人生はひと言で決まる!『コメント力』斎藤孝


「大迫、半端ないって!」

 

 

 涙ながらに絞り出すように吐き出されたその言葉は、電波に乗って瞬く間に人々の心を叩いた。

 

 

 サッカーの試合。勝ったのは大迫選手だった。けれど、世間が注目したのは、敗北を喫した中西選手の方だった。

 

 

「半端ないって!」

 

 

 その言葉には、負けたことの悔しさと、大迫選手への称賛が込められていた。だからこそ、この言葉はそれだけ世間の心を動かしたのだろう。

 

 

 私は実のところ、サッカーには詳しくない。選手となると、それはもうサッパリで、小さい頃に耳にした覚えがあるベッカムくらいしか知らない。

 

 

 けれど、大迫選手と中西選手、そして「半端ないって!」という言葉だけは知っている。なぜかというと、みんなが言っているから。

 

 

 ああ、なるほど、これがコメント力か、てなことを、世間を眺めながら、私はぼんやりと思った。

 

 

 斎藤孝先生の『コメント力』を読んだのは、つい最近のことだ。というのも、かねてから私は自分のコメント下手をどうにかしたかった。

 

 

 コメント力は社会を生き抜いていく上で必須となるスキルだという。それは、その通りである。あらゆるところで、コメント力は求められる。

 

 

 そして、私はその度に失敗してきた。結婚披露宴で私に友人代表を任せてくれた彼女には、今でも謝り足りないくらいだ。

 

 

 思い返せば、小学生の頃、将来の夢を発表していく授業で、すでに私のコメント下手の片鱗は見えていた。

 

 

 あがり症なわけではない。ただ、短くまとめて話すのが苦手なのである。しかも、わかりやすくすることが私にはできなかった。

 

 

 面接。歓送迎会。発表会。スピーチ。プレゼン。社会のあらゆるところで、コメントを言う機会は与えられる。それも、どれも大切な場面で、逃げることができない。

 

 

 どうにかしないと、と切実に思っていた。そこで、手にしたのがこの本だった。教えてほしくても、誰も明確な答えを持っていなかったからだ。

 

 

 学校では、これほど大事なのに「コメント力」の鍛え方なんて教えてくれない。ただ、機会が与えられるだけだ。

 

 

 その本には、コメント力を鍛える方法まで書かれていた。瞬く間に、その本は私にとっての教科書になった。

 

 

 そう、私は今はもう、コメント下手ではない。練習を重ねたのだ。いろんな言葉が頭の中を駆け巡っている。

 

 

 一世に一度の大舞台。壇上に上がると、大勢の人たちの顔が見えた。どの顔も、期待に染まっている。

 

 

 彼らは求めているのだ。私の言葉を。私が、マイクを向けられて、果たしてなんと言うのかを。この栄誉に対して、どんな粋な返しをしてくれるのか、と。

 

 

 逃げたい。私はその場から今にも逃げ出したい衝動にかられた。逃げてしまえば、私の低いコメント力が露呈することはないはずだ。

 

 

 いや、でも、しかし。言葉にならない悲鳴が回る。考えていた言葉は、直前まで頭の中にあったはずなのだ。それなのに、今はもう、頭の中はどこもかしこも真っ白だった。

 

 

 インタビュアーから、私はマイクを受け取った。こめかみに一筋の汗が流れる。いや、考えなくていい。ただ、心の底からの叫びに応えるだけで。

 

 

「わたしは――」

 

 

コメント力が人生を変える

 

 日本人はコメント下手の国民である。気の利いたひと言を求められても、咄嗟に言葉が出てこない。

 

 

 何かについて意見や感想を問われたとき、割と形式的な言葉で始終してしまう人が多いのである。これでは日本人が非常に知力の低い国民だと思われても仕方がない。

 

 

 気の利いたコメントはあらゆる場面で求められている。「コメント力」のあるなしが、その人物の魅力や評価となるわけである。

 

 

 ひと言、ふた言で端的に自分の感じたことを表現しなければならない時に、気の利いたことが言えないと、何もわかっていないのではないかと思われてしまい、仕事のチャンスを失うだろう。

 

 

 私が現代社会を生き抜く必須の能力に「コメント力」を入れたのは、こうした時代の状況を強く感じたからである。

 

 

 欧米人にとって、人と同じであることは個性がないということであり、それは恥だという価値観がある。

 

 

 一方、日本では人と違い過ぎるコメントをすると、目立とうとしているとみなされ、あまり評価されなかった。その結果、日本人のコメントの質が低すぎる状況を生んでしまったのだ。

 

 

 コメントをするにはある種の覚悟が必要だ。コメントを求められている時は、自分の見識やオリジナリティの深さを問われているということを肝に銘じる必要がある。

 

 

 日本人のコメントの質があまりに低すぎるのは、コメントというものに対する意識がないからだ。

 

 

 意識的にひと言、ふた言の言葉の切れ味を良くしていくにはどうしたらいいかということを考えた時に、意識することが大切になってくる。

 

 

 この本ではいいコメントを集めてまとめて見ることによって、そのコツを掴み、「コメント力」を意識化することで磨いていきたいと思う。本書はそのためのトレーニング本である。

 

 

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