あなたはどのバカ?『バカとつき合うな』堀江貴文 西野亮廣


 私には幼い頃から行動を共にしてきた親友がいる。

 

 

 彼と私は家が隣同士で、よちよち歩く頃からの付き合いがある。近くの公園の砂場で山を積み上げては崩してよく共に遊んだものだった。

 

 

 その付き合いは小学校、中学校、高校と続くことになる。まさかこれほどまでに仲が長く続くとは、彼も思わなかったろう。

 

 

 もちろん、まったく喧嘩はしなかったわけではない。むしろ、私と彼は考え方が大きく違っていた。意見の衝突は何度もあった。

 

 

 にもかかわらず、不思議と最後には仲直りしているのである。学校の屋上で仲直りの印にと、共に食べたカレーパンの味は今も忘れない。

 

 

 彼の父親はやり手のサラリーマンだった。勤め先は誰もが名前を知っているような大企業である。

 

 

 彼はそんな父親を尊敬していたようである。彼の父親のスーツを纏った背中は幼いながらにもかっこよかった。

 

 

「僕は父さんみたいに大企業に勤めるのが夢なんだ。安定した生き方が一番だからね」

 

 

 彼の夢は良い大学を出て、大企業に勤めることであるらしかった。安定した生き方、というのは彼の口癖であった。

 

 

 そのために彼は全力で勉学に励んだ。友人からの誘いにも首を縦に振らず、一心不乱に机に向かっていた。

 

 

 その甲斐あってか、彼はいつも学年でトップクラスの成績だった。彼の頑張りを知っている私はそのことがなぜだか誇らしかったのを覚えている。

 

 

 対して、私は目標もなかったから、勉強することもなく、ちゃらんぽらんに過ごしていた。

 

 

 彼は私のそういう姿勢が気に入らなかったようで、しばしば小言を呈してきた。私はそのたびに勉強しては、またすぐに飽きた。

 

 

 彼との間にしばしば起こる軋轢は、むしろ必然だったのだろう。彼と私はあまりにも違っていたからである。

 

 

 好奇心が旺盛だった私は何かに挑戦することが好きだった。甘言にもホイホイ乗るような性格だった。

 

 

 彼は反対に石橋を叩いて、叩いて、叩きすぎてむしろ壊すような性格だった。慎重に慎重を重ねれて人間の形にすれば、それは彼になるだろう。

 

 

 彼は私が何か新しいことを始めてみようと言うたびに苦言を呈した。騙されているよ、とは何回聞かされた言葉であろうか。

 

 

 私は彼の言葉をいつも信じていた。だから、今日まで危ないことには手を出さず、安全な日々を送れたといえよう。

 

 

 彼はやはり頭が良いのだ。だからこそ、危険なものと安全なものの違いがわかるのだ。

 

 

 そんな彼とも、大学からは別れることになる。私は寂しかった。高校までは私でもなんとかついていけたが、さすがに高偏差値の大学には手が届かない。

 

 

「また、いつか」

 

 

「ああ、またいつか」

 

 

 私と彼は固い握手を交わした。こうして、十年以上の時を共に過ごしてきた彼と私は袂を分かち、別々の道を辿ることとなったのである。

 

 

バカとバカの格差

 

 あいつとの再会が叶ったのは、高校を卒業して以来、数年ぶりのことだった。僕たちは地元の小さな飲食店で待ち合わせた。

 

 

 僕とあいつは親友である。僕たちは随分と性格が違ったけれど、なぜかやたらと気が合った。

 

 

 あいつは自由奔放な奴だった。僕が必死で勉強している間も、あいつは別の友達と遊んでいた。僕が彼らの誘いを断ったからだけれど。

 

 

 僕はあいつが羨ましかった。しかし、良い大学に行きなさいと親に言われている手前、勉強を放り出すわけにはいかない。

 

 

 その努力が実って志望大学への入学が決まった時には涙が出るほどうれしかった。あいつは真っ先に僕にお祝いを言ってくれた。

 

 

 あいつと僕は親友だった。それはたしかだ。しかし、僕はあいつと離れられることが内心では嬉しかったのだ。

 

 

 あいつと僕は性格が合わない。あいつはバカで、余計なことに手を出すという悪癖があった。

 

 

 僕が止めてやらなければ、あいつはもうすでにいくつもの詐欺に引っかかっていたに違いない。

 

 

 しかし、もうあいつの世話をするのはいい加減うんざりしていた。それに、あいつの奔放な性格がどこか妬ましかったのもある。

 

 

 そうして、大学入学を機に、あいつとは離れ離れになった。

 

 

 それからの僕は順風満帆だったといえよう。大学でも優秀な成績を収め、とうとう志望していた大企業の内定を獲得したのだ。長年の夢が叶った瞬間だった。

 

 

 大企業での新入社員としての数年はとにかく大変だった。慣れない仕事に奔走し、汗水垂らして働いた。

 

 

 しかし、大企業に勤めているという自負心は僕を大いに満足させた。僕の将来はもう安定したも同然だった。

 

 

 あいつはどうなっただろう、と僕は考えていた。勉強嫌いで働くのも嫌いなあいつが真っ当に生きていられるとは思えない。

 

 

 そう思っていたのだが、あいつは平然とした様子で待ち合わせ場所に現れた。あの頃と同じような気安さで。

 

 

 今はあいつも社会人のはずだが、どこか飄々としていて社会人然とした堅さがない。やはり、今もまだ、ちゃらんぽらんなのだろう。

 

 

 そう思っていたからこそ、私はあいつの生活を聞いて驚いた。

 

 

 あいつはいくつもの事業を抱えている実業家となっていた。僕の給料よりも高い収入を得て、しかも自分の時間をより多く手に入れて悠々自適な生活をしているのだという。

 

 

 僕は視界が真っ暗に染まるのを感じた。どうしてだ。どうしてこんなにも差がついたのだ。こいつはただのバカだったはずだろう。

 

 

 ふと気づいた。僕はこいつを見下していたのだ。こいつのバカさ加減を見下して、それを自分の糧としていたのだ。

 

 

 僕の中にある柱が折れた気がした。僕よりもバカなのに、僕よりも高収入で、自分の自由な時間を手に入れている。

 

 

 自分の時間を犠牲にして必死に働いているのに、どうしてお前は僕よりも高い位置に立っているのだ。

 

 

 血走った目で睨みつける僕を、彼はバカそうな笑みで戸惑ったように首を傾げていた。

 

 

 あいつは僕を親友だと思っていた。しかし、僕にとってのあいつは対等ではない。常に僕よりも下でいなければならない存在だった。

 

 

 どこだろう。どこでこんなに差がついたのだろう。僕は賢いと信じていた自分がどうしようもないバカだったのだと気づいた。

 

 

人間はバカである。

 

 あなたは自由であるべきである。もし、今自由でないとしたら、それはバカと付き合っているからだ。

 

 

 あなたの自由を邪魔する者はつねにバカの存在だ。バカは偏在する、普遍的なものである。

 

 

 あなたにできることはふたつだけ。バカと付き合わないこととバカにならないことだ。

 

 

 時代はつねに変化していて、変わり目でない時代はない。現代だけが特別なのではないのだ。

 

 

 時代はずっと変わり続けている。にもかかわらず、人間はずっと変わっていない。

 

 

 バカを考えることは人間を考えることである。

 

 

 これは特定の時代論ではない。時代を超えた本質である。

 

 

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