現代人こそ読んでおきたい『バカの壁』養老孟司


 『バカの壁』。その言葉は当時の私に衝撃を与えた。まるで囚われたかのように、その言葉は私の脳裏に焼き付いていたのだ。

 

 

 その本を初めて見たのは中学生の頃だった。それはおすすめ本のコーナーのところに胸を張って堂々と仁王立ちしていた。

 

 

 当時の私は小説に熱中していて、ビジネス書や実用書には興味を持っていなかった。

 

 

 しかし、その本だけはやたらと目についた。『バカ』という言葉が強く心に残り、私は吸い寄せられるようにその本を手に取った。

 

 

 ページを開いてみると、やはり物語ではない。私は少し逡巡して、その本を閉じると、本棚に戻した。

 

 

 やはり、読む気にならない。それきり、私はその本を手に取ることはなかった。その時はまだ。ただ、『バカの壁』という言葉だけが浮き上がって見えた。

 

 

 次に、再び『壁』と出会ったのは、それから十年経った頃のことだ。帰ってきた地元の図書館の本棚の下の方に、その本はひっそりと佇んでいた。

 

 

 あの時から目を引いていた『バカの壁』が、今はより強く、私の心を惹きつけていた。

 

 

 初めて就職した仕事を退職したのは、人間関係の捻じれによるものだ。人生の壁に突き当たったのは初めての経験で、私はその瞬間に折れてしまった。

 

 

 ビジネス書や実用書を読むようになった。『バカの壁』がベストセラーとなり、流行語にすらなったことを知った。陰気な性格だった私は、よりひねくれた性格になった。

 

 

 あれからいろんなものが変わった。今が読む時だろう。私は迷わずその本を手に取った。

 

 

思い込みの恐ろしさ

 

 知ったかぶるのは私の昔からの悪い癖だ。知らない時や、名前しか知らない時でも「知っている」ような態度で相槌を打つ。

 

 

 悪癖だと自覚したのは最近のことだ。それまでは特に意識することなく、そんな態度を取っていた。

 

 

 しかし、結局、私は長年の知ったかぶってきたツケを社会で払うこととなってしまった。

 

 

「わかりました」

 

 

 私はいつも上司からの指示に対して、この言葉を返していた。機械のように、私は否定を知らなかった。

 

 

 しかし、やってみると何もわからず、いつも上司にもう一度同じ質問をする羽目になった。やがて、上司は愛想を尽かし、私を放っておくようになった。

 

 

 厄介なのは、私が「わかりました」と言っている時は、間違いなくわかっているのだ。

 

 

 問題は、私の「わかる」と、上司の望むことが一致していなかったからだ。私自身の仕事はわかっていても、上司の指示がわかっていなかった。

 

 

 「上司の指示を聞かない」というレッテルを貼られ、次第に人間関係が破綻し、私はやめることになった。

 

 

 どうしてこうなったのか。仕事を辞めてから何もしなかった半年間、私はずっと考えていた。

 

 

 その答えは、本の中にあった。『バカの壁』。私の頭の中にあった言葉が、その時、初めて実態を持って私の前に聳え立った気がした。

 

 

 ひとりひとりの持つ「常識」の違い。「当たり前」は誰もが共通するものではない。人の数だけ「当たり前」がある。

 

 

 それまで物語しか読んでいなかった私の『壁』の内側は限りなく狭い。私はそのことにようやく気が付いた。

 

 

 知ろうとすればするだけ、壁に囲まれた私の視界はより大きく広がっていく。私たちはみんな『バカの壁』の内側を見つめているにすぎないのだ。

 

 

 だから、まず。壁を押し広げて行くことから始めよう。そう思って、私は、まず一歩、壁を押し出すように、足を踏み出した。

 

 

誰もがバカの壁のこちら側にいる

 

 題名の「バカの壁」は、私が最初に書いた本である『形を読む』からとったものです。

 

 

 結局我々は、自分の脳に入ることしか理解できない。つまり学問が最終的に突き当たる壁は、自分の脳だ。そういうつもりで述べたことです。

 

 

 自分が知りたくないことについては自主的に情報を遮断してしまっている。ここに壁が存在しています。これも一種の「バカの壁」です。

 

 

 「常識」=「コモンセンス」というのは、「物を知っている」つまり知識がある、ということではなく、「当たり前」のことを指す。

 

 

 ところが、その前提となる常識、当たり前のことについてのスタンスがずれているのに、「自分たちは知っている」と思ってしまうのが、そもそもの間違いなのです。

 

 

 本当は、いろいろと知らない場面、情報が詰まっているはずなのに、それを見ずに「わかっている」と言う。本当は何もわかっていないのに「わかっている」と思い込んで言うあたりが怖いところです。

 

 

 なんでも簡単に「説明」さえすれば全てがわかるように思うのはどこかおかしい、ということがわかっていない。

 

 

 日本には、何かを「わかっている」のと雑多な知識がたくさんある、というのは別のものだということがわからない人が多すぎる。

 

 

 その延長線上から、「一生懸命誠意を尽くして話せば通じるはずだ」といった勘違いが生じてしまうのも無理はありません。

 

 

 そもそも現実とは何かという問題があります。「わかっている」べき対象がどういうものなのか、ということです。ところが、誰ひとりとして現実の詳細についてなんかわかってはいない。

 

 

 「正しさ」を安易に信じる姿勢があるというのは、非常に怖いことなのです。現実はそう簡単にわかるものではない、という前提を考えることなく、自分は「客観的である」と信じている。

 

 

 「常識と雑学を混同している」とは、こういう状況を指しているのです。「雑学」の知識を羅列したところで、それによって「常識」という大きな世界が構成できるわけではない。

 

 

 ここで勘違いされやすいのが「科学」についての考え方です。多くの人は化学を絶対的だと信じているかもしれません。しかし、そんなことはまったく無い。

 

 

 「科学的事実」と「科学的推論」は別物です。しかし、この事実と推論とを混同している人が多い。厳密に言えば、「事実」ですらひとつの解釈であることがあるのですが。

 

 

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