働く、とはどういうことか『この世でいちばん大事な「カネ」の話』西原理恵子


 この世でいちばん大事なのは「金」だ。いくらきれいごとで自分を誤魔化したって、心の底では誰もがそのことを知っている。

 

 

 けれど、そのことを表立って堂々と言いはしない。誰もがそう思いつつも、口に出した途端、冷たい眼で見られることを知っているから。

 

 

 お金の話を大っぴらにすると卑しく思われる。それがこの国に深く根付いている価値観だった。

 

 

 だからこそ、『この世でいちばん大事な「カネ」の話』を初めて読んだ時は衝撃を受けたものだった。

 

 

 誰もが言葉にしない、けれど、誰もが知っていることをこうまではっきりと言い切っている本が他にあったろうか。

 

 

 私はその時、今まできれいごとだけを見て、目を背けていた世の中の汚いところを、見せつけられたような気になった。

 

 

 けれど、不快に思ったかと言われれば、そういうわけじゃない。それどころか、どこか解放されたような痛快な気持ちになった。

 

 

 私はそれまでにも、どこかで疑問に思っていたのだろう。

 

 

 直視したくない事実から目を背ける。それは、反省を放棄し、改善を諦め、その場しのぎの慰めで現実から逃げているに過ぎない。

 

 

 いや、なにも逃げることは悪いことじゃない。でも、いずれは向き合わないと、最後までずっと逃げ続けることになるのだ。

 

 

 それだけは、どうしても嫌だった。だから、私は自分の過去と向き合うことにしたのだ。今まで封印してきた記憶の奥へと。

 

 

過去の大罪

 

 幼い頃、仲の良かった友人がいる。ほとんど唯一といっていいくらいの親友で、互いに家に行ってよく遊んでいた。

 

 

 その友人は一年上の先輩で、面倒見のいい人だった。私は彼を心から慕っていて、尊敬していた。

 

 

 一度だけ。そう、それはたった一度だけの出来事だった。

 

 

 ある時、母が言った。タンスにしまっていたはずのお金があからさまに少なくなっているという。

 

 

 それだけではない。私のお金も、使っていないはずなのに、驚くほどなくなっていた。と、なれば、いくら呑気な私でもおかしく思う。

 

 

 泥棒だろうか。しかし、自分で言うのもなんだが我が家は貧乏だ。家の外見からもわかるくらいに。侵入したところで、盗るものなんて何もない。

 

 

 だが、もしも、すでに侵入していたとしたら、どうだろう。私の家に頻繁に出入りする人間は、彼だけだった。

 

 

 問い詰めると、彼はお金を盗んだことを告白した。彼が盗んだ金額は、子どものイタズラで済まされる金額ではなかった。

 

 

 涙ながらに謝る彼を見て、私は許した。その後も彼とは良い友人関係を続け、彼が卒業するまで友人であり続けた。

 

 

 あの時、私は彼に対して憎しみも怒りも抱いていなかった。それは、金を盗られた程度で怒ることを卑しいと感じたからだ。それだけのことで、友情を失うのが嫌だったからだ。

 

 

 しかし、今にして思えば、私はあの時、彼に怒り、憎み、友人関係を断つべきだったのかもしれない。

 

 

 相手の罪を許してあげる、と言えば、良いことのように思えるかもしれない。しかし、それは互いにとって良くない結果を招く最悪の選択だ。

 

 

 私が許したことで、彼は反省の機会を失われる。もしかしたら、将来、彼は同じ悪事を再び繰り返すかもしれない。

 

 

 そして、私は美徳を盾に金への執着を失った。それは、金が今後、増えても減っても意に介さないという未来を招く。

 

 

 金に対する無関心ほどの大罪はない。盗まれても騙されても相手への怒りを抱けず、そして全てを失うことになりかねない。

 

 

 それでも本人だけは幸せなのだろう。金は失っても優しさはあると信じているから。世界は金がない人間に対して一片の優しさすらも持たないというのに。

 

 

 美しいものとして尊重する「優しさ」ほど無駄なものはない。「情」がいくらあっても、「カネ」がなければパンの耳すら食べられないのだ。

 

 

それは偽りのない「現実」の話

 

 世の中の多くの人は、カネのハナシをしない。特に大人は子どもに「お金の話をするのははしたない」と言って聞かせたりするよね。

 

 

 従業員が従順で、欲を張らない人たちばっかりだと、会社の経営者は喜ぶよね。そういう人間を使うことで日本の経済成長もあったと思うけど、今の時代に、そんな金銭教育のままでいいんだろうか。

 

 

 「人間はお金がすべてじゃない」「幸せは、お金なんかでは買えないんだ」っていう、アレ。いったい何を根拠にして、そう言い切れるんだろう?

 

 

 日本中が貧しかった時代には、どん底から生き抜こうとした人たちはいっぱいいた。それを「お金じゃない、人の心の豊かさ」なんて言いきってしまうことが、どれだけ傲慢なことか。

 

 

 「いかにも正しそうなこと」の刷り込みが、どれだけ事実に対して人の目をつぶらせ、人を無知にさせるのか。

 

 

 貧乏人の子は、貧乏人になる。泥棒の子は、泥棒になる。こういう言葉を聞いて「なんてひどいことを」と思う人がいるかもしれない。でも、これは現実なのよ。

 

 

 お金が稼げないと、そういう負のループを断ち切れない。負のループの外に出ようとしても「お金を稼ぐ」という方法からも締め出されてしまっている、たくさんの子どもたちがいるんだよ。

 

 

 「貧困」っていうのは、治らない病気なんだ。気が遠くなるくらい昔から、何百年も前から、社会の最底辺で生きることを強いられてきた人たちがいる。

 

 

 そうなると、人ってね、人生の早い段階で「考える」ということをやめてしまう。人は「貧しさ」によって、何事かを考えようという気力を、よってたかって奪われてしまうんだよ。

 

 

 貧困の底で、人は「希望」を持つことさえもつらくなって、ほとんどの人が、その劣悪な環境を諦めて受け入れてしまう。そうして、その諦めが、人生の教えとして、子どもの代へと受け継がれていく。

 

 

 考えることを諦めてしまうなんて、人が人であることを諦めてしまうにも等しい。だけど、それがあまりにも過酷な環境をしのいでいくための唯一の教えになってしまう。

 

 

 動き出すと、考えをどんどん展開させることができる。自分から動いて、何かを知った人間は、そこから何かを始めることができる。

 

 

 なぜ、そんなことができたんだと思う?

 

 

 それは、きっと、自分が生まれた環境がどんなにひどかろうと、それを受け入れてしまうことをしなかったから。「希望」を諦めてしまうことを、しなかったから。

 

 

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