自衛のための法律リテラシーを身につけよう『敷金・職質・保証人』烏賀陽弘道


「連帯保証人になってくれない?」

 

なあ、頼むよ。彼が手を合わせて、哀れそうに眉を下げて頼み込んでくる。彼の手には、一枚の書類があった。連帯保証人の空欄が、視界にちらつく。

 

彼がお金にだらしないのは昔からのことである。その度に、しばしば迷惑を被ってきた。というか、私が貸したお金も返ってきていない。

 

だが、さすがに「連帯保証人になってくれ」とまで頼まれたのは初めてのことだった。借金をしたらしいのだが、大きい額なのだろうか。

 

「なあ、お願いだ! この書類にサインしてハンコしてくれるだけでいいから!」

 

彼の哀れな様子に、思わず同情心が湧く。金にはだらしないが良い奴で、それなりに長い付き合いだ。彼に助けられたことも何度かある。サインしてあげようかしら。どうせ、大したことじゃない。名前を貸すだけだ。そんな思いが胸中にある。

 

でも、心の中の私が待てとブレーキをかけていた。「連帯保証人」って、良くない噂を耳にすることが多い。危ないんじゃなかったっけ。そんなおぼろげな知識が、私の手を止めていた。

 

「ごめん、今、ハンコ持ってないんだよね」

 

気付けば、そう言っていた。うわ、マジかよ。彼はそう言って頭を抱えたが、諦めてはいなかったらしい。「じゃあ明日! 明日頼むよ!」そう言ってきた。

 

彼と別れてから、私は自分の家の本棚にある、一冊の本を引っ張り出す。それは、烏賀陽弘道先生が書いた、『敷金・職質・保証人』という本だ。

 

少し前に、法律が気になって買ってみたはいいものの、読まずにほったらかしになっていた一冊だ。だが、今、私にはこの本が必要だった。

 

その本は、いわゆる「法律リテラシー」について書かれた本である。タイトル通り、敷金や職質、保証人についてのトラブルの対処法が解説されている。

 

敷金が家の修繕費に使われ、足りないと請求された。職質されたときに持っていた仕事道具を凶器だと言われ、何もしていないのに前科がつくことになった。連帯保証人になったら、家族も何もかもが崩壊した。

 

この本に書かれているのは、すべて著者の周りで起こった事例であるらしい。読んでいくと、だんだんと怖くなってくる。

 

特に、連帯保証人になったことで、家族が崩壊し、それまでの生活も何もかもが目茶苦茶になってしまった話は、今まさに自分とも無関係ではないこともあって、我が身のような恐ろしさで迫ってきた。

 

ただ、それに対する答えはひどくシンプルだ。それは、たったひとつ。「連帯保証人には絶対になってはいけない」これに尽きる。

 

どれだけ頼まれても、絶対に引き受けない。連帯保証人は、何の権利も得もないのに責任だけが自分に押し付けられるのだ。もし、断ることでその人との仲が切れることになったとしても、断らないと、その先には破滅が待っているのだという。

 

ふう、よし。読み終わって、私は本を閉じた。揺れていた私の心は、もう、迷ってなんかいなかった。その本を読んで、答えは定まったのだ。

 

ケータイの連絡先から、目的の名前を探し出す。文面を考えながら、メッセージを送った。あの時、同情心に身を任せてサインしないで本当に良かったと思う。

 

日常が崩れる落とし穴は、私たちが気付かないだけでそこら中にある。まさしくその通りだ。事前に知っておくことがどれほど大事か、そのことがよく身に染みた。

 

すぐに彼から返信が届いた。相変わらず懇願と、逆切れしているような文章だ。私は彼の名前を連絡先から消して、ケータイを閉じた。

 

 

あなたも、巻き込まれるかもしれません。

 

「私は一生、法律のお世話になることはないだろう。まして警察や裁判所にかかわることなど、ありえない」この本は、そう思って生活しているあなたのために書いています。

 

善意に溢れ、真面目に生きるあなたは、法律を守って生きるなど当たり前で、それを破る、触れることなど、考えも及びません。

 

ところが、こうした平穏な「普通の生活」には、案外あちこちに落とし穴が開いています、そしてそこに落ちる人が意外に多いのです。

 

この本で取り上げる人たちの大半は、ごく普通に会社員や公務員などとして生活している人たちばかりです。どの例を見ても、善意で暮らしていた人たちが、金銭を奪われ、犯罪者にされ、財産や権利を侵害されています。

 

こうした「落とし穴」は普段の生活では隠れていて見えません。ある日突然、何の落ち度もないあなたに、厄災が「向こうから」やってくるのです。それはあなたの意思や願望とはまったく関係がない。「向こう」があなたを「被害者」に決めるのです。

 

では、どうすればよいのか。私が見てきた「危険地帯」を知らせ、危険を回避する。そこから脱出するためのノウハウをシェアする。そのために、この本はあります。

 

現代日本社会にこれほど多数の「落とし穴」があると、それを「根絶」することは不可能です。しかし「そこにこんな危険があるよ」とみなさんにあらかじめ知っておいていただくことはできます。

 

つまりこの本は「現代日本で生きていくために、避けられないリスクをみなさんに警告する」という目的を持っています。踏み込んでも生還できるように、知識を備えてほしい。そう私は願っています。

 

 

敷金・職質・保証人ー知らないあなたがはめられる 自衛のための「法律リテラシー」を備えよ (ワニブックスPLUS新書) [ 烏賀陽弘道 ]

価格:968円
(2021/5/7 23:22時点)
感想(1件)

 

関連

 

これから法律を学ぶあなたに『日本一やさしい法律の教科書』品川皓亮

 

法律を学びたいけど、なんだか難しいし、よくわからない。解説書とか読んでも面白くない。そんなあなたにおすすめ。事例を用いてわかりやすく、そして楽しく法律を学べる本です。

 

法律を楽しく学びたい貴方様におすすめの作品でございます。

 

 

日本一やさしい法律の教科書 これから勉強する人のための [ 品川皓亮 ]

価格:1,760円
(2021/5/7 23:29時点)
感想(1件)

 

正義と平和は危険『火星に住むつもりかい?』伊坂幸太郎

 

国民を危険人物に認定し、連行する権限を持った平和警察が発足された。ちょっとしたうわさ話や密告によって多くの人が警察に捕まっていく。そんな中、彼らに反旗を翻すひとりの男が現れた。

 

平和と法律を信仰している貴方様におすすめの作品でございます。

 

 

火星に住むつもりかい? [ 伊坂幸太郎 ]

価格:858円
(2021/5/7 23:33時点)
感想(9件)