勉強は何のためにする?『なんのために学ぶのか』池上彰


「どうして勉強なんてしなくちゃいけないの。どうせこんなの勉強したって、何の役にも立たないのに」

 

 

 愛おしい我が子が不満げに口を尖らせて、そう言った。ぶすくれた口調が、彼の不満を世界に示している。

 

 

 私はというと、それを聞いて思わず笑いそうになってしまった。ずっと忘れていた思い出のひとつを、唐突に思い出したからだ。

 

 

 ああ、本当に、この子は私にそっくりだ。そして半分は、お父さんの血が流れている。

 

 

 私もまた、小さい頃、今はもう亡くなってしまった母に、同じことを聞いたことがある。どうして勉強しなきゃいけないの、と。

 

 

 母は「大人になればわかる」と答えた。幼い私には、大人が答えに窮した時の誤魔化しにしか聞こえなかった。

 

 

 そして、今の私は大人になっているわけだけれど、その答えがバッチリ理解できたかといえば、そういうわけでもない。

 

 

 私は今でも、勉強をしなくちゃいけない、とは思っていなかった。いくら勉強させようとしたって、やらされて無理やりやったのでは、意味がない。

 

 

 だけど、勉強をした方がいい理由は、私なりに答えを見つけた気がする。きっかけになったのは、池上彰先生の『なんのために学ぶのか』を読んだからだ。

 

 

 子どもに勉強させるためのいい方法を探して読み始めたその本が、まさか私自身の学びになるとは思わなかった。

 

 

 勉強をすると、その分だけ、できることが増える。世界が広がる。世界が広がれば、それだけ、自分の好きな道を見つけることができるようになる。

 

 

 「勉強しろ!」なんて口を酸っぱくして言ったところで、子どもはますます勉強嫌いになるだけ。そうやって詰め込んだ知識なんて、何の役にも立たない。

 

 

 大切なのは、子ども自身が「学びたい」という意思を持って、自分から学ぶことだ。私たち大人は、その意欲を引き出すことと、環境を整えてあげることが必要になる。

 

 

 勉強することが楽しいだなんて、多くの人は「まさか」と思うかもしれない。私もそうだった。けれど、今なら私も、勉強することの楽しさがわかる。

 

 

 知らないことを知る。世界が広がるって、楽しいことだ。自分が好きなことなら、知ろうとするのはむしろ当たり前のこと。

 

 

 無理やりやらせるから勉強嫌いになる。子ども自身が知りたいと思って学ぶことの楽しさを知れば、あとは環境を整えてあげれば、勝手に学んでくれる。

 

 

 そうして得た知識は、いずれ彼らの人生の中で、必ず役に立つ時が来る。どれほど無駄に思えることであっても、意味があるのだ。

 

 

 私は後悔していた。子どもの頃は、先生から教えてもらえるし、図書室のように、学ぶ環境に恵まれていた。

 

 

 けれど、そのことに気が付かず、勉強を嫌い、学ぶことをしなかった。ああ、あの時もっと勉強しておけばよかったな。なんて、思わずため息を吐く。

 

 

 そう考えると、母から言われた「大人になればわかる」は、子どもにとって残酷な言葉なんじゃないだろうか。

 

 

 学ぶ機会はどんな年代の人にだってある。命が尽きるその瞬間まで、人は学び続けることができる。学ぶことに、遅い、なんてことはないのだ。

 

 

 でも、子どもの頃に勉強を嫌って学ばないまま、大人になると、私みたいに我が子も後悔する時が来るかもしれない。

 

 

「勉強したくないなら、しなくてもいいよ。でも、知りたいことややりたいことがあるなら、いつでも言ってね」

 

 

 子どもの幸せは子ども自身が選び取るもの。親の幸せを押し付けてはいけない。我が子はいったいどんなことに興味を持ち、どんなことを学び、どんな大人になるのだろう。

 

 

学ぶことの楽しさ

 

 私が中学三年生の時、母親に「なぜ勉強なんかしなければならないのか」と問いかけました。母親の答えは、「大人になればわかるわよ」でした。

 

 

 「答えになっていない!」実に不満でした。ところが、実際に大人になってみると、母親の言った通り、なぜ勉強する必要があるのかがわかるのです。

 

 

 日々の暮らしや仕事のうえで、学生時代に学んだことが、どれだけ生きていることか。とりわけ中学校の教科書を開いてみると痛感します。それほどに中学校の教科書はよくできているのです。

 

 

 日々の社会の動きを理解し、自分の行動を決める上で、学校で習った知識は役立ちます。と同時に、学校で習ったことの意味を、今になって十分に理解することができるのです。

 

 

 勉強しておいてよかった。そう思える瞬間なのです。なんのために学ぶのか。それを、この本で再確認してみてください。

 

 

 この本は、大学に入りたての若者たちを対象に話した内容をもとに構成されています。とはいえ、読者は大学生に限りません。

 

 

 どんな段階の人でも、学ぶことは楽しいことなのです。それを知ってほしいと願っています。

 

 

 自分がいかに物事を知らないか。それは、いろいろなことを知る過程でわかってくることです。本当に物事を知らない人は、自分が「ものを知らない」ということを知りません。

 

 

 日々勉強を重ね、知らないことをひとつでも知ると、自分がそれまでそのことを知らなかったことに気付きます。さらに、世界には、自分が知らないことが実にたくさんあることを知ります。

 

 

 知らないことがあまりに多いと、時に絶望的な気持ちになりますが、少しでも知ることで、「知の宇宙」に乗り出していくことができるような気持になります。

 

 

 さあ、ご一緒に宇宙に旅立とうではありませんか。

 

 

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