カチ、カチ、カチ、カチ。時計をじっと見つめる。針の進みにしばし視線を奪われた。そうだ、バイト辞めよう。私は唐突にそう思った。
コーヒーを一杯だけ飲んで立ち上がり、上司に「仕事を辞めたいんです」と言いに行くと、彼は鳩が豆鉄砲を食らったかのように驚いた表情をした。
どうしてやめたいんだ。彼は普段はにこやかな表情をしかめ、神妙な顔つきで聞いてきた。
理由を聞かれて、私は返事に困る。ただ、もったいない。そう思ったのだった。会社に不満だとか、そんなものはなかった。だけど、それを直接言うのはどうなのか。
私は何をもったいないと思ったのだろう。自分でもわからないのだ。ただ、時計を見つめていると、不意に頭の中に浮かんだのである。
今、こうして働いていることが無駄に思えてならなかった。その間にも、いくら他のことができただろう。
「時は金なり」という言葉が浮かぶ。私の時間は対価となって、お金に姿を変えた。時間と天秤にかけるには、あまりにも少ない額のお金に。
今まではそんなことなんて欠片も考えることはなかった。むしろ、こんな自分でも働かせてもらっていることに感謝すら感じていた。
働いて、給料をもらう。それが当然のように考えていた。けれど、今ではそれが不平等に思えてならないのだ。
我々は搾取されている。私の頭の中で小さな私が叫んでいる。常識的な私はその声に見向きもしない。けれど、何人かは耳を澄ませていた。
もしかしたら、堀江貴文先生の『時間革命』を読んだからかもしれない。最近、本屋で見て気になったから買ってみたのだ。
彼が言うには、「時は金なり」は間違っているのだという。時間と金を等価値として考えるのは誤りである、と。
時間の方がお金よりも遥かに価値がある。時間とは、つまりそのままその人の人生そのものである、と。
それ以来、私はよく時計を見るようになった。ふとした時に、時計の針が進んでいくのを眺めてしまう。それは、私のどこかに焦りがあったからかもしれない。
時計の針の歩みは、私の寿命の歩みだ。たったの一分、たったの一秒。けれど、それは私の人生そのものが少しずつ減っているということだった。
私はその時間を大切に扱えているのか。自分の人生を無駄に浪費してしまっているのではないか、と。このままではいけないのではないのか、と。
私はいつしか頭の中で自分自身に問うていた。声に耳を傾ける私が、少しずつ数を増やしていく。
バイトを辞める時、親や、上司や、多くの人から警告をされた。しかし、私に後悔はなかった。
それが私の人生の始まりだったからだ。他人の仕事に縛られる人生ではない。私自身の時間の、始まりである。
時間に縛られて
ああ、時間がない、時間がない。ひとりの青年が、小さくそう呟きながら、私の隣りを駆けていく。
その姿を見て、何かを思い出した。ああ、そうだ、『不思議の国のアリス』の白うさぎだ。
自分の後を追いかけてくるアリスにすら気がつくことができないほど慌てて時計とにらめっこしている彼を見ていると、滑稽に思っていた。
けれど、それは少し前の、働いていた頃の私の姿そのものなのだ。
彼は新社会人だろうか。どことなく若く見えて、学生が背伸びしてスーツを着ているような印象を受ける。
時間がない、というのは思わず呟いてしまう、よく聞く言葉だ。改めて考えるとおかしな話だと思う。
私たちはみんな同じ分だけの時間を持っている。それなのに、どうして彼は時間がないと言っているのだろうか。
私たちはいつだって時計を見て、駆けている。時間がない、時間がない、と。私たちの背後からは仕事が迫ってきている。私たちは仕事をしに向かうのではない、仕事から逃げているのだ。
仕事ができなければ、ハートの女王に首をちょん切られてしまう。それが嫌だから必死で走るのだ。
私たちは仕事を辞めさせられることを極度に怖がっている。だから、走る。白うさぎのように。
けれど、私たちは仕事に遅れても、首をちょん切られるわけではないのだ。いわゆる上司からクビをちょん切られても、私たちはまだ生きることができる。
仕事を辞めればたくさんの時間が手に入る。汗を流して必死に働くよりも、その時間は使い方次第で何倍もの価値に膨れ上がるのだ。
私は悠然と歩いている。もう慌てる必要はない。私はもう、女王を怖れる白うさぎではないのだから。
時間は人生そのもの
「時は金なり」ということわざがある。ぼくに言わせれば、こんなバカな考え方はない。この言葉は、時間とお金を「同等に価値があるもの」だとしているからだ。
人間にとって、何より尊いのは「時間」である。お金など比べものにならない。時間ほどかけがえのないものはない。
今の時代、お金がなくてもそれほど困ることはない。もしお金がないのなら、自分で働くなり、起業するなりしてお金を稼げばいい。
しかし、時間はそういうわけにはいかない。一度ムダになった時間、流れ去ってしまった時間は、もう戻ってこないからだ。
時間は人生そのものだ。ぼくたちの人生の価値が湧き出てくる源泉なのだ。時間がなくなるのは、お金がなくなるのとはわけが違うのである。
ぼくたちの時間は、ぼくたちの人生そのものだ。時間の質を高めれば、人生の質も高くなる。ようはハッピーになれるってことだ。
時間こそは、誰もが平等に手にできる、唯一の「資産」なのである。ぼくたちは、その「投資先」をたえず判断し、その価値を最大化することに、すべてを注がなければならない。
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