変化する女心『女ごころを整理する本』中村延江


「女心がわかってない!」

 

 

 かつての私は、愛していた彼氏に叫んだ。涙をボロボロ零しながら。後にも先にも、彼とあれほど激しい喧嘩をしたのは、あの時だけだった。

 

 

 売り言葉に買い言葉。私も彼も、もう矛を収めることができなかった。彼氏と別れることになったのは、あの喧嘩が原因だろう。以来、彼氏との仲はぎこちなくなり、距離が広がっていった。

 

 

 なぜ、あの時の私はあんなに怒っていたのだろう。今にして思えば、随分とくだらない理由だったと思う。

 

 

 彼のことが大好きだった。結婚するならこの人しかいない、とすら考えていた。それなのに、私の一時の感情だけで、失ってしまったのだ。

 

 

 女心がわかっていない。私はたしかにそう叫んだ。でも、思えば、あの頃の私の「女心」とやらはどんなものだったのだろうか。

 

 

 そもそも私自身にすらわかっているかどうかアヤシイ。それを彼にわかってもらおうなんてのは、ちょっと無理があったかなと思う。

 

 

 わかってほしい。ただそれだけを望んでいた。そのはずだったのに。

 

 

 ふらふらと気晴らしにと思って図書館に行くと、ちらほらと人がいた。仲良く本を見ている恋人と思わしき男女がいて、嫉妬に胸が少し痛む。

 

 

 目を反らすように立ち並ぶ蔵書をぼんやりと眺めていると、一冊の本が目に入った。

 

 

 『女ごころを整理する本』と書いてある。ちょうど頭の中で考えていたものだから、思わず衝動的に手に取ってしまった。

 

 

 椅子を引いて席に座り、本のページを開く。女心の整理。まさしく、今の私には、その作業が必要なのかもしれない。

 

 

 作者は中村延江という人らしい。どうもその本は、作者の知り合いの経験談を例題として紹介し、それに作者自身の考えを絡めたエッセイのようなものらしい。

 

 

 彼女たちの経験談は、心温まるものもあり、同情してしまうようなものもあり、思わず共感してしまうものもあり、「それはないなぁ」と思うものもあった。

 

 

 ああ、私だけじゃないんだ。そんなことを思って、安堵を覚えながら、ページをめくる。

 

 

 「現代の女心は従来の女性としての心と現代の心が混ざり合っている」と書かれている一文を見て、思わず彼氏のことが頭に浮かぶ。

 

 

 彼氏はどちらかというと、古い考え方の持ち主だった。女は家庭に入り、男は働くというのが当然というような。

 

 

 とはいえ、それが凝り固まっているわけではなく、ある程度は柔軟だったところが魅力だったけれど、それでも、私が意見を言った時の表情はどこか硬かったように思う。

 

 

 私のことを「守る」といってくれる人だった。「女の子だから」と、しばしば私に力仕事をさせないようにしてくれる人だった。

 

 

 そう、そうだ、そうだった。私を「女」として扱って、良くも悪くも「女」という姿でしか私を見なかった彼の、その考え方が私にはどうしても受け入れられなかったのだ。

 

 

 私はどちらかというと「女らしい」女子というよりはキッパリした性格だと思う。友人からもそう見られていた。

 

 

 力仕事を引き受けてくれるのはありがたいけれど、どこか、「役立たず」だと言われているような気がして、むしろ、私はそういったことも男子と区別せずにしてほしかったのだ。

 

 

 彼氏に「女だから」と言われる度に、私という存在が「女子」という大きな枠組みの中に押し込められているような気がした。

 

 

 そこでは、私という存在が消えて、ひとりの「女」だけが残る。私にはそれが怖くて堪らなかったのだ。

 

 

 女心がわかってない。そう叫んだ私の望みが、「女として扱ってほしくない」というのなら、とんだ皮肉だろう。私は思わず苦笑した。

 

 

 やっぱり、女心ってわからないなぁ。そう呟くも、心のつかえがとれてスッキリした気分になっていた。

 

 

 それはきっと、複雑な「女心」を整理できたからだろう。過去は過去。彼はもう彼氏じゃないのだ。もっと良い彼氏を見つけよう。私はそう決意して立ち上がった。

 

 

現代の女心

 

 昔から、女心は移ろいやすいものだと言われている。人の心は時代や状況によって変わってくるものだが、現代の女心は以前とは随分変わらざるを得ない面が多いのではないだろうか。

 

 

 しかも、だからといって、昔のままの女心のあり方もなくなってはいない。従来の女性としての心と、時代によって変わってきた現代に特有の心の両方を合わせ持っているのが、現代の女心といえるのかもしれない。

 

 

 本書は日本経済新聞のコラム「女の心模様」に連載した原稿を中心に加筆したり、書き直したりして一冊にまとめたものである。

 

 

 私は、心理の臨床家として患者さんや来訪者とお会いすることが多い。そうした日常の経験から見えてくる現代女性のさまざまな心についての感想を書いた。

 

 

 この本のエッセイに登場する女性たちは、昔ながらの女性の心に縛られて悩んだり、現代社会の中での以前とは違う自分の心に戸惑ったりしている。

 

 

 私たちは自分のこうした揺らぐ女心をどのようにとらえて、どのようにその心に対処したらいいのだろうか。

 

 

 登場するさまざまな女性たちの心のあり方や、考え方、行動の仕方などを見ていると、どこかに自分との共通点を見出したり、ほっとしたりしないだろうか。

 

 

 そんなつもりで、女性が自分の心を整理する一助になって、より生き生きした心が持てるようになればいいなと考えている。

 

 

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