歴史に名を刻んだ女性たちを学ぶ『世界を変えた10人の女性』池上彰


アウンサンスーチーという名を、先日、ニュースで見たばかりである。おや、その名前、この前もどこかで見たような。その日は一日中首をひねっていた。

 

ああ、そうか。と思い出したのは、つい先ほど、数秒前のことである。それは、いくらか前に読んだ一冊の本。池上彰先生の『世界を変えた10人の女性』という。

 

ただの堅苦しい解説書というわけではなく、池上先生がお茶の水女子大学で行った講義をそのままの形でまとめたものだ。だから学生の言葉も書かれている。先生の言葉は語り掛けるかのようで、とてもわかりやすい。

 

アウンサンスーチーはその本の最初に登場する。私は名前こそ知っていても、彼女が何をしたのか知ったのはこの本を読んでからのことだ。何なら、そもそも女性だとすら知らなかったのだけれど。

 

タイトルの通り、アウンサンスーチーだけでなく、この本では世界的な偉業を果たした10人の女性が紹介されている。

 

マザー・テレサやフローレンス・ナイチンゲールといった誰もが知っているような有名な名前から、女性の化粧品の常識を変えたアニータ・ロディックや、女性の社会進出を目指したベティ・フリーダンといった人たちまで。

 

けれど、その本は、「へぇー、そうなんだ、知らなかった、勉強になるなあ」だけでは終わらない。それが池上先生のすごいところなのだろう。

 

この本は、世間一般で言われているような彼女たちの偉業だけでなく、まったく別の方面からのアプローチをしたり、賛否両論ある評価のどちらにもスポットライトを当てたりしている。

 

そして、社会が彼女たちに与えた評価や教科書の内容、さらには自分の講義すらもそのまま信じるのではなく、そこに疑問を呈してみて、自分自身で考えてみることを促しているのだ。

 

たとえば、放射線を発見したキュリー夫人。科学者としての才覚に注目されがちな彼女に対して、池上先生は「恋多き女性」という視点で解説している。彼女に不倫歴があるのだということを、何人が知っていたのだろう。

 

解説された10人の中でも、私の興味を引いたのは、イギリスの元首相、「鉄の女」マーガレット・サッチャーである。

 

彼女についても、私はこの本を読んで初めて知った。労働組合が強い力を持ち、半社会主義的だったイギリスの経済を是正し、財政赤字から建て直した女傑であるらしい。

 

そのあまりにも強硬な政策の進め方により、未だに彼女の評価には賛否両論入り乱れているのだという。イギリスの伝統を破壊し、貧困層の労働者を窮地に追いやった「鉄の女」か、経済を立て直した救世主か。

 

多くの人は、歴史上の人たちの「偉業」に目を向ける。けれど、光があれば影があるように、偉業の眩しい光に晒された中には、相応の闇が見えてくることがある。

 

偉人もまた、私たちと同じ人間である。影があるからこそ、彼らの人物像にも深みが生まれる。すると不思議なもので、ただの歴史の記号でしかない彼女たちがひとりの人間としてはっきりと見えるのだ。

 

アウンサンスーチーもまた、彼女を褒め称える側と、痛烈に批判している側がある。そして、偉業とも呼べる一面とともに、たしかに彼女にも闇が存在している。なんでも、性格がやや我儘で人使いが荒いらしい。

 

そうするともう、彼女が「ミャンマーの民主主義を主導している人物」というだけには見えない。私たちと同じ、血の通った「ひとりの人間」である。

 

『世界を変えた10人の女性』。池上先生は、そもそも突き詰めれば、このタイトルもまた問題があるのだという。社会的な問題が、ほんの数文字のこのタイトルから垣間見える。

 

全てをそのまま信じ込むのではなく、疑問を覚え、考え、そうして自分の考えへと昇華していくこと。先生がこの講義で本当に伝えたかったのは、そういうことではないだろうか。

 

 

歴史の転換点に立つ女性たち

 

私はこれからいろいろな話をしますが、どうかそのまま受け止めないでください。歴史観、女性観、職業観などには、どうしても生身の個人である私が出てしまいます。

 

あなた方はあなた方で、「池上はこう言っているけれど違うのではないか」などと、引っ掛かりをいっぱい持ってほしいのです。それが、実はとても大事です。

 

例えばこの「世界を変えた10人の女性」というタイトルです。そもそもこういうタイトルをつけなければいけないところに、いまの社会の限界があるような気がします。

 

逆を考えてみてください。「世界を変えた10人の男性」。これは講義として成立しませんね。しかし「世界を変えた10人の女性」は成立してしまう。わざわざ「女性」と限定して語らなければいけないところに、まだまだいろいろな問題があるのではないかということです。

 

そういう問題意識のことで、これから、10人の女性たちがどう生きたのかを取り上げていきます。本当にいろいろな人生です。人間としての生き方を学べることもあるでしょう。

 

あるいは平和活動であったり、祖国のために貢献をしたり、ビジネスを展開したりするというのはいったいどういうことなのか、そういうことも幅広く学ぶことができるのではないでしょうか。

 

 

世界を変えた10人の女性 お茶の水女子大学特別講義 (文春文庫) [ 池上 彰 ]

価格:759円
(2021/6/11 00:14時点)
感想(0件)

 

関連

 

歴史を逞しく生き抜いた女性たち『姫君たちの明治維新』岩尾光代

 

歴史を動かすのはいつだって男性ばかり。だが、その陰には、時代の変化を懸命に生き抜いてきた逞しい女性たちの姿がある。男とはまた異なる、彼女たちの生き様を見よ。

 

男性社会で苦労している貴方様におすすめの作品でございます。

 

 

姫君たちの明治維新 (文春新書) [ 岩尾 光代 ]

価格:1,078円
(2021/6/11 00:17時点)
感想(0件)

 

生き抜く女性の姿を描いたフェミニズム小説『三つ編み』レティシア・コロンバニ

 

インドの階級の最下層で、モノのように扱われる女性。突然の親の事故によって借金を抱えた事業を引き継ぐことになった女性。病気によって出世の道を断たれた女性。まったく異なる文化、異なる地に生きている彼女たちが髪の毛によって結ばれていく。

 

女性を侮っている貴方様におすすめの作品でございます。

 

 

三つ編み [ レティシア・コロンバニ ]

価格:1,760円
(2021/6/11 00:20時点)
感想(4件)