周りにいるちょっと変わった女性たちと対談『のほほんだけじゃダメかしら?』大槻ケンヂ


 僕が「大槻ケンヂ」という人の名前を、なんとなく目で追い始めたのは、高校生の頃であった。

 

 

 僕が好きな曲のひとつに、『踊る赤ちゃん人間』というものがある。『NHKにようこそ』というアニメの曲だが、アニメ自体はあまり見ていない。

 

 

 どうして人は成長していくにしたがって差ができてしまうのか。それならばいっそ、俺はずっと赤ちゃんでいてやるゼ! そんな感じの曲だった。

 

 

 赤ちゃん人間って何だよ。わけがわからない。でも、とにかくがなり声で必死に叫ぶようなその曲は、僕の心にナイフのようにぶっ刺さった。

 

 

 けれど、その頃にはまだ、曲が好きなだけで、歌っている歌手の姿は見えていなかった。それが見えるようになったのは、『さよなら絶望先生』というアニメにはまったことがきっかけだった。

 

 

 『人として軸がぶれている』。それがそのアニメの主題歌だった。大槻ケンヂという名前が目についたのは、ちょうどその瞬間。

 

 

 人として軸がぶれている。なら、もっとブレて、ブレて、ブレまくって、震えているのをわからなくしてやる。

 

 

 その歌詞は僕の頭をガツンと殴ったのだ。人としてズレている軸を、直すのではなく、もっとズラす。それは、僕にあの成長を拒んだあの声で、また叫ぶのだ。

 

 

 訴えるように悲痛で、けれど、立ち向かうように力強く。喉が張り裂けそうなくらいの、心の底から出てくるような魂の叫び。それが、僕にとっての大槻ケンヂだった。

 

 

 僕がその本を見た時に思わず手に取ってしまったのは、僕の中でそんな大槻ケンヂがすでにいたからだろう。

 

 

 『のほほんだけじゃダメかしら?』。その本は、大槻ケンヂ先生が彼の周りにいるちょっと変わった女性たちにインタビューした内容をまとめたエッセイ、であるらしい。

 

 

 ケンヂ先生のおっかけや、「ホッケになりたい」とぼやいた女性、父からロボットだと言われた女性、SMの女王、宇宙人とのコンタクターを自称する女性。

 

 

 傍から見れば、思わず距離を取ってしまいそうなくらい。だけど、ケンヂ先生との対談が彼女たちの内面を明らかにしていく。

 

 

 一見、首を傾げるような内容でも、彼女たちの中にはしっかりとした理由があって、彼女たち自身の考え方がある。

 

 

 そんな単純なことに、読んでいたぼくは気づいた。そして、それはケンヂ先生自身も同じだ。

 

 

 世間からしてみれば、彼女たちは「変わっている」人なのかもしれない。そして、世間はそこで理解することを諦めて、追い出そうとしてしまう。

 

 

 でも、聞いてみれば、そこにはちゃんとした理由がある。ケンヂ先生はそんな彼女たちの内面を開けることを、びっくり箱を開けるように楽しんでいる。

 

 

 突然、「私、UFOに乗ったことがある」なんて言われても、先生は避けるのではなく、「おもしろそう」とツッコんでいく。

 

 

 僕は思わず自分を顧みた。僕自身は、どうだったろうか。

 

 

 差別をしない、と、考えている。けれど、「変わっている」というレッテルを勝手に貼って、そこから目を背けたりしていなかっただろうか。

 

 

 自信はない。していたのかもしれない。僕は今までのことに、誰彼構わず謝りたくなった。人として軸がぶれているのは、僕の方だ。

 

 

 好きだとか、嫌いだとか、そんなのは後だ。僕はまず、知らなければならない。ケンヂ先生みたいに、真っ向からぶつかって。

 

 

 その順番は、世間では逆さまになっている。まず好きか嫌いかを判断して、好きなら、知ろうとする。

 

 

 でも、それじゃあ、世間から嫌いに分けられた人たちはどうすればいいのだろうか。

 

 

 今の時代、「個性」が大事だと叫ばれている。けれど、ずっと思っていた。大人たちは口ではそんなことを言いながら、本音では個性なんていらないものだと考えているのだ。

 

 

 大真面目に、みんなが同じスーツを着て、正しいと思われる行動をして、誰もが同じ顔をして笑う。

 

 

 生きるって、そんなに真面目なことなのだろうか。だから、そう、もっと、肩の力を抜いて、そう、のほほんだけじゃダメかしら?

 

 

ちょっと笑えるオーケン先生と女性の対談

 

 大槻ケンヂ・ソロツアーの初日は仙台。

 

 

 ノリノリのライブ終演後、ホテルに帰ると、ロビーに三人のかわいらしい女の子。十代後半から二十代前半、派手なピンクハウスの服を着て、じーっと僕を見ている。おっかけだ。

 

 

 僕は彼女たちにツカツカと歩み寄り、小型カセットテープレコーダーをグワッと突き付けて、彼女たちにこう言った。

 

 

「恐縮です! 今度ある雑誌の連載でインタビューをすることになりました。一回目のテーマとして”おっかけ”の女の子を取り上げることになりました。で、早速。皆さん僕のおっかけですか?」

 

 

「はい」

 

 

「おっかけの目的とは何ですか?」

 

 

 おっかけをすることでお金がすごくかかるよね。でも会う時間は数秒に過ぎなかったり、リスクがあまりにも大きいのに、それでもなおかつおっかけしようというのはどうして?

 

 

「好きだから。でも、自己満足かな。生きがい。毎日つまらないから、それで楽しくしてみようかなと」

 

 

 おっかけを始めたきっかけは?

 

 

「友だちの影響とか、何か違うものにひかれたかな。日常からの逃避かなぁ。他の人がスキーに行くようなのと同じ感覚」

 

 

 おっかけはスキーに比べてあまりにリスクと金のかかり方が伴ってないと思うがねえ。

 

 

「一緒だよ。スキー道具そろえるよりこっちの方がいい」

 

 

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