皮肉たっぷりの痛烈パロディ『王様は裸だと言った子供はその後どうなったか』森達也


むかしむかし、あるところに、とてもおしゃれな王様がおりました。いつものように読み聞かせをしていると、うとうととしかけた娘が言った。「ねえ、王様は裸だって言った子どもは、どうなったのかな?」

 

私は思わず息を呑んで、それから「わかんないなぁ」と笑う。「そっかぁ」とそのまま眠りに落ちた娘を見下ろして、はあとため息をついた。

 

時折、子どもは不意に本質を突くようなことを言う、とはよく聞いていたけれど、どうやら娘もその年頃になったらしい。どう答えるのが正解だったのだろう。

 

王様を裸だと言った子ども。はて、どうなったのだろう。物語の中には、その顛末まで描かれていない。私は思わず、娘の放った問いかけを真剣に考え始めていた。

 

王様に恥をかかせたのだから、処刑だろうか。いやでも子どもだし。それに、子どもは正直に言っただけであって悪いことをしたわけじゃない。子どもに読み聞かせる本で、正直者が悲劇を迎える話は良くないだろう。

 

気になった私は、ネットで調べてみる。でも、やっぱり出てこない。その代わり、一冊の本を見つけた。『王様は裸だと言った子供はその後どうなったか』。気になってしまって、衝動的に買ってしまった。

 

届いた本を読んでみると、予想していたよりもヒドイ結末が書かれていたから、思わずびっくりする。ある種、おとぎ話らしい教訓はあるけれど。

 

その本にはそれだけじゃなくて、いろいろなおとぎ話や民話のパロディが書かれている。知らないものもたくさん。それどころか、「仮面ライダー」まであったものだから、つい、読みながらふっと吹き出してしまった。

 

どれもおとぎ話をそのまま捉えず、それでいてたっぷりの皮肉が込められている。そのブラックなユーモアが思いのほか面白くて、気が付けば夢中で読んでしまっていた。

 

子どもの頃は、ただ楽しむだけだったおとぎ話。でも改めて読んでみると、「裸の王様」じゃないけれど、多くの疑問が生まれてくる。

 

グリム童話の原話がとても残酷なことだとか、かわいらしく見える童話にも実はちょっと子どもには言えないような秘密が隠されているだとか、おとぎ話が「実は……」みたいな本は一時を境に増えたような気がしていた。

 

けれど、この本はそんなものとも違う。おとぎ話の真実ではなく、パロディ。つまり、この話自体が大嘘だと言い切ったうえでの、痛烈な皮肉。だからこそ、ただ純粋に楽しむことができる。

 

特に、赤ずきんの話は結構かわいらしくて好きだった。狼が実は赤ずきんのことが好きで、おばあさんにも恋愛相談をしていただけで。

 

残酷なお話が、ちょっと視点を変えてみるだけで、とてもかわいらしいお話になってしまう。まあ、結末は原作を知っていれば、より悲劇的になったわけだけど。

 

でも、その考え方は、ただ読み聞かせるよりも楽しそうだった。そもそも、おとぎ話自体、民話として伝えられていたものが入り混じっているのだから、固まった物語だというわけじゃない。

 

それなら、勝手に変えてしまっても、いいのではないだろうか。裸の王様の子どものその後、とか。仮面ライダーのショッカーの労働環境と経営状況、とか。ジャーナリストとなった桃太郎、とか。

 

このおとぎ話はこうじゃないといけない、なんてことはないんだ。気に入らないのなら、自由に変えてしまってもいい。本来、物語は自由なものなんだから。

 

その夜、私はひとつの挑戦をしてみるつもりだった。娘が気に入っている「裸の王様」は、今は置いたまま。読み聞かせじゃなくて、語り聞かせ。自分でつくるのも、楽しいじゃないか。王様を裸だと言った子どもの、その後のお話を。

 

むかしむかし、あるところに。

 

 

童話や民話の痛烈パロディ

 

僕の手許には今、『お伽草紙』と表紙に銘打たれた一冊の文庫本がある。この文庫本には、十二の短編からなる「新釈諸国噺」と、さらに「盲人独笑」と「清貧譚」「竹青」が収められている。

 

これらはすべて、日本や中国の古典、フォークロアなどを題材にして、太宰が新しい解釈を加えながら再構築した作品だ。つまりパロディだ。

 

時局が変わりつつあると言われる今、既成の物語に触発されて創作するというこの手法を、僕も試してみようと思いついた。

 

まず取り上げるのは、鈍い子供の話だ。王様は裸だと言った子供。この子供のその後がずっと気になっていた。

 

だからタイトルは「王様は裸だと言った子供はその後どうなったか」。……そのまんまだな。

 

連載回数は全部で十八回。日本の民話もあれば、イソップやギリシャ神話、グリムやアンデルセンの物語もある。さらには近現代の作家たちの作品も取り上げ、ついには「仮面ライダー」にまで手を伸ばしてしまった。

 

子供の頃から妄想癖はあった。だから毎回の執筆は楽しかった。オチを想定してから書き始めたことはほとんどない。筆というかキーボードに任せた。

 

それだけに読み返してみると、自分の無意識の領域が表れているようで面白い。この面白さが、第三者である読者にも感染してくれることを願っている。

 

 

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