子どもの頃、ひどく怖くて今も忘れられない写真がある。二人の男と、彼らに手を繋がれた小さい、子どものような、けれど明らかに人間ではない、ヒトのようなもの。宇宙人。
科学が発展してきた現代ですら、今もなお、宇宙には多くの謎が残されている。私たちは宇宙の一端に住んでいながら、それがいったい何であるのか、きっと全てを把握することはできないのだろう。
宇宙人という存在が、いつ頃から言われていたのか。タコのような火星人や、頭の大きな子どものようなグレイなどは、よくイラストで見かける。
空に浮かんで不規則な動きをした後に超速で消えていく光点を、誰が呼んだか、未確認飛行物体、UFOと名付けた。それは宇宙人たちの乗り物とされている。
私たちは知らず、宇宙に心惹かれている。私たちが住む地球、それよりも大きな太陽といくつかの惑星を内包した銀河、それすらも、いくつもある銀河系のひとつに過ぎない。途方もない大きさだ。
友人から勧められたホーガン氏の『星を継ぐもの』は、聞くところによると、国を問わず人気の高いハードSF大作であるらしい。『巨人たちの星』シリーズの一作目であるという。
私は普段、SFには縁がない。気がのらなかったが、ともあれ、勧められたのならば頑なに拒否する理由もなかった。
ある時、月面で宇宙服を着たひとりの男の遺体が発見される。しかし、各国の組織に問い合わせてみるも、行方不明者は誰もいなかった。
では、その男は何者なのか。彼は便宜上「チャーリー」と名付けられた。やがて、研究の果てに信じられない事実が発覚する。
なんと、そのチャーリーは、およそ五万年前の遺体である、というのだ。彼はいったい何なのか。その正体を探るために、各部門の優れた研究者たちが集められた。
月面に残された五万年前の遺体。この設定だけでも、すでに途方もない。しかも「チャーリー」は、宇宙服を着ている。これをどう説明するのか。
次から次へと現れる巨大な謎。SFらしいトンデモな話だ。最初はどう着地させるつもりかと思いながら読み進めていたが、気がつけば、夢中になっていた。
新たに謎が判明していくにつれて、「本当にそうだったのではないか」とすら思わせる説得力。SFの超展開が、科学的な視点をもとに現実的なところに落とし込まれていく。
また、もうひとつの見どころは、二人の科学者、ハント博士とダンチェッカー博士の対立にある。
「ルナリアン」と呼ばれるようになったチャーリーは人間とは異なる地球外生物だと主張するハント博士と、チャーリーは自分たちと同じ人間であり地球出身だと主張するダンチェッカー博士。
真実は明らかになるのか。そうだとすれば、どちらが正しいのか。彼らの人間模様は、気がつけば目が離せなくなっていた。
読み終わって、息を吐く。SFというのも、たまにはいいのかもしれない。「宇宙人が侵略してくる」といった恐ろしいものとは違い、不思議な爽快感が余韻として残る作品だった。
そして思うのだ。この作品はフィクションだが、万に一つもありえない、というわけじゃない、と。
宇宙は未だ多くの謎に包まれている。もしかしたら、月面のどこかに、チャーリーのような存在が眠っているかもしれない。そう思うと、心なしか胸が躍る。
ああ、なるほど。これこそがいわゆるロマンというやつか。
月面の男の正体は
どこか深いところからゆっくりと浮かび上がるように、彼は意識を取り戻しかけていた。呼吸音は密閉されたヘルメットの中でやけに大きく耳を打った。
果たしてどれだけ多くが死んで行ったのか、彼は記憶を辿って考えた。いつまで持ちこたえられるだろう? それも、いったい何のために? そもそもゴーダに生存者が残っているのだろうか?
「何はともあれ、ゴーダまで辿り着かなくては」
彼は目を開けた。何十億という星が瞬きもせず冷ややかに彼を見下ろしていた。
「ああ、いくらか気分がよくなったな、兄弟」ヘルメットの中のスピーカーから張りのある明るい声が聞こえて来た。「太陽もだいぶ傾いた。急がなきゃあ」
「どこだ、きみは?」「きみの右手寄りの、低い崖を越えたところの高台だ。ほら、ちょうど……斜面の下に大きな岩がかたまっている。
彼は視線を転じ、ほどなく墨汁のような空を背景に明るいブルーの斑点のように見えている人影を認めた。ブルーの斑点に焦点を結ぶと巨人コリエルの姿がくっきりと視野に浮かんだ。
「高台から向こうはずっと平らだ……しばらくは歩きやすいだろう。ここへ来てみろよ」
「もうだめだ……動けない……」
彼はコリエルが立っていたあたりを振り返った。すでにコリエルは斜面を降りて岩陰に隠れ、交信は遮られていた。一、二分後、巨人はすぐ近くの岩の背後から姿を現し、軽々と大きく跳躍しながらやって来た。
「しっかりしろよ、兄弟。さあ、立つんだ。向こうでおれたちを頼りにしている連中がいるんだ」
彼は腋の下を掴んで抱えあげられるのを感じながら抗う術もなかった。彼は巨人の肩章にヴァイザーを付けた頭を預けた。
「わかったよ」やっとのことで彼は言った。「行こう」
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