子どもの頃、僕は家が貧乏なのが何よりも嫌で嫌で仕方がなかった。服は他の人からもらったおさがりばかり。好きなゲームもおもちゃも買ってもらえない。だから僕は、将来、何が何でも金持ちになってやると誓ったのだ。
いい大学に入学するために必死に勉強した。卒業して誰もが知るような大企業に入社し、馬車馬の如く働いた。
契約をとるために各地を走り回り、同じ会社の誰よりも働いた。夜は会社の床で寝ることも珍しくはなかった。
そのおかげで、貯金はみるみるうちに膨れ上がった。僕は子どもの頃の夢を叶えて、お金持ちになったのだ。
けれど、違和感はずっと胸の内に燻っていた。このままでいいのか。これこそが僕の望んでいた未来だったのか。囁く声は次第に大きくなっていく。
仕事はあくまでもお金を稼ぐ手段であって、好きなわけじゃない。貯金額は貯まっていくが、使うものなど何ひとつなかった。
いつしか、笑うことができなくなった。楽しいことなどひとつもない。夢を叶えた先にあったのは、荒野を歩いているような途方もない虚無感だけだった。
その本と出会ったのは、そんな時だ。『お金か人生か』。なんでも海外で大きく話題になった本であるらしい。思わず心を惹かれて、購入した。
前書きを読んでみると、どうやらこの本の目的は『読者のお金とのかかわり方を根本から変えて、経済的自立に到達する手助けをする』ということらしい。
経済的自立。それはつまり、お金のために働く必要がないような状態のこと、であるという。そんな夢みたいなことがあってたまるかと内心吐き捨てながらも、ページを読む手は止まらなかった。
お金は生きていくために必要なものだ。そして、それが有り余ったならば、欲しいものを手に入れることに使える。もちろん、あればあるほどいい。
だから僕は、お金を稼ぐために必死になって働いたのだ。その結果、お金は手に入れた。でも、何でも手に入ることの嬉しさは、どこにもなかった。それはなぜか。
時間。そうだ、僕は自分の時間をずっと会社のために使ってきた。その報酬としてお金を得ていたわけだ。
時間は、最も貴重な資源。それは僕の人生そのものだった。僕は自分の人生を、お金として変えてきたのだ。
その本には、さまざまなステップが書かれていた。まずは自分のお金の量を知ること。そして、自分に必要なお金がどのくらいなのかを知ること。
あればあるほどいい、と考えていたお金を、必要な分だけ、と考えたことはなかった。でも、今ならば少しわかる気がする。
本当はきっと、そんなにいらないんだ。お金も、モノも。僕はそれらを多く持っている方が幸せな人生を送るのだと考えていた。でも、そうじゃない。
幸せな人生のために、本当に必要なのは、時間の方だ。僕がお金を稼ぐために削ったもの。それこそが、本当に価値のあるものだった。
経済的自立。お金のために必死に働かなくても、生活することができるようになることで、自分の時間がより自由に使えるようになる。それこそが、幸せの近道だった。
僕は、ふと気づく。心の中で思い出したのは、幼い頃、貧乏なのが嫌だったあの頃の僕だった。
欲しいゲームが買ってもらえないのが嫌だった。服がおさがりしかないのが嫌だった。でも、それでも母と父、家族三人での生活は、決して苦しいものじゃなかった。
あの頃の家族の生活が、僕の人生でもっとも幸せで、価値のあるものだった。そうだ、どうして忘れていたんだろう。お金なんかなくなって、僕は幸せだったじゃないか。
もうやめよう。そう思った。お金のために自分の人生を削って働くのは。これからは、自分の時間を、人生を取り戻すのだ。
子どもの頃の、あの幸せな日々。お金がなくても幸せだった、あの頃。その時間を取り戻すにはどうすればいいか、僕は次のページをめくった。
お金を稼ぐための人生からの解放
本書で紹介する9つのステップの目的は、あなたのお金とのかかわり方を根本から変え、あなたが経済的自立に到達する手助けをすることです。
その結果、あなたにとって最も貴重な資源――時間――を自由に使えるようになります。そしてより幸せで、より自由で、より意味のある人生を送る余裕が生まれるのです。
お金とのかかわり方を「根本から変える」とはいったいどういう意味でしょうか? 今より多くのお金を稼ぐといった意味ではありません。
現在、そして将来にわたって、自分の理想の人生を送るためには、どのくらいの金額が自分にとって十分なのかを知るということです。お金や経済のために自分を犠牲にする生き方から、良心に従った選択をできる生き方に変えるということです。
本書はそれだけにとどまらず、モノを買うことで幸せになれる、多いほど豊かだという幻想から解放する旅路にあなたを誘います。自分自身の考え方を明確に客観視できるようになることで、支出や収入のパターンがリセットされるのです。
本書を読み、それぞれのステップを実践することで、お金を稼ぐために働くだけの人生を甘んじて受け入れる必要などないことを理解するでしょう。
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