人生の大逆転『借金2000万円を抱えた僕にドSの宇宙さんが教えてくれた超うまくいく口ぐせ』小池浩


「いったいどうやって成功したんですか?」

 

 

 そう聞いてきたのは、ひとりの記者だった。顔を見る。まだ若さが残る。まるで学生のようだった。

 

 

 しかし、その瞳の奥には、野心が燃えている。彼の質問に、記者としての取材以上の答えを求めている熱意を、私は見て取ることができた。

 

 

「いったいどうやって成功したか、ねぇ」

 

 

 普段ならあまり記者の問いに答える気はしない。しかし、彼の成功を欲する熱意が、私にひとつの気まぐれを起こした。

 

 

「いいよ、答えよう。ただし、私が何を言っても信じること。いいね?」

 

 

「はい、ありがとうございます! お願いします!」

 

 

 彼ははきはきとした声でそう答えると、ペンとメモ帳を持って構えながら、身を乗り出すかのように身体を前傾に傾けた。今時はあまりない素直な反応に、私は思わず微笑む。

 

 

「まずは、この本を見てほしい。私の成功の始まりには、この本があったと言っても過言じゃないからね」

 

 

「何ですか、これは?」

 

 

私がカバンから取り出したのは、『借金2000万円を抱えた僕にドSの宇宙さんが教えてくれた超うまくいく口ぐせ』だった。何度も読んだため、擦り切れている。

 

 

「実はね、二十代の頃、私は働かず、ずっと家でニートをしていた時期があるんだよ」

 

 

「先生が、ですか?」

 

 

 彼が驚くのも無理はないかもしれない。彼は成功者としての私しか知らないのだから。

 

 

「仕事に耐えられずにやめてね、失業保険だけで生活していた。お金もなくて、かといって働くのも怖くて、何もかも終わりにしようとしたこともある」

 

 

  それができなかったのも、立派な理由じゃなかった。怖かったから。ただそれだけのことだ。

 

 

「この本に出会ったのは、そんな頃だったよ」

 

 

「どんな内容なんですか?」

 

 

 マンガみたいなものでね、夢のためにアパレルショップを開くも上手くいかず、借金2000万円を抱えることになったコイケが主人公だ。

 

 

 ある時、風呂場で彼が願うと、シャワーヘッドから奇妙なイキモノが出てきた。彼が、タイトルにある「宇宙さん」だね。

 

 

 この本でいうところの「宇宙」は、神様、あるいは運命みたいなもの、だと思ってくれていいよ。とにかく、すべての人生を動かすことのできる超自然的な存在、だね。

 

 

「その『宇宙さん』が成功する方法を教えてくれる、ということですか?」

 

 

「うん、そうだね」

 

 

「そ、それはいったいどのような? たとえば、この株を買えばいいとか、この会社に就職すれば、とかですか?」

 

 

「いいや、そういう具体的なアドバイスは何もないね。作中でコイケくんに宇宙さんが教えてくれるのは、口ぐせだけ」

 

 

「口ぐせ、ですか?」

 

 

 あからさまに彼のテンションが下がるのを見て、私は苦笑する。それでも聞く姿勢を崩していないだけましな方だ。これまで会ってきた人は、聞いた瞬間に興味を失う。

 

 

「でも、その、口ぐせを変えることが成功につながる、と? にわかには信じられない話ですが」

 

 

 そう、読んだ時は私もそう思っていた。しかし、当時、藁にも縋る思いだった私は、とにかく実践してみようとして実行したのだ。

 

 

「やってみてわかったのは、口ぐせというのは私たちの思うよりも侮れない、ということだよ」

 

 

 たとえば、もしも自分に不幸なことが起こったとしたら、君なら、どうするかな?

 

 

「え、それは、哀しむでしょうね。それか、怒るとか」

 

 

「私ならこう言うね。『よっしゃ!』ってね。何ならガッツポーズまでして」

 

 

「え、で、でも、不幸なことがあったんですよね? それなのに、何が『よっしゃ』なんですか?」

 

 

「今、経験している不幸は、未来の成功のための布石でしかないんだよ。だから、自分のどんな行動も、喜ぶようにするんだ。そういう口ぐせを作るんだよ」

 

 

 彼の視線が理解できないと告げていて、私はむしろ懐かしくなった。かつての私もあのような視線をしていたのだ。

 

 

 しかし、この本に書かれているポジティブな口ぐせを、それでも実践し続けると、不思議なことだが、今の苦労すらも苦しいことだとは思わなくなった。

 

 

 ポジティブなことを口にする癖をつけることで、考え方まで前向きになるのだ。

 

 

 願えば叶う。この本が言っているのは、それだけだ。そして、願うための環境づくりのひとつが、口ぐせなのだ。

 

 

「君が成功したいと願うなら、この本を読むといい。もちろん、信じないのも自由だ。君自身が、選ぶといいよ」

 

 

 私がそう言うと、彼は黙ったまま、私の手の中にある本を見つめていた。その瞳に、揺れる野心を、私は微笑みを浮かべて眺めていた。

 

 

口ぐせが成功へと導く

 

 人生のどん底を味わっていたその時、僕は再会した。ドヤ顔でドSのアノヒトに。

 

 

 12年前の僕は、自分の夢に人生を押し潰されそうになっていた。

 

 

 地元に出店した夢のアパレルショップ。念願のお店だったのに、商品は売れず、閑古鳥。

 

 

 でも畳む勇気も持てなかった僕は、夢だったお店のためなら、とお金を借りた。

 

 

 最初は銀行だけだったのに、足りなくなって消費者金融に手を出した。ついには、手を出しちゃいけないはずのヤミ金にまで。

 

 

 そして、気づいた時には総額、2000万円超。

 

 

 誰もが僕を諦めていた。そう、僕でさえも。友人もパートナーも離れていった僕は、人生どん底。つつーっと、勝手に涙が出てくる。

 

 

 「もうラクになりたい」とそのたびに思ったけれど、僕の借金の保証人は自分の親。だから、終わらせることもできなかった。

 

 

 どうしていいかわからない。あの夜も、お風呂場で僕は泣いてたんだ。すると、どこからともなく声が聞こえてきた。

 

 

「やめないで、やめないで」

 

 

 それは、僕の心の声のようだった。もう、頼れるものは何もない。どうか助けて! 神様、仏様、ご先祖様、宇宙様! そう呟いた、その時だった。

 

 

「おい、コイケ、呼んだか?」

 

 

 シャワーヘッドから出てきたそれは、「宇宙さん」と名乗った。彼は、僕の人生に大逆転を与えてくれるという。

 

 

 その日から、ドヤ顔でドSの宇宙さんのスパルタ授業が始まった。願いを叶える方法を聞きながら、毎日それを実行した僕は、9年で2000万円の借金を完済した。

 

 

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