俺は家の居間で呆然と立ち尽くしていた。いつ帰ってきたのか、まるで覚えていない。会社に行かないと。そう思って、ふと、思い出した。ついさっき、俺は会社からクビを宣告されたのだと。
感染症の波は、未だに世界中で猛威を振るっていた。その余波が、とうとう俺のところにも来たのだ。俺が入社した頃には快調だった会社の業績は、崖から転げ落ちるような勢いで右肩下がりになった。
こんなことになるなんて、誰も予想できなかった事態だ。上司も誰ひとりとして、いったいどうすればこの現状を打破できるのかわからなかった。
その結果として敢行されたのが、社員の大量リストラだ。給料を払う余裕すらも、会社は失ってしまったのだ。そして、そのクビを切られた社員の中には、俺も含まれていた。
仕方のないこと、だとは思う。だとしても、こうもいきなり仕事を失って、一体どうしろというのか。今の会社はどこも新しい社員を雇う余裕なんてないというのに。
俺はともかく安定している会社を選んだつもりだったのだ。それが、こんなにもあっさりと崩れ落ちた。世の中は、なんて理不尽なのだろう。
ともあれ、俺はこれから必死に仕事を探さなければならなくなったわけだ。だが、見つかるまでの間、どうやって生きろというのか。
途方に暮れた俺は、求人情報を探すために本屋を訪れた。店内は閑散としている。感染症の影響が色濃く出ているのが目に見えてわかった。
どうせ人も少ないのだし、もうしばらくここで落ち着くことにしよう。俺はそう決めて、本棚を見て回ってみることにした。
ふと、一冊の本が目につく。俺はその本を本棚から抜き取って、眺めた。『こんな時代を生き抜くためのウラ「お金学」講義』と書かれている。ビジネス書のようだ。
思えば、俺はとんとん拍子に大学から就職したから、ビジネス書というものを読んだことはなかった。今までの俺の人生に必要じゃなかったからだ。
だが、これからは、こういった本を読むことも必要になるかもしれない。仕事を早く見つけるためにも役に立つかもしれないし。俺はその本を買ってみることに決めた。
ページを開いてみて、まず前書きにドキッとした。「多くの人が予想しなかった大きな変化」とは、まさしく現代の世の中が直面している事態だろう。
俺の生活はその余波によって何もかもがひっくり返され、ムチャクチャにされた。まさに、俺はこれから何をすればいいのか、わからない状態に放り込まれたのだ。
「ピンチを、チャンスに変える……」
俺の口から、思わず呟きが漏れる。誰も予想できなかったこの「感染症」という異常な事件の中で、ピンチをチャンスに変えることなんて本当にできるのだろうか。
時代の変化は流動的だ。感染症はわずかな期間で爆発的に世界中に広がった。かつての俺たちは、世の中がこんなふうになるなんて夢にも思わなかっただろう。
社会は常に変化している。しかし、その本が言うには、その中でも、社会の変化に惑わされることなく、自分の生活を守り続けている人たちがいるのだという。
その芯となっているのが、お金との付き合い方。そういった人たちは、お金との付き合い方がそもそもまるで違うのだというのだ。
いったいどういうことなのか。そして、それを実践すれば、俺もそちら側に行けるのだろうか。自分の生活を守り、お金を守ることのできる側に。
その答えは、このページの先に書かれているという。俺はかすかに胸に希望を灯しながら、その先のページをめくった。
変化する社会の中で、自分のお金を守るために
世の中には、多くの人が予想しなかった大きな変化が起こります。自分の生活を守り、お金を守るためにどうしたらいいのか。これから何をすればよいのかわからず、たくさんの人が悩んでいると思います。
しかし、このような変化の大きな時代でも、冷静にその変化を受け入れ、それどころか、それをチャンスにさえできる人たちがいます。
そんな、世の中の変化に振り回されない考え方を実践できれば、誰でもお金を守り、殖やしていくことができる。ところが、それに気が付かない人があまりに多いのです。
本書は、一獲千金を狙うようなお金のテクニックではなく、これから起こる大きな変化の中で、日本人がどのようにお金とつき合えばいいかをまとめたものです。
日本では、年収3000万円以上の人の収入はより増える傾向があり、年収300万円以下の人たちの収入はさらに下がっていく傾向が見られます。「お金持ちの人」と「お金を守れない人」の二極化が、だんだん当たり前になってきているのです。
同じひとりの人間が毎日24時間という同じ時間を使って働いていて、なぜ何十倍、何百倍もの収入の違いが出てきてしまうのでしょうか。
その差はどこにあるのかというと、ひと言でいえば、日々のお金との付き合い方が根本的に違うということです。逆に言えば、うまくいっている人のお金の付き合い方を知り、その習慣を身につけさえすれば、お金持ちになるきっかけをつかめるということです。
貧乏な人とお金持ちの人というのは、ものの考え方が正反対です。多くの人が当たり前のようにやっていることでも、お金持ちの人から見たら、「それだけはダメ」というようなことがたくさんあります。
お金持ちと貧乏な人は何が違うのか。ピンチをチャンスにできる人はどのような思考をしているのか。これからの変化の大きな時代にお金を守るにはどうしたらいいか。
お金を守れない人がおかしてしまっているさまざまな間違いや誤解を取り上げて、何がいけないのかを説明し、不安を自信に変える方法をお話していきたいと思います。
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