「お、い、し、い、と。よし、ツイート」
「早く食べないと冷めるよ」
「ちょっと待って」
彼女はスマホの画面を覗き込みながら、かすかに口角を上げて生返事を返す。私は自分の分の料理を突きながらため息を吐いた。
彼女は私の友人である。小学生の頃からの付き合いで、暗い子だったことから他の子たちからはいじめられていた。最近は明るくなってきたようで何よりである。
しかし、その代わりにというか、彼女はSNSにのめり込んでいた。流行りのTwitterやらインスタグラムとかいうやつだ。
いや、別にそれ自体が悪いとは言わない。近頃の人たちならみんなやっているのだし、言うなら私だってあまり呟かないもののアカウントは持っている。
私はスマホに文字を打ち込んで彼女のTwitterページを開いた。そこにはさっき上げたばかりのおいしそうな料理の写真がアップされている。
『友だちと外食! おいし~~~』
絵文字でかわいらしく装飾されたツイートに、彼女がこだわりにこだわった角度から撮影された写真が添えられている。
光の当たり具合がちょうどよく、写真ではとてもおいしそうに見える。いいねやリツイートの数を示す数字がどんどん増えていた。
彼女はTwitterでは多くのフォロワーを抱える人気ツイッタラーだった。しかし、そこにいる彼女は彼女ではない。
プロフィール欄にはさくらんぼのような小さな唇の、線の細い美女の写真が貼られている。しかし、彼女とは似ても似つかない。
田舎の貧乏な家に生まれた彼女は、Twitter上では都心部に住むセレブのお嬢様として知られているのだ。
プロフィールはもちろん、ツイートも嘘八百。そのことを知るのは何千というるフォロワーの中でも私だけだろう。
どうせすぐにボロが出るだろうと思っていたけれど、意外にも彼女は上手く事実を隠して別の人間を演じていた。今のところ、露見する様子はない。でも。
「ねえ、楽しい?」
「うん! 楽しいよ!」
きょとんとしたあとに笑顔で返してきた彼女に、そっかと返してから内心でため息を吐く。いじめられていた頃の陰鬱な彼女を知っている私はもう何も言えない。
まあ、いいか。楽しいのなら。
心中に忍び寄る嫌な予感から目をそらすように私は料理を口の中に入れて噛み締める。彼女もようやくスマホから目を離してナイフとフォークを手に取った。
彼女がおいしいとツイートした料理は、とっくに冷めていかにもおいしくなさそうに乾いていた。
現実に生きる
『SNSをポジティブに楽しむための30の習慣』は、本屋で偶然見かけて購入した本だった。
作者は漫才コンビ『NONSTYLE』の井上祐介。あまりテレビを見ない私ですら知っているほど有名なお笑い芸人だ。バスジャックのネタが好き。
そこに書かれていた「しょせんSNS」という言葉を見て、私は『世にも奇妙な物語』で見た話を思い出した。
Twitterでセレブな奥様を演じている工場勤務の女性が、フォロワーのひとりから執拗に追いかけられるという話だ。
友人であった彼女もまた、その女性と同じだったのだろう。
本でも書いてある通り、SNSで接している人たちは所詮はただのネット上の人たちでしかない。彼らに嫌われたからといって、現実の自分が詰られるわけではないのだ。
しかし、彼女にとっては違ったのだろう。自分とは違う、別の存在をSNSに生み出していた彼女にとって、Twitterはただのネットツールではなかった。
そこはもう、別の世界だったのだ。
現実世界に対して劣等感を抱いていた彼女は、理想の自分の姿を創り出して別の世界に逃げ込んだ。彼女は現実ではなくSNSの中で生きていたのだ。
だからこそ、破綻は彼女にとって世界の崩壊そのものだった。彼女にとってのSNSはただ楽しむだけのものではなく、生きるための舞台だったのだろう。
私が彼女を現実世界にとどめることができていたら、こんなことにはならなかったのだろうか。私はそんなことを考える。
私は彼女にとって楔にはなれなかった。だから、別世界へと旅立つ彼女を止めることができなかったのだ。
しょせんはSNS。その通りだ。それは誰もが心の奥底でわかっているのだろう。だからこそ、彼女のことを誰も理解できない。
でも、私は彼女の言うこともわかるのだ。この現実はあまりにも残酷で、自分はどこまでも変わらない、ただの自分でしかない。
もしも、私がこんなだったなら。それくらいのことは誰しも考えたことがあるだろう。
その狂おしいほどの願いを、彼女はSNSで叶えようとした。苦しい現実を、幸せな虚構の世界で叶えようとしたのだ。
私は彼女のTwitterのページを開く。彼女に対する顔の見えない罵詈雑言が書き連ねられていた。随分とフォロワー数は減ってしまっている。
そのツイートはもう、更新されることはない。永遠に。
SNS芸人NONSTYLE井上祐介先生によるSNSを楽しむ心得
僕は昔から、新しいモノや、新たに出会ったヒトに対する偏見がありません。
接してみないとわからないことがたくさんあるから、結果が同じでも、やったほうがいいと思っています。
そういう考え方だから、ガラケーからスマホに早く移行したし、SNSと呼ばれるものは、すべて試してきました。
特に、Twitter。誹謗中傷メッセージもたくさん送られてきました。
それらに自分なりの考えを添えてリツイートしていたら、”ポジティブ返し”とネーミングされて話題になりました。
記事には”SNS芸人”と書かれてありました。嬉しい反面、この世間のイメージに正直戸惑いも抱えています。
というのも、写真は一切加工していませんし、そもそもSNSに割いている時間はほんのわずかしかないから。
僕はSNSをするうえで、「臆病にならない」「時間をかけない」「飾り過ぎない」「はしゃがない」「振り回されない」ことを意識しています。
なので、僕はSNSでのストレスを感じることはほとんどありません。逆にリアルを見つめ直すきっかけをもらえたような気さえするのです。
最近では”SNS疲れ”という言葉をよく耳にするようになりました。こんなことで悩む必要もないのに、と僕は思うのです。
「しょせんSNS」ということを心に留めて、リアルな仕事や生活をポジティブに生きている人ほどSNSと上手に向き合っていると思います。
SNSをポジティヴに楽しむための30の習慣 [ 井上裕介 ] 価格:1,320円 |
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