生産性を高めれば未来が手に入る『自分の時間を取り戻そう』ちきりん


「くそっ、またやられた!」

 

 

 彼は時計を見て愕然とした。何度見直しても、時計の短針は五時を指している。まだまだ時間はあると思っていたのに。

 

 

 通報を受けて現れた警察に、彼は事情を説明した。出勤して、仕事をしているうちに、時計の針が異常なほど進んでいたという事実を。

 

 

「間違いない、奴だ。おのれ、時間泥棒め」

 

 

 時間泥棒。それは、最近世の中を騒がせている怪盗の通称だった。警察が総出で捜査しているものの、その姿を見たものはいない。

 

 

 その怪盗の特徴は、宝石や金品を狙うわけではない。奴は時間を盗む。それが、警察の頭を悩ませている一因だった。

 

 

 時間を盗まれると、今回の被害者のように、気が付けば時間が過ぎてしまう、という事態が起こる。

 

 

 しかし、何よりも怖ろしいのは、盗まれた被害者に自覚症状がないことだった。彼らは決して怪盗の姿を見たことがない。盗まれたと気がついた時には、すでに失っているのだ。

 

 

 対策本部では、喧々諤々とした議論が交わされていた。すでに被害件数が膨らんでいる中、このまま時間泥棒に好き勝手されると警察としての沽券に関わる。

 

 

 しかし、目撃証言はなく、それどころか、物を盗むわけでもない。時間を金庫に保管することなどできるはずもなく、防犯を呼び掛けることも難しい。

 

 

 交わされる議論もどこか捨て鉢のようなものだった。熱のあるようで、その実、中身の詰まっていない。時間と人間関係の摩耗だけを生み出す会議である。

 

 

 そんな中、ひとりだけ議論に参加していない刑事がいた。彼の目の前にはノートパソコンが置かれ、先ほどから何やら見ているようだった。

 

 

「おい、お前! 何をさぼっている! 今は会議中だぞ!」

 

 

刑事部長がそれを見咎めて怒鳴る。すると、会議の面々が彼に注目していることに気が付いたのか、動画から顔を上げて、その刑事は気だるげに言った。

 

 

「いや、動画を見ているんすよ」

 

 

「動画だと!」

 

 

「ええ」

 

 

 サボりを咎めたにもかかわらず、あまりにも平然としている刑事に、刑事部長は逆に戸惑ったようだった。顔を真っ赤にして暴発する。

 

 

 他の面々は巻き添えを怖れて黙っている。しかし、刑事部長に賛同しているのか、男に咎めるような視線を向けていた。

 

 

「貴様、なんだその態度は!」

 

 

「いえいえ、ただ、無駄な会議に時間を費やすのはまずいと思いましてね」

 

 

 見て下さいよ、時計。彼に促されて時計を見た面々は愕然とした。時間は二時間も経過している。刑事は皮肉気に笑った。

 

 

「みなさん、今、格好の餌食ですよ、奴の」

 

 

「だ、だったら貴様はどうなんだ! パソコンで遊んでいるだけじゃないか!」

 

 

 図星を突かれた刑事部長が苦し紛れに彼に反撃すると、彼は黙って自分のノートパソコンのディスプレイを会議の面々に向けた。

 

 

「な、なんだそれは?」

 

 

「Youtubeですよ」

 

 

「お、お前、会議中に動画を見るなど……」

 

 

 額に青筋を浮かべて叱責の言葉を言いかけた刑事部長に、刑事は「まあ待ってくださいよ」となだめる。

 

 

「これは『KAMA 【本要約】Book Radio CH』というチャンネルでね、本の要約をしている動画を投稿しているんですよ」

 

 

「それが捜査と何の関係があるというんだ!」

 

 

「私が注目したのは、投稿されている、この動画です」

 

 

 それは『自分の時間を取り戻そう』という本を紹介している動画である。タイトルを聞いた途端、会議室の空気が変わる。

 

 

「時間泥棒は無駄な時間の浪費を狙っているのは、これまでの事件を見ても明白です。俺はその対策の鍵がこの動画にあると感じました」

 

 

 それは対策本部の面々にとって盲点といってよかった。よもや動画や本にヒントがあるとは思わなかったのだ。

 

 

 本を読む時間など、警察にはない。しかし、要約した動画であれば簡単に理解できる。動画の時間は十五分前後。今まで会議で無駄に費やした時間よりもよほど短かった。

 

 

 今や、ただの動画だと彼を叱るものなどいなかった。誰もが、ようやく見えた光明に縋るように目の色を変えて、真剣な表情を見せる。

 

 

 『自分の時間を取り戻そう』はちきりんという人物が書いたビジネス書である。刑事部長が、タイトルから想起される疑問を口にした。

 

 

「自分の時間を取り戻す、ということは、盗まれた時間を奪い返す、ということかね?」

 

 

 盗まれた時間の奪還。すなわち、窃盗品の被害を取り戻そうというのだ。しかし、刑事は首を横に振る。ものではなく時間である以上、盗まれたものを取り戻すことは不可能だと述べたのだ。

 

 

「俺はこの動画で解説されているやり方を応用すれば、時間泥棒への防犯につながるのではないかと考えました」

 

 

 こちらを、と刑事が見るように促したのは、その動画で要点として語られている『生産性を上げる』というところだった。

 

 

「生産性……」

 

 

「ええ、そうです。生産性を向上させることで、時間の無駄な浪費を減らします。そうなれば、時間泥棒は盗む時間がなく、防犯にもつながるでしょう」

 

 

 おお……、と対策本部に感嘆の声が漏れる。それはたしかに有用な手のように思えた。刑事は責任者である刑事部長に不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「どうです? やってみる価値があると、思えませんか?」

 

 

覚悟を決めたように、彼らの表情が引き締まっていく。それは獲物を見つけた猟犬を思わせた。刑事部長が、厳かに頷いた。反撃の狼煙が上がる。

 

 

生産性が大切

 

 自分の時間を取り戻そう。この本のタイトルは、仕事や家事、育児に多忙な日々を過ごしているすべてのみなさんへのメッセージです。

 

 

 多くの人がさまざまな理由で、忙しすぎる生活を「避けられないもの」「自分が頑張って乗り切るべきもの」として受け入れてしまっています。

 

 

 でも、本当にそうなのでしょうか? この多忙な生活を脱する方法は、どこにも存在しないのでしょうか?

 

 

 私はあまりに多くの人がそんな生活を当たり前のように受け入れ、時には体や心を壊すまで頑張ってしまう現状を、普通のこととして受け入れるべきだと思えないのです。

 

 

 最近は政府も長時間労働を是正しようと動き出していますが、「働く時間を短くしましょう」「はい。そうしましょう」と言って問題が解決できるほどコトは簡単ではありません。

 

 

 今回の本では、二つの異なる視点からこの問題にアプローチしました。超多忙な生活からの脱出方法について考える視点と、今の社会の変化の本質に焦点を当てた視点です。

 

 

この二つの視点をもって見ると、そこには共通する、ひとつの「答え」が浮かび上がってきます。

 

 

 本書を読まれた皆さんが自分の時間を自分の手に取り戻し、やりたいことを実現できる「自分の人生」を謳歌できますよう、この本によってそのお手伝いができることを、心から願っています。

 

 

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