微差を追求すると人生が楽しくなる『微差力』斎藤一人


「不思議なものだよな」


 

 何が。私は彼の言葉に首を傾げた。その言葉は、少なくとも、今、この時に出てくるようなものではないように思えたからだ。

 

 

 眉をしかめる彼の険しい視線は、テレビの画面に向けられていた。そこには、短距離走の大会が報ぜられている。

 

 

 優勝した選手が満面の笑みで手を挙げていた。インタビュアーの言葉に、はきはきと答えている。

 

 

 けれど、彼が注目していたのは、その選手ではなかった。表彰台の、彼よりも一つ下の段に乗った、つまり二位だった選手である。

 

 

 彼は一位の選手のライバルと目されているらしい。年齢や生い立ちが近く、彼らを対比して報道しているメディアは多かった。

 

 

 本人たちも互いに意識しているのだろう。プライベートでは仲が良く、スポーツの場では切磋琢磨する仲間として。

 

 

 彼は涙を流していた。顔をくしゃくしゃに歪めて、豪快な男泣きだ。彼はその選手のことを不思議だと言ったらしい。

 

 

「で、彼の何が不思議なの」

 

 

 ほら、見なよ。彼が指したテレビの画面では、ちょうどゴールの瞬間が再生されていた。

 

 

 一位と二位は本当に僅差だった。ほんの指先ぐらいの、わずかな差でしかない。

 

 

「あの人たちはさ、足が速いんだよな。あの場所には、日本人の中でも足が速い人たちが集まっているんだよ」

 

 

「う、うん、そうだね」

 

 

 どうして今さらそんな当たり前のことを言うんだろう。私はわけがわからなかった。

 

 

「あの人たちの、一位と二位の差はほんの一秒よりも小さな時間しかない。一位と最下位ですらほんの少しの差しかないんだ」

 

 

 うん、それが。

 

 

「それでも、あの人たちは勝者と敗者がはっきりしている。それを、最下位の人にも追いつけやしない俺たちがあの人たちの走りや結果にいろいろと口を出しているんだ」

 

 

 どの口がそんなことを言っているんだよ、とか、思うわけだ。どうして誰よりも遅い俺たちがそんな上から目線で言えるんだってな。

 

 

「俺たちが大差だと思っていることも、本当はほんの小さな差異でしかないんじゃないのか。俺はそう思うんだ」

 

 

実態と幻想

 

 彼の話を聞いて思い出すことがあった。先日、仕事の上司に勧められて読んだ斎藤一人先生の『微差力』という本だ。

 

 

 スポーツ選手たちはコンマ一秒の世界で戦い、テストの点数はほんの一点の差で合否が左右される。

 

 

 けれど、人はそのほんのわずかの数字に一喜一憂する。二位の選手のように、悔しさに涙を流すことすらある。

 

 

 私たちの目には、ほんの小さなことでも、実際の何倍、何十倍にも大きく見えているのかもしれない。

 

 

 ふと、私は考えた。それならば、それを逆手に取ることもできるのではないか、と。

 

 

 たとえば、物を売った時、そこにほんの少しだけ、おまけのひと品を足してあげる、とか。

 

 

 あるいは、感謝の言葉を記したメッセージカードを書く、だとか。

 

 

 そんな小さなことでも、受け取った人たちは、大きな好感を抱いて、また買ってくれるようになるのではないだろうか。

 

 

 私はふと、そんなことを考えた。そして、それは思いつきにしてはいい考えのような気がした。彼に提案をしてみると、しかし、彼は困ったような表情を見せた。

 

 

「ううん、でも急にやり方を変えるのは難しいんじゃないか」

 

 

「急に、じゃなくてもいいんじゃないかな」

 

 

 だって、それこそ微差力なのだから。ほんのちょっとずつ、小さなことから、変えていっても、いずれは大きな変化になるのだから。

 

 

小さな力が大きく変える

 

 この世はどういう道理でできているかというと、微差が大差。微差が大差を生むのです。

 

 

 人生って、なんでも、ちょっとした微差で大差なのです。微差と言っても、嫌なものの微差はダメですよ。いいほうの微差ですよ。いい方の微差が、大差を生むのです。

 

 

 人間界って、おもしろいですよ。人間は、だいたい同じような波動の人と一緒にいるのです。

 

 

 その中で、一個だけ差をつけると、ちょっと、頭一個分、上がります。頭一個分上がる、それだけで十分です。

 

 

 自分がいる業界、職場でも、一番の人がいますよね。その人がやってることを、じぃーと見て、いいことをマネすればいいんです。

 

 

 そこに脚立分だけ、ちょっと、微差をくっつければいいだけなのです。そしたら、大差です。わかりますか?

 

 

 すべての成功とは、期待以上。期待どおりは、普通です。期待以下は、消えていくしかない。期待以上で、はじめて、プロなのです。

 

 

 では、期待以上とは、何か。期待通りでは、人はもう飽きちゃう。期待以下は論外です。常に、期待以上。

 

 

 常に、微差、微差でいいから、常に上にあげればいいのです。どんな仕事でも、それをやって、はじめて、おもしろくなってくるんですよ。

 

 

 人に期待以上を求めるのなら、自分だって、人の期待以上のものを出した方がいいですよ。

 

 

 期待以上。どのぐらい相手を喜ばせられるか。どのぐらい相手を感動させられるか。これにつきます。

 

 

 それで、期待以上って、みんなが思っている以上に、難しくないんです。期待以上のものを出すというのは、「期待以上のものを出す」という決意があればいい。

 

 

 期待以上を続けてれば、天も味方するし、世間も味方する。すべてが味方してくるのです。だから、決して難しいことではありません。

 

 

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