇書」として紹介しているらしい。

 

 

 『台湾誌』はその中の一冊だった。私は本来の目的を忘れ、夢中でその本を読んでみる。

 

 

 魔女狩りの指南書として当時は絶大な人気を誇った暗黒の歴史の先導者、ハインリヒ・クラーマーの『魔女に与える鉄槌』。

 

 

 解読不可能な文字で描かれた、今もなお多くの謎に包まれている手記、ウィルフリッド・ヴォイニッチが発見した『ヴォイニッチ手稿』。

 

 

 『ガリヴァー旅行記』などで知られるジョナサン・スウィフト先生が故郷アイルランドの現状を嘆いて痛烈に皮肉った『穏健なる提案』。

 

 

 紹介されているのはどれもこれも歴史に名を残すのも納得の問題作ばかり。台湾人を自称した著者が仮想上の台湾を創り上げた『台湾誌』はその中の一角に過ぎないと思い知らされた。

 

 

 おっと、いけない、いけない。私は台湾の歴史を調べなければならないのだった。私はそう思い、本を閉じる。

 

 

 しかし、私の頭はいつまで経っても、『奇書の世界史』に持っていかれてしまって、離れることはなかった。

 

 

本の背後に横たわる人類の歴史

 

 『奇書の世界史』はもともと動画であったらしい。というわけだから、動画の方も見てみることにした。

 

 

 『世界の奇書をゆっくり解説』という動画である。ゆっくりという人工ボイスを使用している。

 

 

 センスのいいBGM。わかりやすい編集。こだわりのあるオシャレな演出。私は動画をあまり見ないけれど、まるでテレビ番組を見ているかのような気分だった。

 

 

 本で読んだのも楽しかったけれど、動画で見るのも別の面白さがある。なにより、内容を分かりやすく説明してくれているから理解しやすい。

 

 

 これも著者の意図したところなのだろうか。私はすっかり奇書の魅力に囚われてしまったのである。

 

 

 なにより、私を魅了したのは、奇書それぞれの背景だ。そこにあるのは時代それぞれの考え方の違いである。

 

 

 魔女狩りも、天動説も、超電導も、今ではそれってどうなのと思うような胡散臭いものだったり、黒歴史だったりする。

 

 

 しかし、当時はそれこそが常識の世の中だった。悪い本はない。人の価値観が、時代の風潮が本を「悪」に仕立て上げるのだ。

 

 

 常識は簡単に変わっていく。あっという間に逆さまになる。それこそ、天が動いていたのが、地が動くようになるように。

 

 

 ふと、思った。これを論文にしたら、おもしろいのではないだろうか。いや、絶対おもしろい。

 

 

 私は不意に胸の奥に熱が灯るのを感じた。台湾の歴史も面白そうだが、それよりも『台湾誌』が面白い。

 

 

 私はさっそく先生に打診すべく、扉を開けた。

 

 

歴史を眺めてきた奇書の魅力を紹介

 

 人は、なぜ本を求めるのでしょうか。

 

 

 そこには、ある共通の感情があります。手にした本が「良い本」だと考えたということです。

 

 

 読者と本を結びつけるもの。それは、互いが持つ価値観の一致です。

 

 

 ところが、この「良い本」を別の角度から眺めてみると、意外な顔を覗かせることがあります。

 

 

 「良い本」と「悪い本」の判断は、簡単に逆転します。

 

 

 読者の評価がはっきりと分かれる書物といえば「奇書」です。作者自身の計らいを越え、いつの間にか「奇」の一文字が冠されてしまったもの。

 

 

 かつて名著とされていたのに、時代の移り変わりの中で奇書の扱いを受けるようになった本、つまり、数奇な運命を辿った書物です。

 

 

 一冊の本を昔と今の両面から見ていけば、時代の変遷に伴う価値観の変化が浮かび上がってきます。

 

 

 そもそも、本の良し悪しは読者ひとりひとりが決めるべきものです。しかし一方で、読者ひとりひとりの評価軸も確固としたものではありません。

 

 

 そういう価値観の変化を知ることにどんな意味があるのでしょうか。過去を知ることは、未来を予測することにもつながるのです。

 

 

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