フェイクを見抜く最強の武器『批判力』えらいてんちょう 矢内東紀


私は批判されるのが嫌いだ。「人のやることにいちいちケチをつけるな」とか思っている。だが、えらいてんちょうの『批判力』を読んで以来、私の目には、批判が別の姿で映るようになった。

 

ネットが普及した現代では、ひとりの発言が一瞬にして多くの人間に伝わる。SNSにおいて、いわゆるインフルエンサーと呼ばれている人たちの影響力は高い。

 

しかし、それはある種の熱狂を生み出す一方で、無用な混乱を招く危険を孕んでいる。ひとりの人間がそれほどの影響力を持つということは、逆に考えれば、その人物の間違った発言もまた、一瞬にして伝播してしまうということだ。

 

その人物がすぐに自分の間違いに気付いて訂正すればいいだろう。だが、間違いに気付かなかったら? あるいは、多くの人の前で謝罪することを怖れて見て見ぬふりを決め込んだとしたら?

 

「批判力」は、そうした事態を防ぐための抑止力になるのだ。批判的な視点を持つことで、その人の間違いや誤謬に気が付くことができるようになり、騙されて利用されることもなくなる。

 

それだけではなく、批判される側にとっても、そういった人間が周りにいるということは安心感につながる。自分の間違いを修正してくれるのだから、本来はありがたい存在なのだ。

 

だが、かつての私は、批判されることが不愉快だった。まるで自分を否定されたかのよう。だから、そういった人とは距離を取り、自分に賛成してくれる人たちとともにいるようになった。

 

『批判力』を読んだ今だからこそ、実感できる。批判してきた彼らこそが、本当の意味で私のことを想ってくれているのだ、と。

 

批判する側の人にとって、それは決していい結果を生むものではない。嫌われる可能性がある。周りからも「批判するな」と責められる。恨みを買うことだってあるかもしれない。

 

それでも、言わざるを得ないのは、紛れもない、その人のことを案じているからだ。どうでもいい相手ならば、批判なんてしないだろう。『批判力』に書かれている通り、間違っていることを間違っていると言うことは、当たり前のことなのだ。

 

しかし、この本を読んで、私が思うのは、そもそも何が「間違い」だというのだろうか、ということである。

 

どうして非難や誹謗中傷と批判の区別ができないのだろうか。その根幹は、この点にあるのではないかと思う。つまり、本当に必要なのは、「間違いを間違いだと認識すること」ではないだろうか。

 

事実と違うこと。この本の例題にあるような、「ネコをネズミだと言い張る」のは、紛れもない、間違いだ。「いや、それはネコだよ」と伝えるのは、批判である。

 

だが、世の中の多くの問題は、事実かどうか曖昧なことばかりだ。たとえば、コロナワクチンを打つべきか、打たざるべきか。

 

この意見には、人それぞれの意見があるだろう。それは決して、事実かどうか、という問題で組み分けられるものではない。

 

だが、例えば「打つ」人が「打たない」人を「間違っている」と言ったとしたら、どうだろうか。これは批判じゃない。「コロナワクチンを打った方がいい」というのは事実じゃないから。確定しきれない曖昧なことであり、言うなれば正解がない問いなのである。

 

「何に対して批判すればよいのか、わかっていない」ことこそが、本当の問題なのではないだろうか。それらが混同されているから、より一層問題が混沌と化している。

 

批判的な視点を持つことは、私たちの視野を広げてくれる。だが、そこからさらに一歩踏み出すとするのなら、私たちが批判している対象はいったい何なのか、そのことをよく考えるべきではないかと思うのだ。

 

 

批判の役割

 

よく「批判するのはダサい」「批判なんてしていないで自分のやりたいことをやろう」と言ってくる人がいます。

 

こういったことを言う人間は、非難や誹謗中傷と批判の区別ができていませんし、批判の意味や役割を無視している場合が多いです。間違っていることに対して間違っている、悪いことには悪いと言うのは当たり前のことです。

 

事実誤認や極端な評価の違いに対して指摘すると、批判をするなと言われる世界がある。おかしいことにはおかしいと言わなければならない。当たり前のことです。しかし現実には、その当たり前が通用しない世界がある。

 

それが可視化され、目立つようになった背景には、インターネットの発達とSNSの発展があります。誰でも発信ができる世の中になったことで、そういった事実誤認や極端な評価の違いが区別できない人、批判と罵詈雑言の違いがわからない人が可視化されているのです。

 

これまでは、そんな人間の声がこれほど遠くまで聞こえたり、大きくなったりすることが有り得ませんでした。しかし、今は違います。

 

インターネットやSNSが大きなメリットを生み出す一方で、「間違った声」を増幅させてしまう危険とも表裏一体です。そのうえ、それらの「間違った声」は目立ちやすく、目立つものは増幅する可能性が高い。

 

そこに着目するのが悪い人間です。判断能力の低い人や何かに悩んでいる人たちを煽動していく。みんながそう言っているからそう言っておけば儲かるという理屈で、煽動する人間が現れているのが現代の特徴のひとつです。

 

そういった気持ちが良くなる情報に踊らされないようにするためには、常に批判的な視点を持っておくことが大切です。そういうなかにあって、ごく当たり前のことを言う方が、逆に価値を持つようになってきています。

 

まずはできない自分を認めて、そのなかで”現在”の自分に”何ができるのかを知ること”でしか、自分を高めていくことや理想の自分になっていくことはできないのです。

 

「批判力」とは、そういったできない自分を認め、真っ当に生きていくために必要な力なのです。

 

 

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